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救命艇の叛乱-文化出版局
救命艇の叛乱


お待ち The Wait キットリード 訳:浅倉久志 の あらすじ


ミリーとママの旅行も、終りに近づいていた。
ミリーの高校卒業を祝って、二人で南部を回ったのだ。

「ここは、どこかしら」
「少し迷ってしまったわね」

国道から降りて、見知らぬ街を回った。

「ねえ、ママ。あのお店素敵だわ。あんなに大きくて、綺麗なお店でもだめ?」
「何度言ったら判るの。あなたには、高校を卒業したら、ビジネススクールに半年行って、
   どこかの会社のオフィスに勤めて欲しいの。お客商売の女に群がる男なんて、
   ろくなもんじゃないわ。秘書になるのよ。そうしたら、将来有望な男性とお近づきになれるわ。
   でも、気を許しちゃダメ。デートで軽い女と思われたら、結婚して貰えないわよ」

二人は公園に降りて、休んでいた。
「...だから、そのためにママは貴方を女手一つで立派に育て...」

その時、木陰にいた、ご婦人から声をかけられた。
「すいませんが、薬を取って頂けませんか」

薬を取ってあげると、その婦人は自分の症状を伝えて、二人に尋ねた。
生理不順らしい。
「わたしの病気の特効薬をご存知ですか?」
「あいにく、存じません...じゃあ、ママ行きましょ」

「ミリー、なんだかママも、具合が悪くなって来たわ」

ドラッグストアでは、汚れた白い服を着た女性が店員と話しをしていた。
「...マイラは二日座っただけで、済んだんだって、でも来週結婚だから、
   その前に、その男ともう一度会うんだって...」

結局、良い薬もなく、ミリーとママは車に戻ろうとした、
しかし、途中でママは崩れ落ちてしまった。

ミリーは叫んだ。
「誰か、お医者さんを呼んで下さい。母が倒れてしまったんです!」

人々は、二人を取り囲むだけで、何もしない。
しかし、一人の40歳ほどの男が現れた。

「お嬢さん、私が見よう」
「お医者様ですか?」

「いや、そうじゃない。でも覚えはある」
「たぶん、脚の腫れ物が膿んできたのが、原因かと」

男は母の靴を脱がせ、赤く剥けた箇所を皆に見せた。
「誰か、この症状が判る者はいるか?」

「あたしの腕に出来た腫れが、こんな感じだったわ」
「こりゃ抗生物質に決まってる」
「破傷風だろう。すぐに隔離しないと」
「俺がかかった腸チフスかも...ま、ちがうとは思うが」

「わかった、わかった。これは難病だ。みんな、この症状を良く見て、家や職場で話すんだ。
   そうすれば誰か知っている者に行き当たる。助け合いだ」

くるしむ母は、ドラッグ ストアのご主人がくれた"万能薬"を飲んだ、「睡眠薬」。

人々は去って行った。

「とりあえず私の家に来なさい。お母さんの具合が良くなるまで、泊まって行けば良い。
   娘はあなたと同じ年頃だ。話し相手にもなる」

二人は男の家へ行った。

「わしらの、やり方が不思議かい?そうかも知らんが、これでわしらは問題なくやっとるんだ。
   今の医者は専門的で、訳のわからん事で、金をふんだくる。この町も昔はそうだった。
   でも、みんな気が付いたんだ。誰もが病気になった経験がある。誰もが自分の病気に関しては
   誰よりも知っている。ならば、町中の全員が、お互い病気を見たらどうだろう。
  
どんな病気も誰かが知っている。医者はいらない。もしも、町の誰もが判らなければ、公園で待つ。
   他所の町から来た人から情報を得る。それで解決さ」

「じやあ、公園にいた、あのご婦人も、そうなの...」
「そうさ。だから、この町には医者はいない。みんなが無料で、療法を教え合っているからね。
   だから、お母さんも俺達が治す!」

