「無党派市民」平成19年度予算要望

環境政策としての都市計画を実行せよ

 

 

1、   はじめに

 

昨年の予算要望から、1年がたった。2007年度の予算要望は、昨年要望してきたことの延長線上にあるものであり、昨年指摘してきたことを踏襲している。しかしながら、この間にあった小田急線高架事業の認可取消し訴訟の大法廷と小法廷の判決に触れ、熊本区政が石原都政とタイアップして強行してしまった下北沢補助54号線等の事業認可や、連動する下北沢駅周辺地区地区計画で実際に起こった世田谷区ぐるみの職権乱用という犯罪的行為に触れておかないわけにはいかない。その他若干の問題を付け足すが、要望全体としては昨年の予算要望とあわせ読んでいただきたいことを予め申し上げておきたい。

 

 

2、 大法廷判決と市民が勝ち取った法理

 

2006年度(平成18年度)予算要望後の2005127には小田急線高架事業認可取消し訴訟の大法廷判決があり、それまで都市計画問題では都市計画で実際に土地や土地に関する権利を奪われる地権者のみにしか、訴えることができなかった裁判が、環境影響をはじめとする広範な個別的権利を侵害されるものにもできることとなった。行政事件訴訟法改正にともなう、いわゆる原告適格の拡大は、この判決において、都市計画法を環境法として解釈するという画期的な成果を生んだ。「公私二元論」の克服であり、わが国の法制に画期的意義をもたらしたものであった。

結局、2006年11月2日の最高裁第一小法廷は、画期的な大法廷判決にも関わらず、実体的判断では既に大法廷判決を導くに当たって破綻したはずの東京高裁の判断を擁護し、小田急高架事業認可取消し訴訟について、東京高裁の逆転判決への住民側の上告を棄却、住民の敗訴を確定させた。
 大法廷判決での理想と、第一小法廷の姿勢には天と地とも言うべき乖離がある。

この乖離を埋め、大法廷判決で確立された法理を実現させるために、市民を始め行政官も含めて行動することが求められている。

第一小法廷の判決の当日、住民側弁護団は、ステートメントを発表し、この不当判決について以下のようにコメントした。世田谷区政に大いに関わることであるので、引用しておく。

 

 この事件の本体である連続立体交差事業(以下「連立事業」)は、単なる鉄道事業ではない。また、既存の踏切を除却するだけのものでもない。道路を新設・拡幅して道路と鉄道を連続的に立体交差化した上、高架下利用・駅前広場等、都市を再開発することを目的とした事業である。言い換えれば、再開発のためにその基軸となる道路を新設・拡幅する等して、鉄道と連続的に立体交差する施設(連立施設)という、道路を主とし鉄道を従とする複合都市施設をつくる事業である。
 昭和449月、建設省と運輸省間における「都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関する協定」(通称「建運協定」)の成立により、立体交差化における従前の道路と鉄道の対等な関係が崩れ、道路を主、鉄道を従とし、道路側の再開発まで視野に入れた連立事業という新しい制度、新しい複合都市施設が生まれたのである。土建国家、車社会が求めた巨大都市型公共事業の誕生であった。財源は道路特定財源であり、その規模は広域かつ巨額である。従って、やり方を間違えば、都市環境を回復しがたい程に破壊する。
 本件はその典型であり、かかる事業を見直す事こそ環境の21世紀の課題であることを我々は何よりも事実に基づいて論じてきた。


 昨年127日の大法廷判決は、基本的にこれに応えるものであった。すなわち、同判決は、都市計画法、公害対策基本法、東京都環境影響評価条例等の環境法の解釈につき、従来の公私二元論を克服し、住民の個別具体的な利益を公益と有機的・内在的に繋がるものとして保護することをその趣旨目的とするという、解釈のコペルニクス的転換に至った。
 問題は、行政実体法のこのような転換が本件の実体判断の手法にいかに反映されるべきかということである。我々は、大法廷の弁論において、実体法の解釈の問題はもとより、原告適格論の転換は裁量統制の転換の始まりでなければならないことを「改正行政事件訴訟法92項は、同法10条に連動」するという訴訟法上の問題としても提起してきた。
 しかし、前記のような趣旨で都市計画法が住民の個別具体的利益を保護するという解釈がなされた現在では、このレベルの訴訟法上の議論をする必要はなくなった。なんとなれば、都市計画法に違反する事由はいずれも行政事件訴訟法第10条の「法律上の利益」に係わるものとなったからである。
 そうなると、都市計画法に反する事由は、従来の単なる「判断過程の統制における考慮事項」にとどまらず、それ自体が本件事業認可処分およびこれに先行する都市計画決定を違法なものとすることにならざるを得ない。

