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『小松左京フライバイガイド』 2001年11月号


−−−−−−−−−−−−−−− 刊行予定 −−−−−−−−−−−−−−−−−

◆11月1日 「ゴルディアスの結び目」スペイン語版、インターネット上で公開。

◆11月20日号「京大学生新聞」500号記念名刺広告欄に、「小松左京マガジン」
の広告を掲載。


−−−−−−−−−−−−−− 講演・放送 −−−−−−−−−−−−−−−−−

◆11月8日 山梨リニア実験センターにてリニアモーターカー試乗。

◆11月17日                   大手前大学伊丹キャンパス
 日本生活学会公開シンポジウム「グローバリゼーションと食」
  パネリストとして参加。他に秋野晃司、石毛直道、松平誠、水野明子、各氏。


−−−−−−−−−−−−−− 臥猪庵 hic −−−−−−−−−−−−−−−−−

霜月(11月)10日

 8日、山梨のリニアモーターカー実験線に試乗してきた。
 前日、新宿からあずさ59号に乗って大月まで行き、車で富士吉田のホテル・ハイ
ランドリゾートについたのは、午後3時。富士山を目の前に臨むすばらしいホテル。
アコモデーションもインテリアのセンスもなかなかいい。レストランが開く5時まで、
最上階12階のカクテルラウンジ「ル・ミストラス」で、シェリーを一杯。一方の窓
は富士山が正面にめいっぱい広がり、もう一方は富士急ハイランドの観覧車が見える。
お客は我々三人だけで、貸し切り状態だ。6日に大阪から東京に来るときにも、久し
ぶりに真っ青に晴れた空に雲一つない富士の姿を見て、感動してきたところ。
 しかし、ここからの富士山は、すそ野から頂上までをすべて見せている。その稜線
をたどると宇宙へとつながっているように見え、リニアモーター・カタパルトを第一
段ロケットのかわりに使ったら、という「妄想」をさらに強くした。
 8日の朝6時半に目を覚まして外を見ると、富士山がくっきりと見える。雲は懸か
っていない。しかし、9時に出発するときには三重の笠をかぶっていた。これは珍し
いことだという。
 例年より遅いという紅葉を見ながら、車でリニア実験センターに向かう。
 富士吉田の街は人口5万人。吉田の殿様がおさめていて、お城もあるそうだ。「観
光になるようなところじゃありませんが」とは、タクシーの運ちゃんの弁。商店街も
「シャッター通り」と呼ばれるほど、駅前の大型店ができてからはシャッターの下り
た店が多いとのこと。
 実験センターは、見学センターと隣接していて、タクシーだとたいてい見学センタ
ーの方でおろされてしまう。我々も例に漏れず、外の崖道を下りて実験センターまで
歩かされた。
 事前説明を受けた後(といっても、ほとんど私が質問責めにしていた観があるが)、
リニアに搭乗。飛行機の搭乗口のようなところから乗る。磁気シールドのため、ホー
ムと走行レーンを隔離しているらしい。車内は在来の新幹線より一回り小さく、座席
は4席。しかし、荷物の棚や前の座席の背からテーブルが出たり、リクライニングに
なったり、お姉さんがおしぼりを配ってくれたり、いつでも「お客」を乗せられるよ
うな仕様になっている。私はテーブルを出して待っていたが、「お飲物」のサーブは
なかった。
 300キロ、450キロ、400キロと体験したが、それほど高速感はない。10
0キロまではゴムの支持脚を出して走行し、100キロ以上になると支持脚が中に収
まって10センチ浮上した状態で走行する。支持脚の方が4センチほど高いので、浮
上したとき、逆に沈み込むといわれたが、よくわからなかった。90秒で450キロ
になるという加速度も、それほど感じないで、「のぞみ」のような大きな横揺れはな
い。小刻みな振動はあるが、これは超伝導推進磁石の設置ムラのせいらしい。。車外
のビデオカメラが映す映像と、どんどん変わる速度表示の数字によって、かろうじて
自分の移動状態を認識できる。窓があってもほとんどトンネルなので、外の景色との
相対観はもてない。しかし、あとで指令センターから300キロ走行と、450キロ
走行を外から見たときに、そのスピードを実感することができた。300キロだと目
で追うことができたが、450キロになると、あっという間に通り過ぎてしまった。
3両編成だから、全長80.3メートル。秒速125メートルだから、1秒足らずだ
ったわけだ。300キロだと秒速83メートルだから、何とか1〜2秒は見ていられ
る。この差は大きい。300キロがいやに遅く感ずるのだ。
 とにかく、実際に乗った感想としては、これは、いつでも実用化できるということ
だ。東京と大阪が一時間で結ばれるということの意味は、戦後だけでも、特急で7時
間半かかっていたのが新幹線で3時間になったことによって、どれだけ大きな恩恵を
もたらしたかを考えてもわかる。
 夜の懇談会で、私はしつこくリニアモーター技術を宇宙ロケットの第一段ロケット
に使えないか、ということを聞いたのだが、鉄道屋さんにとっては、あまり考えたこ
とのない世界のようだった。しかし、その技術はもっと広い可能性の中で考えるべき
だと思う。

霜月(11月)13日

 スーパーカミオカンデの光電子増倍管が大量に破損したとのこと。いったいどうし
てそんなことになったのかわからないが、直径40センチもの手吹きガラスの増倍管
が1万1146個もあったのだ。何らかの加減で、一個ぐらいひずみが出たのかもし
れない。しかし、あわてることはない。ニュートリノは逃げやしないのだから。「め
げずにがんばってほしい」と戸塚洋二先生にメールを送った。

霜月(11月)14日
 
 さいとう・たかをさんと対談した。恥ずかしながら、「モリ・ミノル漫画全集」が
来年1月末に出るので、その第4巻に掲載する。また、ビッグ・コミックにも載る予
定だ。赤本時代の話を伺った。彼は私より5歳年下だが、色々な仕事で社会勉強をし
て17歳で一人前の漫画家になったというだけに、ストーリーの組み立てがしっかり
している。読者のマーケティングもきちんとして、「お客様」を喜ばす「ツボ」を心
得ている人だ。それを自分でも意識的にしてきたのだ、ということを今日、確認した。
それにしても、日の丸文庫で私の漫画をみたといっていたのには、冷や汗ものだった。


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