二人は、この町で少し過ごす事になった。
ミリーはドラッグストアの店員の仕事を見つけた。
同僚の子が言う。
「あんた、都会から来たんだって?じゃあ、もう済んでるのね。"お待ち"をする必要はないわね」
「何、"お待ち"って?」
「知ってるくせに!」

母は毎日公園の木陰で長椅子に座り、旅人に声をかけていた。
「私の脚の病気の事を、ご存知ありませんか」

ミリーはこの家へ帰ろう、と母に言うが、
母は、この町のご婦人方とすっかり仲良くなって、
病気が全快するまで、逗留するつもりらしい。

やがて、ミリーにもトミー クラークと言うボーイフレンドが出来た。
トミーの父はこの町の有名な実業家で、母も大賛成だった。

「ねえ、トミー。私、この町を出ようと思うの」
「僕の事が嫌いになったのかい」

「あなたの事は好きよ。でも、この町になじめないの。
   私も18だから、都会で大きな会社に勤めたいのよ」
「18歳だって?まだ15歳くらいだと、思っていた。なら知り合うんじゃなかった。
   知り合いじゃあ"お待ち"の相手にはなれないから」

「"お待ち"って何なの」
「もちろん、あの事さ。じゃあ、二週間ほど経ったら会いにくるよ。
   君なら、そんなに時間はかからないだろうけれど」


ミリーは母の友人のクラーク婦人に連れられて、畑のところに来た。
白いドレスに着替えろと言われ、着替えてきた。

「いい事。ここに座って男の人を待つの。知っている人じゃだめよ。必ず、見知らぬ人だけ」
そして、青い毛糸の玉をミリーに渡すと行ってしまった。

畑には、既に二人の少女が"お待ち"をしていた。
一人は、ミリーがドラッグストアに勤め出してすぐに、いなくなった少女だった。

畑の周りをうろうろしている若いハンサムな男がいた。男は、その少女の毛糸をたぐるとと、
少女の所に来た。少女はにっこりして男と腕を組んで、茂みへと消えて行った。

「ああ、また私じゃない。綺麗な子はどんどん先に行くわ」

もう一人のあまり器量の良くない娘が、ミリーに話しかけた。
「あの人達、何するの?」
「知らないの?"お待ち"よ。ここで白いドレスを着て待っている娘は、言い寄って来た男と寝るのよ。
   大人になる儀式だわ。相手が誰でもイヤとは言えないの。さっきからうろついている、
   あの中年の禿男!あんなのに目を付けられたら嫌だわ」

ミリーは驚いて、家に走り帰った。そして、この町の恐ろしいルール"お待ち"の事を説明した。

「ママ、すぐに、この町を出ましょう!見知らぬ男となんて、絶対にイヤ!」
「でも、この町で、あの素敵なクラークさんの息子と、結婚するんじゃないの?」

「そうよ。だけど、"お待ち"は絶対にイヤ!」
「でも、考えてごらん。"お待ち"を経験しないと、この町の人にはなれないのよ。そして、
   この町の人間にならなければ、トミーとは絶対に結婚できない。ママのためだと思って
   "お待ち"を経験するのね。それに、ママは"お待ち"の事は、とっくに知っていたのよ」

ミリーは畑に戻った。畑の周りには、あの禿中年と、もう一人長身のハンサムがいた。
しかしハンサムな青年は、別の少女を連れて茂みに行ってしまった。

ミリーはがっかりして、畑の周りの杭に腰を下ろした。

..............


"恐怖小説"で良いんだと思いますが、作者のキットリードさんは女性だそうです。
たしかに男には、ちょっと書けない話しですね(少なくとも"恐怖小説"のジャンルでは)。

この話、前半の知識人否定は文化大革命のようだし、後半とは別の話になっているのですが、
後半の衝撃が強くて、読み終わると前半の件は忘れてしまいます。

記:2011.05.15

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三分 小説 備忘録

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