「平成13年度予算編成に対する区議会各会派の意見・要望」

(世田谷区議会月報 臨時号 平成131月 No.493)に掲載

 

会派「無党派市民」(木下泰之区議)

平成13年度予算編成に対する意見・要望

 

 

 

選択的成長計画こそ日本再生の戦略的課題  

 

 21世紀を目前に日本の進路が大きく問われている。私は目指すべき進路の中核に環境をおくことを何よりも提唱したい。人類の歴史の中で環境問題の解決と環境への配慮は、まさに人類共通の課題となっている。20世紀が戦争と環境破壊の世紀であったとするならば、21世紀は平和と環境の世紀としなければならない。

 1970年代にローマクラブが環境の危機に対し「ゼロ成長論」を唱えたこともあって、環境を大事にすることは、経済発展を止めることと誤解されたことから、環境派の経済学者は「持続可能な成長」という言案を使い、これが広く使われるようになったが、この言葉も「成長否定論」的なニュアンスをもって受け入れられている。これは「成長」という言葉の価値観が近代主義に根ざしており、成長が工業化としての単線的物質的豊かさの追求としてとらえられてきたからに他ならない。

 この誤解を避け、より具体的戦略的に環境を大切にする経済を提唱するならば、70年代にティンバーゲンが提唱した「選択的成長計画」という概念こそふさわしい。これは、経済部門を、資源と環境に負荷の大きいダーディ・セクターとその対極のクリーン・セクターに分類し、ダーティ・セクターを抑制し、クリーン・セクターを成長させるという考え方に他ならない。

 

 

デフレを払拭する技術革新のフロンティア  

 

 バブルの破綻を受けて、経済危機・財政危機に直面したとき、一時的には緊縮財政政策(橋本政権)がとられたものの、これによって景気が極度に冷え込むと、今度は背に腹は変えられぬとばかりに土建国家への先祖帰りとも受け取れる「浪費型公共事業」への大型補正が浮上(小淵政権・森政権)してくるという、この戦略無き政策は日本を破滅の道に追い込もうとしている。

 経済危機の今こそ、ダーティ・セクターに対する厳しい抑制と削減を行い、一方、クリーン・セクターに対しては、積極的な成長計画を打ち出すというまさに「選択的成長計画」が必要とされているのである。クリーン・セクターに関していえば、もの作りに長けた技術立国日本においてこそ本領を発揮できる成長分野を開拓することは可能であり、この部門においてこそデフレを払拭する技術革新のフロンティアが広がっている。

 大事なことは、21世紀の人類の共通課題である「環境」への貢献を日本経済や国家戦略に積極果敢にビルトインしていくことこそ必要なのである。

 

 

選択的成長計画としての「小田急線地下化代替案」

 

 世田谷における区政を考えるにあたっても以上の視点こそ重要である。世田谷は東京という巨大都市における住宅地城として存在している。このことは都市問題の坩堝であり、ここでの自治体政策は日本の未来をも決定付ける。

 今、この世田谷で、公共事業のあり方をめぐっての一大課題が浮上するにいたった。それは小田急線複々線連続立体化事業についてである。

 この問題はかねてから、世田谷の環境や街のありかたを決定づける大間題であった。だからこそ、区議会の全会派が賛同して地下化決議を2度も上げていたのである。それにもかわらず、バブル期の地価高騰と都市再開発の風潮の中で、この決定がなし崩し的に崩され、高架複々線計画が強引に進められ、工事が強行され現在にいたっている。

 世田谷区民はかつての区議会決議をぼろ雑巾のように捨てた、世田谷区長と区議会に成り代わり、1990年以降、高架複々線事業の違法性を各種裁判で追及し、またさまざまな手段で地下化推進を訴えてきた。

 

 

裁判所も賛同した緑回復の地下化代替案   

 

 こういった活動の中で情報公開裁判では基礎情報の基本部分を開示させ、地下化の優位性を裁判所をして明言させ、第3セクター・東京鉄道立体整備株式会社を解散に追い込み、責任裁定を通じ在来鉄道騒音の違法性を認めさせてきた。

  そして200010 27 日には、東京地裁の行政部をして都市計画事業の認可権者である被告建設大臣に対し、高架見直しのための事実上の和解勧告をも提案させるところまで行政を追い込んできたのである。

