「無党派市民」平成22年度予算要望

土建コンクリート政治から人間と緑の政治へ

 

1、世界の転換と日本の新しい政治

 

 昨年の予算要望ではリーマンショック後の米国の経済破綻と世界的経済危機を受けて、新自由主義、市場原理主義、過度の自由貿易主義の破綻と、この危機の背景を分析した。そのうえで、会派「無党派市民」は選択的成長政策を伴ったエコロジカル・ニューディール政策こそ、日本が未来を切り開く戦略的課題であることを提唱した。この提唱は、平成10年の日本の金融危機以来主張し続けてきたことである。これは1969年にノーベル経済学賞を受けたオランダのヤン・ティンバーゲンに起源をもち、日本では力石定一法政大学名誉教授が提唱してきた考え方である。土建国家型の経済運営から日本が脱却する必要を訴え、都市住宅地域を代表する世田谷区がその先頭に立つべきであることを訴えてきた。

 幸いなことに世界の情勢と日本の政治は、この1年間で会派「無党派市民」が主張した方向へダイナミックに転換しつつある。

 米国の大統領選挙は予想通りオバマが勝利し、経済政策としてグリーン・ニューディール政策を提唱するにいたった。この政策と概念はエコロジカル・ニューディールそのものである。その結果、麻生政権でさえ日本版グリーン・ニューディールを言い出し、エコ政策がまがりなりにもとられるようになってきた。

 しかしながら、貧困と格差を拡大させた小泉路線との決別を表明するわけでもなく、ダイナミックな政策転換を提唱するでもなく、ただただ旧来型の土建型あるいはばらまき型公共事業を続けた麻生政権は本年8月30日の総選挙で雪崩を打つように敗北し、民主党に政権を譲り渡さざるを得なかった。

 総選挙に勝利し、政権の座に就いた民主党の鳩山代表は政権公約、いわゆるマニュフェストの中で、「政治とは、政策や予算の優先順位を決めることです。私は、コンクリートではなく、人間を大事にする政治にしたい。」と無駄な公共事業への税金投入をやめ、税金の使い方に優先順位をつけるとして登場した。

鳩山新政権は八ツ場ダムや川辺川ダム凍結に象徴される公共事業見直しとそのための補償法案の準備、天下り禁止や官僚専横からの解放、2020年度までの温室効果ガスの25%削減を掲げた環境立国への意思表明とダイナミックな政策転換を打ち出している。

 

2、自民党目線に終始した熊本区政

 

 9月から始まった決算議会で、「無党派市民」は一般質問において、熊本区長が昨年8月より本年8月末の総選挙が終わるまで、この総選挙で落選することとなった自由民主党代議士の越智隆雄氏の後援会長であったことについて、これはふさわしくはないのではないかと、区長としてのその道義的責任を質した。

熊本区長は越智候補の落選の責任をとって選挙の翌日、後援会長を辞任したと答弁した。まさに選挙の当落の責任を担う立場、候補者と一心同体となる後援会長という役割を担っていたわけである。

確かに、政治家である区長は、自らの政治的信念に基づいて行動することは自由だ。選挙戦の際、特定の候補者を応援することもありうる。しかしながら、かつて所属していた自由民主党の党籍を離れて、無所属で区長に立候補し、当選して2期にわたり区長を続け、日頃、区民目線で仕事をすると標榜している熊本区長が特定候補者の後援会長となって活動するということになるとちょっと違う。これでは区民目線ならぬ自民党目線、あるいは選挙を抱えていた越智隆雄代議士目線で仕事をしてきたと取られても仕方がない。

 

3、土建政治がさらに進んだ一年

 

この1年の熊本区長の区政への対応は、まさに総選挙を意識した区政運営であった。麻生政権と連動し、緊急経済対策として補正予算が取られたが、これは土木工事の前倒し発注やプレミアム商品券の発行等、土建型公共事業やばらまき型の景気刺激策であった。

 世田谷区内においては小田急線連立事業関連の下北沢地域や経堂地区の大規模再開発や交差する都市計画道路の事業が促進の方向で進められた。歩いて楽しめる街・下北沢をまもれという声に世田谷区は残念ながら答えようとはしていない。

また京王線の連続立体交差事業は、構造形式の議論を先送りにする中で沿線各駅ごとの「街づくり」と称する事業の地ならしが世田谷区主導で行われてきた。この手法は小田急線での連続立体交差事業を踏襲するものであるが、相も変わらず連続立体交差事業調査等の基本情報の秘匿のみならず、露骨な情報操作が仕組まれてきた。

二子玉川においては超高層再開発が世田谷区の支援のもとに行われ、超高層タワーマンションが出現し、周辺の道路整備事業も加速される中で、荒廃した風景が広がっている。

二子玉川の暫定堤防の問題では、多摩川全域の河川管理の全体像を示さないままで、土建開発促進ありきの姿勢で臨む国土交通省と地元住民との間に紛争を引き起こしているが、区は国土交通省河川局の姿勢に追随し、住民の声を聞こうとはしていないので、住民から抗議の声が上がっている。

また、団地の建て替えにともない、一団地認定の解除による用途の緩和で高度利用を促進するパターンが繰り返された。生産緑地に関して言えば、区が買い取り義務を怠ったため生産緑地の解除も進んだ。とりわけ、区が景観指定をした「喜多見慶元寺三重塔の見える風景」を構成する生産緑地の一部が解除されるに至っては無策というよりほかない。一方、住環境や緑が掘り崩されてゆく状況にあって、地下室マンション規制条例や農地保全方針策定等の努力は見られたが、いずれももっと早くから実施できた政策であり、対応は後手に回っている。

