「平成15年度予算編成に対する区議会各会派の意見・要望」

(世田谷区議会月報 臨時号 平成1412月 No.515)に掲載

 

会派「無党派市民」(木下泰之区議)

平成15年度予算編成に対する意見・要望

 

 

 

小田急違法高架見直し・緑のコリドー(回廊)の実現で

「世田谷モデル」を打ち立てよ!

「エコロジカル・ニューディール」を開始しよう

 

 

 

1.       区長引退ならば骨格予算とすべきだ

 

2003年4月の区長選が5ヵ月後に迫ろうというのに、今だ大場啓二区長からは、正式な進退表明がない。前回選挙で引退が取りざたされたにもかかわらず、もう一期ということで7期目に進んだのであるから、当然引退が予想されてもいる。

引退を前提とするならば、予算は骨格予算とするべきであろう。このことは冒頭申し上げておく。したがって、今回の「予算要望」は次期区長への「予算要望」ということを念頭に置いていることを予め表明しておく。

 

 

2.       破綻する小泉「構造改革」

 

 バブル崩壊後の空白の10年という言葉があった。無為に過ごした10年を経てあれこれ対策を採ってみたものの未だに立て直すことができない。バブル期を含めれば地に足の着かない愚策が20年続いていることになる。この間に戦後国民が汗をながして築いてきた富の集積の多くがどぶに捨てられてしまったのである。一方、鳴り物入りで始まった小泉「構造改革」は具体的成果をあげることなく、ただだらだらと公的資金をつぎ込んでいるばかりで、経済構造の転換はおろか「抵抗勢力」の跋扈を許している。

公共事業見直しは、その量的な価値判断しか働かず、質の転換を伴わないものだから、行きつ戻りつ公的資金をつぎ込みながら、堂々巡りを繰り返している。

 

 

3.       土建公共事業依存を続ける財政出動・景気刺激策

 

挙句の果てに取られている政府の景気刺激政策は「都市再生」と称して、容積率の緩和、日照権の蹂躙、オフィスビルの住宅用途への転用といった旧来にも増した土建屋支援対策でしかない。自然再生法案が提出されたが、これも、自然再生に名を借りた土建屋支援対策でしかないのはどうしたことだろうか。

製造業の中核のひとつである自動車産業自身が道路建設に依存しており、それほどまでに、日本経済は土地本位制、土建公共事業依存型にどっぷりつかっており、抜け出すにも抜け出せなくなっているという状態ではある。

 

 

4.「エコロジカルニューディール」は公共事業の質の転換

 

私は、過去何回かのこの「予算要望」で「エコロジカルニューディール」を主張してきた。また、環境問題を重視し、環境に配慮したクリーンセクターの成長を促し、環境を悪化するダーティセクターの抑制を行うとした選択的成長論を支持してきた。

なぜ「エコロジカルニューディール」なのか。これは、語感からもお分かりのように、新たな有効需要としてのエコロジー政策の提唱を意味する。この提唱はもちろん公共事業の廃止ではない。むしろ、公共事業の質の大転換を意味する。

これは近代化が壊してきた自然と人間の共生関係を取り戻すための事業であり、あるいはそういった事業を促すためのインセンティブと位置づけてよいだろう。

 

 

5.「自然との共生」こそ、時代変革のキーワード

 

近代化が蓄積してきた弊害と向き合うことは、近代化以前への後退ではない。いやがおうにも、ポスト近代(ポストモダン)の現場――豊かではあるが満たさず、刹那的な社会状況――から抜け出るための営為でもあるのだが、その中心課題こそ、自然との共生であると私は考える。また、人類は近代の内に人類滅亡の危機を内包させてしまったのであり、近代で破壊した自然と人間との共生関係を元に戻さない限り、滅亡の危機を迎えている。したがって、自然との共生は時代変革のキーワードでもあるし、この価値観からの発信こそ新しい経済秩序を構築することができるし、新しい文化を創ることもできる。

価値観の転換を伴わない改革はナンセンスであるし、時代が要請しない政策は空回りするだけである。

 

 

6.小田急高架見直しを都市再生の「世田谷モデル」に

 

小田急線の連立事業問題は大都市における都市計画問題の実験箱である。市民のまっとうな考えを土建国家が押しつぶしてきたのが小田急高架の強行と一体化した大規模再開発・不動産開発のもくろみに他ならなかった。

長年の市民運動の成果が実り、これに司法のメスが入り、東京地裁は市民側の環境共生を目指した代替案を支持し、高架違法を宣言した。

真の構造改革は時代の要請に沿ったものでなければならないし、そうでなければ成り立たない。たった6.4キロで1兆円もの事業規模となるこの事業が、環境共生型に転換されるならば、乱開発にしかならない政府の「都市再生」に対抗するもうひとつの「都市再生」のモデルとなるであろう。

既に長野県の田中知事は脱ダム宣言で長野モデルを提示したが、都市型の自然再生の典型という意味での世田谷モデルとして時代の最先端を切り開くことになろう。

 

 

7.世田谷区政の進むべき方向

 

私の予算要望での数年来の主張は正しかったと思うし、変更の必要もないので省略するが、とりわけ、都市整備領域に限ってのみ、世田谷区政が進むべき方向を改めて提示しておく。

 

1.        政府の「都市再生」政策による都市乱開発に反対し、世田谷から真の都市再生の施策を提示していくこと。

 

2.        象徴的な事業として東京地裁が違法判決を下した小田急高架連立事業を地下化に見直し、高架構造遺物をも利用して、神宮の杜から多摩川をつなぐ生態コリドーを実現すること。あわせて、同連立事業での周辺駅の再開発事業や道路事業を大規模型ではなく、修復型・自然共生型の事業に転換させること。下北沢などは歩いて楽しめる街とし、補助幹線道路整備を見直して、自転車や歩行者優先道路に変え、あるいは計画を廃止すること。

 

3.        京王線の連続立体交差事業は、鉄道を地下に、地上は幡ヶ谷以東の緑道と多摩川をつなぐ生態コリドーとするよう東京都に働きかけること。

 

4.        公共交通を充実させ、車の交通を抑止する交通政策に転換すること。モーダルシフトの実現、超小型バスの導入や低床バス導入など、利用者に使い勝手のよいきめ細かな公共交通を実現すること。TDMを積極展開し、車に変わる代替交通手段として自転車を復権させ、自動車交通優先から自転車・歩行者優先に道路政策を転換すること。

 

5.        超高層マンション・超高層ビルは世田谷区内に建てさせないよう政策誘導すること。すでに計画されている烏山の100メートル超高層マンション計画や深沢の60メートル超高層マンション計画、二子多摩川の超高層居住を伴う超高層ビル計画は、この計画を見直すよう指導し、認可権者である都に働きかけること。

 

6.        一戸建て住居の細分化を防止し、民有地(庭の緑)を保護するため、一戸建ての維持と民有緑地(庭の緑)の存続を前提として相続税の減免の制度をつくるよう国に働きかけること。