 裁判所がこの異例の提案に及んだのは、愛知万博の縮小や吉野川第10堰の建設見直しや宍道湖の干拓見直しといった一連の公共事業見直しの流れを踏まえ、小田急市民専門家会議(力石定一座長・法政大学名誉教授)の提唱する高架複々線に対する新宿から成城までの二線二層シールド地下化による代替案「神宮の社と多摩川を結ぶ『緑のコリドー』計画」の提唱を評価した上でのことであった。もちろん背景には高架複々線計画の違法性へ疑義を呈した裁判所の再三の建設大臣への求釈明に対し、建設省側が的確な回答を回避してきたことに根ざしている。結局、違法性への疑義に対する的確な回答もできないにもかかわらず、一方的に適法性を主張して建設大臣は裁判所の提案を拒否してきた。

 

 

違法性への疑義に回答できない建設大臣

 

 司法を巻き込んだ序曲は終わった。本当の第一幕は東京地裁がどのように判決で小田急高架事業についての判断を示すかだが、建設大臣が求釈明に答えられない以上、裁判所の判断の方向性は見えている。

 世田谷を舞台に今、公共事業の真の見直しをめぐる大舞台の幕があがろうとしていることは間違いがない。小田急複々線連続立体交差化事業は東京都と鉄建公団が事業主体となっており、金のでどころから言って100%の公共事業といって過言でない。

 この提案拒否にあたっては世田谷区政にとって重要な問題が含まれている。裁判所は今回の事実上の和解勧告にあたって建設大臣に都市計画権者の東京都知事との相談を求めている。東京都知事に相談を求めれば事業の一端を担い地元の自治体でもある世田谷区に相談がくるのは当然のことではある。ところが、回答期限が1117日であるにもかかわらず、1115日の世田谷区議会都市整備委員会での原都市整備部長の答弁では一切東京都からの相談はなく、裁判所の文書も渡されていないとのことであった。少なくとも、このことは地方自治権への重大な侵害である。

 

 

小田急問題で区の自主権回復と、

地下代替案への支持を求める

 

 小田急線の事業の在りようは世田谷区の将来にかかわることはいうまでもないばかりでなく、周辺事業をも含めて区財政の重要課題でもある。そのあり様について重大な局面で東京都から相談すらもないのはどういうことか。区長は東京都に抗議し、認可取り消し訴訟の全記録を取り寄せ、事業計画の是非について区長自ら検討し、世田谷区独自の見解を示すべきである。予算の編成にあたってはその作業を済ませることが第一の前提となる。

 また、裁判所が今回の事実上の和解勧告に及んだのは、小田急市民専門家会議の地下化代替案の提示をきっかけとしているが、この提案では既に建設した高架橋と在来線跡地を利用して二層の緑化をし、コリドーとする計画を提案している。この代替案は公共交通特別委員会を通じて理事者にも配布してあるので、この文書についての世田谷区政にとっての評価を即刻開始すべきである。緑が失われ続けている世田谷区にとって、地下化推進に立ち戻り緑を回復できるこの代替案はまさに朗報というほかはないはずである。過去の行きがかりを捨てて、世田谷区は代替案支持の立場に立つべきである。

 

 

 

小田急高架の地下への見直しは公共事業見直しの試金石

 

 バブルの際に企画された小田急線高架複々線事業を前提とした周辺の大規模再開発計画は、第3セクター・東京鉄道立体整備株式会社の解散で頓挫した。今、この時期、世田谷区が着手すべきは環境共生住宅地域として世田谷区を位置付け、大規模再開発から撤退し、環境負荷の多い高架複々線事業や多摩川東地区再開発や多摩川流域スーパー堤防構想から撤退し、土地利用を環境共生型に転換することによって大都市東京での良好な都市住宅地域を再生することを戦略目標におくべきである。そのことが、世田谷を変え、東京を変え、ひいては日本を変えることになると確信するものである。

 新都市計画法ではマスタープランを基礎自治体が定めることが義務付けられ、住戸の最低敷地面積も自治体が定められることとなった。さらに、都条例の風致地区の運用権限も本年度から、世田谷区に下りてきている。これらの権限は先にあげた戦略目標を体現する道具としなければならない。日本の現状では土地利用の一般的な規制緩和は環境負荷を増大させる。環境共生の視点に立った新たな規制と緩和が検討されなければならない。

 とりわけて、平成13年度の予算、21世紀最初の予算の立案にあたっては、小田急問題に対する世田谷区の姿勢が問われている。小田急問題は環境回復の真の代替案が住民から提示されているリーディングケースとして、今後全国的に注目される課題になることは言うまでもない。世田谷区政にとっての試金石というべきである。