 ところが、本日言い渡された判決は、これに全く逆行する。大法廷判決によって崩壊したはずの原審東京高裁判決を徒に弥縫しようとする姑息なものと言わざるを得ない。
このような姿勢からは、新しい法の支配、環境の21世紀は到底実現できない。国民は裏切られ、我々も言い知れぬ怒りを禁じ得ない。
 しかし、大法廷と小法廷のこの乖離が許されなくなるのは時間の問題である。見えざる歴史の足音を我々は固く信ずる。(「判決当日の住民側弁護団ステートメント」)

 

この小田急高架事業認可取消し訴訟では、2001年10月3日、東京地裁藤山裁判長による判決で、高架事業認可取消しの歴史的判決を得ている。覆されたとはいえ、この「藤山判決」こそ、歴史の検証に耐えられる実態的な判断をした判決として、今後も輝きを増していくことになろう。
 東京地裁「藤山判決」は、住宅街での鉄道整備に関し、地下方式に環境面はもちろんのこと、土地の合理的利用や事業費面でも優位性を認め、事業認可及び都市計画に当たっての高架・地下の比較検討の不備や、実際の事業地と認可事業地の不適合、さらには事業期間の不適合を違法と認定した。その根底には、政府自らが定めた「都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関する協定」(建運協定)を法規範と認め、側道を連続立体事業と一体のものと認定し、また建運協定にある諸規定への違反を違法と認定したからでもあった。東京地裁判決では原告適格を狭く取った、最高裁のいわゆる「平成11年判決」の呪縛の下にあったものの、側道の地権者に鉄道事業の原告適格を認めることで、事業認可違法を判断している。
 一方、2003年12月3日の東京高裁判決は原告適格を狭く取り、また「建運協定」を法規範として認めないという論理で裁判自体を門前払い扱いとした。

 2005年4月の行政事件手続法の改正を受け、2005年12月7日には原告適格問題についての大法廷判決で、都市計画法を環境法として位置づけさせ、原告適格枠の大胆な拡張を勝ち取った。
 この成果は全国の同種の訴訟を抱えて闘っている市民に大きな勇気を与えたのみならず、都市計画のあり方を大きく変える法的根拠を市民が勝ち取ったことになる。
 既に、200697日には下北沢の道路計画・都市再開発・連続立体事業について「まもれ!シモキタ訴訟」が提起されており、この実体的な審理を通じて、大法廷が確立した法理を実現し、都市計画法や「まちづくり」についての新たな地平が開かれるものと期待する。

都市計画や「まちづくり」の最先端にわが世田谷区の市民が立っていることを肝に銘じていただきたい。

 

 

3、 土建国家そのままの世田谷区政

 

司法権の中で、大法廷判決と第一小法廷判決に乖離があり、これを埋めていくのが市民のこれからの課題であるといったが、我々にとって一番身近な政府であるところの世田谷区政は残念ながら、第一小法廷の側に立っているといわざるを得ない。都市計画において、土建国家の一番悪い慣習をそのままにし、或いは悪い慣習をむき出しにして、今に至っている。

2006年の第3回定例議会で、私は、下北沢駅周辺地地区計画の策定過程において、見過ごすことのできない違法行為が世田谷区の組織ぐるみで遂行されていることを指摘し、その中止と区民への謝罪を熊本区長に要求してきた。

都市計画法17条は区民及び関係者への都市計画の公告・縦覧を定め、意見書の提出権を定めてある。ところが、20069月、下北沢駅周辺地区地区計画の法17条の公告・縦覧に先立ち、生活拠点整備担当部の第1課長等は部長と相談の上、賛成意見の「ひな型」と、例示文、提出指南書を作成し、下北沢地域の商店街、町会、下北沢街づくり懇談会の9団体の役員に配布した。

公務員は国民への全体奉仕者として公正・中立でなければならない。これは憲法や地方公務員法にも定められた義務である。賛成意見を誘導・加担する行為が、この憲法上、法律上の義務に違反することは、だれの眼にも明らかだ。