 外郭環状線問題については、区長自らが促進の方向で対応しており、事業凍結・廃止や環境影響を極力抑えるための地下ジャンクションへの転換要求に応えようとはしていない。

 

4、区政も転換されなければならない

 

政権交代から1カ月を経たばかりだが、「コンクリートから人間のための政治へ」とのマニュフェストに基づいた政権は、その実現に向けて動き出している。エコロジカル・ニューディールを唱えてきた「無党派市民」としては、おおむね支持するところである。

八ツ場ダムの事業凍結と見直しに象徴されるよう、個別の間違った公共事業を一つ一つを見直すと同時に、土建重視の経済システムから新たな成長戦略をも伴った人間重視・環境重視の経済システムにシフトさせていく戦略と見通しが必要である。

新連立政権こそ、その戦略と見通しこそ具体的に示すべきであるが、世田谷区においても、時代の流れに抗うことなく、土建型政治からの転換が望まれる。

無党派市民としては、予算についてのあれこれの詳細を要望するということは差し控える。

 以下の点を区の政策とし、予算編成に取り組むことを要望する。

 

1      土建型政治を清算すること。間違った公共事業は即刻止め、不要不急な土建型公共事業は差し控えること。

2      三層構造をとる世田谷区は、地域分業を推し進め、IТ技術や区内交通体系を改めれば、一極に集中した過大な庁舎を置く必要はない。したがって、現庁舎の改築による大規模化・高層化は避け、現庁舎の文化性を生かした改修にとどめること。

3 急増する世田谷区の人口は高層マンションの急増に伴っている。高層マンション・高層ビル誘導政策を改め、低中層住宅と緑を守り育てること。

4 外郭環状線は中止し、不足する南北方向の交通としては地下方式で構想されているエイトライナーを早期に導入すること。

5 車使用の抑制のために、路面電車・LRTの導入を含めた公共交通体系を確立すること。

6 SPM2.5対策を含めた大気汚染対策を東京都区にと協力して、早急に行うこと。

7 踏切解消を行うことと道路新設、駅周辺再開発がセットでおこなわれてきた連続立体交差事業の仕組みを改め、地域に見合ったものとするよう国に働きかけること。

8 小田急線連続立体交差事業での沿線の道路新設や高層再開発を抑制の方向でみなおすこと。

9 歩いて楽しめる街・下北沢の魅力を守り、カーフリーの街から生まれる文化を守り育てること。区内にカーフリーの地域を増やすこと。

10  経堂駅周辺の高層再開発を止め、周辺の住宅地の環境を守ること。

11 豪徳寺や世田谷城祉・世田谷八幡、喜多見の慶元寺・氷川神社・稲荷塚古墳等の歴史的文化的資産と州への緑を不動産開発から守ること。

12 京王線の連続立体交差事業は高架計画を残さず全線地下化に転換すること。

13 京王線沿線の道路新設や高層再開発を見直すこと。

14 二子玉川の高層大規模再開発を止め、風致地区はこれにふさわしい景観と自然に調    和した住宅地域として守り育てること。

15 多摩川の河川管理は上流市町村を含む広域の管理の問題としてとらえ、対策を見直すこと。

16 バブル期の遺物である河川流域の高層化を目的としたスーパー堤防構想を見直すこと。

17  総合的な河川管理策を検討し、流域住民の合意を得られない暫定堤防のあり方を   見直すこと。

18  環境型・福祉型の事業を、雇用転換と経済成長に資する形で工夫して起こすこと。

19 太陽光発電については、防災施設でもある小中学校を中心に体育館屋上等をも含めた大容量の発電設備の設置に先鞭をつけること。

20 日本最大の住宅都市として、住宅系太陽光発電や燃料電池、コージェネレーションなど新技術の開発と普及に協力し、先鞭をつけること。

21 ごみ問題に関しては、全てのごみの回収を生産時にビルトインした生産流通システムを創設するよう国に働きかけるとともに、全てのごみを燃やすことを促進しているガス化溶融炉を廃炉とする施策に転ずること。

22 福祉型産業のモデルを提供できるような福祉政策、福祉人材育成政策をとること。

23 新自由主義・市場原理主義で広がった格差を是正するとともに、弱者救済の施策を幅広く講じること。

24 ユニバーサルデザインについては、「公民権的」概念と言われた出発の原理・原点にさかのぼり、少数者の権利擁護こそが万人の権利となるように、スパイラルアップの方法やソフト面も含めて徹底されるよう、政策を推進させること。

25 生産緑地の宅地への転用誘導政策を止め、生産緑地は生産緑地としての正当な価格で売買されることとし、区の買い取り義務を履行するための基金を設けるとともに、買い取りのトラスト区民運動や区民農園開設に向けた誘導施策を積極的に行うこと。

26 都市型・文化型産業の育成に努めること。住宅都市の中での文化産業、知識集約型産業の育成に力を入れた産業政策をとること。アニメ、動画、アート、音楽、教育、IТ、等など。

27 明治以来続いてきた強者勝ち残り型の教育システムを、共に学び、共に育つといった

本来的な教育のシステムに転換すること。

28 男女共同参画を職場・家庭・社会の隅々までいきわたらせるような施策をとること。

29 文化を磨く区政とすること。そのためには区を取り巻く歴史や文化状況と人的資源および文化的社会的資産を正しく認識し、これを生かすこと。

以上