作成と配布の行為については認めているにも係らず、担当部課長は、賛成の役員から頼まれて作成して何が悪いと開き直り、監督すべき助役もこれを良しとし、服務違反を調査すべき総務部長ともども調査の必要はないといい、熊本区長もこれを追認した。そして、1018日には、とうとう、不正行為を不問にしたまま、都市計画法17条で提出された意見書の要約含む文書を添えて、都市計画審議会に諮問してしまった。

17条での行為は区長も含め認めたが、16条での意見書提出の際、提出された賛成意見がどのようなものであったのかをここで触れないわけにはいかない。

情報開示によって出てきた意見書は名前住所が伏せられていますが、全体の意見書総数427通の内、賛成意見書は129通、反対意見は277通。賛成意見129通中124通は複製コピーされたものであり、3つの課題が列挙されたものが19通、3つの課題の1項目づつが、それぞれ、41通、27通、37通で合計124通であった。まともに意見をつづったものは残りの5通しかない。

この3つの課題を列挙しておいて、その中からひとつずつを選ぶという手法は17条での意見書誘導の文書で行政が行なった手法と同一で、使われている文言もほぼ同だ。しかもこれらの意見書は全て最終日の受領印で受け付けられている。

区の担当者は、16条での区の関与は否定しているが、もし区が関与していないとしたならば、町会や商店街、及び街づくり懇談会の役員にとっては賛成意見を大量に提出するためのノウハウは既に分かっていたのであり、16条で行なわれた手法とほぼ同一の手法を伝授してもらう必要などはない。同一の手法、文言の同一性から考えれば、区職員の関与は限りなく黒に近いといわなければならない。

ところで、法16条での意見書提出の際の地権者の賛成意見は28通、反対は27通と区は報告をしている。このうち、少なくとも賛成意見の23通以上が複製ものであったわけであり、1票差で賛成が反対を上回っていたとしても、ほとんど意味を成さないといわなければならない。

ましてや、2200名の地権者の圧倒的多数が意見書さえ提出しないのは、地区計画の内容がほとんど理解されていないことの証左だ。賛成だけれども、どう書いてよいか分からないから、「ひな型」を作ってくれと17条縦覧の際に地元の商店街、町会、街づくり懇談会の役員が云ったというのであれば、そもそも地区計画問題は、本当の所、その人々にはまったく理解されていないということになる。

地区計画制度が立法されたときの国会答弁では少なくとも地権者の100%の同意がのぞましいとされており、各自治体のアンケートでも80%以上の同意が必要であるとされている地区計画の策定作業が、このような成り立ちで良いわけはない。

賛成意見の「ひな型」をつくり、9団体の役員に渡したという事実は認めたにもかかわらず、その上、このことが、公正・中立を大きく逸脱し、刑法193条、公務員職権乱用罪の疑惑まで今議会で指摘されているにもかかわらず、また、16条での意見書では地権者の圧倒的な同意という地区計画を成立させる要件をそもそも欠いており、さらに17条意見書では、賛成意見誘導にもかかわらず、6割もの反対意見が突きつけられているという事実の前にもかかわらず、熊本区長は一昨日都市計画審議会に地区計画案を諮問した。これはもはや区ぐるみの犯罪行為といわざるを得ません。

マスコミ報道で、この失態は全国に知られるところとなった。

下北沢駅地区の計画案意見募集、世田谷区、賛成「ひな型」。審議会会長「中立性疑う」

これが、19日付け東京新聞東京版の見出しである。東京新聞は結局、1面と26面、22面掲載の特報扱いをしている。そればかりではない。東京新聞の全国版である中日新聞もこれを転載し、記事はリードで次のように書かれている。

 

「下北沢駅周辺の再開発問題で、世田谷区が駅周辺の地区計画案について区民から意見募集した際、提出用に「私は地区計画に賛成です」と印刷した紙を配布していたことが、十八日の区都市計画審議会で明らかになった。「世論誘導だ」との委員の追及に、区側は「(賛成派の住民から)用紙の書き方が分からないと相談を受けたので、応じただけ」と弁解したが、同審議会の東郷尚武会長は「公務員の中立性が疑われる行為」と苦言を呈し、区の不手際ぶりが浮き彫りにされた。」

 

毎日新聞は、「審査会終了後、東郷会長は「行政側に、市民の意見を特定の方向に誘導するような行為があったのは、公平性、公正性の点で問題がある」との会長談話を報じました。その他、朝日、産経も賛成誘導問題を取り上げている。

今回の審議会では学識経験者3名が全て反対し、9対5で可決された。欠席した学者1名からも反対の意見表明があった。いわゆる「学経」(学識経験者)が全て反対に回った中での異例の採決だが、公平性、公正性に問題があったと東郷会長が指摘する以上、採決するべきではなかったし、採決は無効であったと確信する。

 

20061018日には、同日開催された都市計画審議会の開催の直前に補助54号線と区画街路10号線の事業が認可された。このことは道路計画、地区計画、用途変更、が不可分の事業であることを示した。行政は防災を再開発の理由に挙げようと躍起だが、広大な小田急線跡地の利用計画を防災の観点から積極活用することを検討しようとしていない。この事業は連続立体交差事業の一環としてある以上、不当なことだ。

既に補助54号、区画街路10号の事業認可の問題では、訴訟が提起されており、市民はこの訴訟を「まもれ!シモキタ行政裁判」と呼んでおり、11月20日には最初の弁論が開かれる。今回の賛成意見誘導事件はこの裁判の中でも徹底的に追及されることになろう。

 

4、 下北沢の用途・容積等の変更案と地区計画について

 

下北沢地域の用途・容積等の変更案が「下北沢駅周辺地区地区計画」を伴って行なわれようとしている。これに反対する理由をここで述べておく。

 

1)      下北沢の用途・容積等の緩和について

 

@ 今回の用途・容積等変更案を見ると、補助54号線の第1期事業地のサークル部分付近に面している近隣商業地が商業地に変えられる部分が容積率300%から500%へ緩和され、同サークルに面し、一番街から小田急線の南側まで及んで残っていた一種住居地域が近隣商業となり、容積率200%が300%に緩和される。また鎌倉通りの成徳高校付近は一種住居地域のまま容積率が200%から300%に緩和され、エクザス付近の一中高で容積率200%だったところが300%へと緩和さる。加えて茶沢通り西側で近隣商業地であった地域が商業地域となり300%から500%に緩和される。

緩和される地域の面積は合計で5.7haにも及ぶ。地区計画をかける地域が25.0haだから、5分の1以上の面積の容積率が緩和されるということになる。

 

A 下北沢は、住宅地の中の商業地として独自の発展を遂げ、歩いて楽しめる街として、独自の文化を作り上げてきた。

  下北沢の商業地の現在の容積率は500%だが、この容積率は現在の中低層の建物で構成された街並みを壊し広い敷地に集約する再開発をおこなうことを前提として導入されたものであって、路地で成り立つ下北沢の現在の街並みを評価し、この特徴を生かした街づくりを行うためには過大な容積率であるといわなければならない。

 行政は、当初は小田急線を井の頭線を跨ぐ二十数メートルもの高架にし、駅ビルと幅広の側道を設け、補助54号線を新設することによって、これを起爆剤として大規模再開発を誘導しようとしていた。しかしながら、高架による環境破壊と大規模再開発に反対する住民の声の前に、小田急電鉄に関しては地下化に転換せざるを得なかった。 

 

B この小田急線連続立体交差事業での鉄道構造の転換は、下北沢を大規模再開発から守り、現在の街の魅力をより発展させる方向に持っていく可能性をつくったが、行政はなおも、大規模再開発計画を諦めることはせず、補助54号線の新設を最大限生かしての街の高層大規模再開発を狙うことを企画した。

 補助54号線は本来、広域補助幹線道路であり標準の道路巾は15メートル。ところが、行政は旧都市計画が小田急線の上を道路が跨ぐ構造になっており、側道を作る構造となっていたことや意味不明の巨大サークル(直径40メートル)を設けていたことを利用し、平面を走る道路であれば、15メートルに戻すべきところを、側道を本体道路計画に取り入れ、街の中心部に26mもの巾の道路を出現させ、巨大サークル部も温存し、さらには5400u(都市計画5300uを認可申請で5400uという不適合申請は違法です!)もの駅前ロータリー(区画街路10号線)を新設して、街の高層大規模再開発を誘導しようとした。

  日本の戦後高度成長以降の都市計画は道路を起爆剤として街の高度利用を図ってきた。道路を通すと同時に周辺の用途を緩和し、さらに、道路に面した区画の高層化が済むとさらに周辺の用途を緩和し、低層住宅地は侵食され、やがてマンションに変わり、商業街区がさらに拡大していくというようにして、都市の周辺の住宅環境を劣悪なものに貶めてしまった。

  国木田独歩が書いた武蔵野は渋谷が舞台である。その渋谷が戦後たどった道のりを考えるとき、下北沢に同じ道を歩ませたくはないと思うのは至極当然のことだ。

 

C 下北沢は、小田急線と井の頭線の交差する交点に位置すると云うことから、車に過度に依存しなくても機能する街として、存続してきた。江戸時代の地図と重ね合わせると、よく分かるが、大規模な道路工事や巨大なビル工事もなかったため、自然の地形がそのままいかされた街になっている。古いものと新しいものが混在し、道は曲がりくねっており、適度に人口密度があり街区に人の眼が行き届くこの街は、1960年代初頭に「アメリカ都市の死と生」を著し、近代都市計画の考え方を批判し、都市計画の考え方そのものを一新させたジェーン・ジェイコブスが理想とした街そのものといってよい。

  また、車に依拠せずに存続できる街は、貴重だ。この特性を生かして、都市としての感性を磨いていく貴重な街でありこそすれ、ブルドーザーで打ち壊して、再開発を進めてよいような街ではない。

  幸い、小田急線が地下にもぐることになったのであるから、2キロにわたって30mから20メートル巾で続く広大な敷地が、都市計画や街づくりに利用できる。

  緑道として防災や都市に自然生態を取り戻すことにも寄与できるこの空間の利用を考えない手はない。

  ちなみに、戦後占領下でわが国の都市計画の草分け的存在である石川栄燿は戦災復興計画を策定、1946年に都市計画決定を実現しているが、この中で、小田急線の新宿・世田谷代田間は南北の緑地帯の中を通すこととされていた。程なくこの計画は経済論理至上主義者達によって頬無理去られることになるが、戦後都市計画の金字塔をなす計画の一部であったと考える。環境の21世紀といわれている今こそ、せめて小田急線の跡地は緑地帯とすることを提唱したい。

 

D 今回の用途・容積の緩和は道路を広く取ることによってその周辺に高層ビルをたてるための用途・容積緩和となっており、路地を主体とした下北沢の街並みを守ることとは背反している。

  文化の発信地としても貴重な下北沢のような街は、この街に見合った容積率に容積を落とすべきであり、高層大規模再開発方針に毒された時代に仮想した500%の容積率を温存すべきではない。少なくとも下北沢の北側の区画には容積率を落としたとしても既存不適格になるような建物は区のタウンホールと本多劇場が入ったマンションのほかはない。用途・容積の緩和は下北沢には必要ない。

 

E 下北沢に限らず、世田谷区では、用途地域の変更と地区計画の変更を同時に決定するための手続きが取られ、公告・縦覧が同時におこなわれている。このような手法は法の主旨に反し、違法であると考える。

地区計画は既存の用途地域に縛りをかけていくという手法をとる。用途地域・容積率の決定は都道府県の権限であり、地区計画は区市町村の権限である。地区計画と同時に行なう用途地域の変更について、東京都の説明会は開かれていないし、用途変更の公告・縦覧が実施されることについて、地元地域に対してきちんとした説明さえ行なわれていない。東京都は何ら説明責任を果たしていないのである。

地区計画案の諮問は1018日に世田谷区長が世田谷区都市計画審議会におこない、どう審議会は答申を議決したが、用途・容積率変更については11月に都知事が東京都都市計画審議会に諮問をすることになっている。いったい、用途変更がされてもいないのに、変更されたことを前提に世田谷区都市計画審議会に諮問したことが妥当であるはずがない。

 

 

2)下北沢駅周辺地区地区計画について

 

@ 下北沢に摘要しようという、街並み誘導型地区計画は、緩和型の地区計画の典型である。確かに、全体の高さ制限を22メートルにしていることから、一見制限型の様に見えるが、幹線道路沿い以外は土地の集約が現在の所はしにくい以上、この制限は制限足りえていない。むしろ、斜線制限の撤廃により細街路に面した土地の高度利用が可能になり、一方、幹線道路沿いでは土地の集約を条件に60m・45m・31mと高さが使えるために、土地の集約が進み高層ビル群が形成されることになる。高層ビル群の形成が一巡すれば、行政側の意図としては、さらに用途・容積の緩和に進むことになるだろう。

このような、緩和型の地区計画は低層で路地の街であった下北沢のアイデンティティーを崩壊させるばかりでなく、周辺の住宅地を荒廃させることになる。このような、緩和型の地区計画には反対せざるを得ない。

 

A 下北沢の連続立体交差事業が地下化で行なわれることになったため、2kmにわたり30mから20mの巾で広大な敷地が生まれる。この土地の利用について、都市計画を定めないことは異常だ。意図して、この利用計画を通路使用のみにとどめているのは、既に小田急電鉄等の利用計画が立案され、隠されていると言い切ってよい。

防災にせよ、緑化にせよ、下北沢にとって一番大事な計画を抜きに、下北沢の将来を描くことはできない。その点からいっても、策定されようとしている地区計画は都市計画の意味を成していない。

 

B 地区計画については既に16条の公告・縦覧が行われましたが、地権者2200名中、意見書提出は57通。内、賛成28で反対が27370通は地権者外で賛成が100ちょっとで、反対が250を超えています。地権者の意見書は賛否が5分5分、全体の意見書では71%以上が反対ということになる。

ところで地区計画については、自治体学会の2004年度の年報に興味深いレポートがある。所沢市都市計画課の関根久雄氏の「地区計画の策定と住民参加・合意形成」と題した論文には「平成8年地区計画行政研究会報告書」が引用されてあり、行政手続段階で「原案の公告・縦覧をする前にどの程度の合意形成が必要か」という質問に対して、調査対象となった全ての自治体が、最低でも「8割以上の賛成が必要」と答えている。しかも100%近くの合意が必要との回答も3分の1もある。

  そもそも、1980年、地区計画の立法が最初に国会で可決された際の審議で、升本達夫建設省都市局長は「実際の運用におきましては、この地区計画制度の性格、目途からいたしまして、やはり関係権利者全員のご理解、ご協力をいただくことが必要でございますので、現実の運用に当たりましては全員のご理解が得られるように努力をしてまいります」と答えている。

  つまり、地区計画策定に当たっては関係権利者の100%の理解を得られる努力をした上で、少なくとも80%以上の賛成があって初めて、実施されるべき都市計画として、用意されてきたのだということを、肝に銘ずるべきであり、16条意見書に現れた数字では17条の公告・縦覧に進むには拙速に過ぎるというべきである。

 

C このような状況の中、強引に17条に進むに当たって、事件があったことは既に触れた通りである。

生活拠点整備第1課の職員が、地区計画の公告・縦覧への意見書提出について、賛成意見を誘導する文書と賛成意見の送付文書を作成し、地域の町会や自治会の役員宛てに配っていたということが発覚した。第3回定例議会本会議での答弁で、安水世田谷区生活拠点整備部長はそのことを認め、区長も追認した。

都市計画審議会の東郷会長も、公告・縦覧への意見書提出に関する今回の事件は行政の中立・公正を欠く事態で問題だと記者会見すらしている。そうである以上、区長は自ら徹底調査をし、綱紀を糾し、処分すべき者は処分した上で、この手続きは中止し、地区計画は地権者や区民の合意が得られるよう見直しの作業に入るべきである。

 

5耐震問題と地下居住問題

 

昨年の予算要望以降、都市計画問題を揺るがすような事態が起きた。姉歯建築士による耐震構造設計の偽装問題である。学校の耐震設計問題、一方で、砧総合支所の建替えがは耐震改修で足りるところを改築を強行しようとしている。また地下室居住マンションで紛争が多発するという事態も起こった。

 

1)     耐震問題

 

@世田谷区としては見抜けなかった耐震構造設計

姉歯建築士の耐震偽装物件は世田谷区にも存在した。昨年の第4回定例会で、この問題を追及したが、本会議答弁では、「区は調査したが、問題がなかった」という答えであった。

その後、問題物件に居住する住民の要求で当該マンション業者が調査したところ、問題ありということになり、結局、区は他の民間機関に調査を以来せざるを得なくなった。結果は改築の必要のあるほどの結果となった。「問題がなかった」との答弁は修正され、区もこの問題物件の建替え問題には対策をとらざるを得なくなったが、区が既に検査した物件に瑕疵があったかどうか再調査せよとの私の要求には何らこたえていない。

 区に構造設計の偽装を見抜ける能力がなかった限りにおいて、区が検査し合格を与えた物権のなかに問題物件が隠されている可能性は否定できないというのが、現状であり、区はそのことを放置したままなのだ。

 真摯に対応することを、ここで、再度、申し入れておく。

 

A学校耐震調査の秘匿と建替え問題

学校の耐震問題では、私は調査により、赤堤小学校でIs値が0.27しかないことを本年の第3回定例議会の決算委員会で明らかにした。赤堤小学校では問題の校舎は昨年暮までに取り壊され、プレハブ校舎での授業に切り替えられているが、問題が学校当局者に自覚されたのはIs値の調査結果が出た20032月にさかのぼる。

その後、改修から改築へと議論は変転をとげ、現在に至っているが、そもそも、調査結果のIs値が0.27が公表されてこなかったことは極めて問題である。

担当者は数字を発表すると数字が一人歩きをするからと、公表を避けてきたし、他会派から質問の出た建替えの必要な学校の調査結果について、未だに公表しようとしていない。

もし、数値が公表されていれば、赤堤小学校では即刻代替施設の使用問題が生じていたはずであり、この公表を3年間も放置した当局者は小学生を地震による校舎倒壊の危険にさらしていたことになる。

危機情報は即刻公表し、対応を協議すべきであり、先送りは許されない。猛省し、学校耐震調査についてはデータを全て公表すべきである。

また、その結果、必要な建替えは、他の事業に先んじて取り組むべき性質のものであるはずだ。対応を申し入れる。

なお、赤堤小学校建替え問題では、当初は鉄筋コンクリートでの立替えで予算も取られていたが、いつの間にか鉄骨づくりにすり替えられるという事態も発生した。これは耐震問題もさることながら、学校の建替え問題での業者選定とも絡む問題であり、透明性を確保しなければ信頼性は失われたままであろう。ことの経緯を徹底踏査し、問題点を洗いざらい公表すべき性質のものだ。

 

B改修10億、改築40億の砧支所建替え問題

学校の耐震調査や建替え問題は、遅々と進まず、秘密主義であるにもかかわらず、砧総合支所の建替えについては、改修で足りるところを、改築に切り替えて急いでいるという好対照をなす。そもそも、街づくり交付金申請で砧総合支所を改修するということが最初の計画であった。国の交付金も入れて10億で改修できるはずのものが、いつの間にか40億かけて改築することとなってしまった。

改修で足りるとされていたのだから、まだまだ使える立派なホールを含む建物を建替える必要はない。

小学校改築問題とこれを対比するとき、いかに間違っているかが分かる。

砧総合支所は当初の改修に切り替えて、差額の30億円は小学校改築・改修費に即刻差し向けるべきである。

 

2)  地下室居住問題

 

区は一種低層住居地域である松原6丁目に建設中のマンションについて、これが地下室居住マンションであるに関わらず、環境に対しての優良開発と認め、本来の高さ制限10メートルを12メートルに緩和し、結果、地下1階地上4階のマンションが一種低層住居地域が出現することになった。周辺住民は意義を唱え、現在審査請求となっている。地下室居住マンション問題はこれだけではない。区への請願となったものだけでも今年に入って3件もある。また、代沢の地下室居住マンション問題での審査請求で地盤面の高さのとり方の変更が決定されるに至っている。

そもそも、地下室居住の「規制緩和」がなされたときの国会答弁では、マンション居住で一戸まるまるの居住は想定していないとされており、一戸建の地下ピアノ室であるとかに想定用途は限定されていたはずです。そのこともあって、目黒区や新宿区では地下室居住設計については厳しい規制を運用上行なっている。

世田谷がこれを安易に認めたり、先述した松原6丁目マンションのように、優良開発と認め建築基準法55条の高さ緩和を認めるということなど本来あってはならないはずだ。

斜面地の地下居住も問題だが、平地の地下室居住マンションを放置すれば、世田谷区のいたるところが穴ぼこだらけという自体を現出させることになろう。

即刻、これまでの放置体制を改め、運用上からの規制をかけ、必要があれば条例化も即刻検討すべきである。

以上