東京都知事 石原慎太郎 様

世田谷区長 熊本 哲之 様

2006929

世田谷区代田4−24−15-102

木下 泰之

 

意  見  書

 

下北沢の用途・容積等の変更案と「下北沢駅周辺地区地区計画」(案)について

 

1、        下北沢(世田谷区北沢2丁目他各地域)の用途・容積等の変更案に反対します。

 

2、   「下北沢駅周辺地区地区計画」(案)に反対します。

 

理  由

 

1、        下北沢の用途・容積等の緩和について

 

1)今回の用途・容積等変更案を見ますと、補助54号線の第1期事業地のサークル部分付近に面している近隣商業地が商業地に変えられる部分が容積率300%から500%へ緩和され、同サークルに面し、一番街から小田急線の南側まで及んで残っていた一種住居地域が近隣商業となり、容積率200%が300%に緩和されます。また鎌倉通りの成徳高校付近は一種住居地域のまま容積率が200%から300%に緩和され、エクザス付近の一中高で容積率200%だったところが300%へと緩和されます。加えて茶沢通り西側で近隣商業地であった地域が商業地域となり300%から500%に緩和されます。

緩和される地域の面積は合計で5.7haにも及びます。地区計画をかける地域が25.0haですから、5分の1以上の面積の容積率が緩和されるということになります。

 

2)下北沢は、住宅地の中の商業地として独自の発展を遂げ、歩いて楽しめる街として、独自の文化を作り上げてきています。

  下北沢の商業地の現在の容積率は500%ですが、この容積率は現在の中低層の建物で構成された街並みを壊し広い敷地に集約する再開発をおこなうことを前提として導入されたものであって、路地で成り立つ下北沢の現在の街並みを評価し、この特徴を生かした街づくりを行うためには過大な容積率であるといわなければなりません。

 行政は、当初は小田急線を井の頭線を跨ぐ二十数メートルもの高架にし、駅ビルと幅広の側道を設け、補助54号線を新設することによって、これを起爆剤として大規模再開発を誘導しようとしていました。しかしながら、高架による環境破壊と大規模再開発に反対する住民の声の前に、小田急電鉄に関しては地下化に転換せざるを得ませんでした。 

 

3)この小田急線連続立体交差事業での鉄道構造の転換は、下北沢を大規模再開発から守り、現在の街の魅力をより発展させる方向に持っていく可能性をつくりましたが、行政はなおも、大規模再開発計画を諦めることはせず、補助54号線の新設を最大限生かしての街の高層大規模再開発を狙うことを企画しました。

 補助54号線は本来、広域補助幹線道路であり標準の道路巾は15メートルです。ところが、行政は旧都市計画が小田急線の上を道路が跨ぐ構造になっており、側道を作る構造となっていたことや意味不明の巨大サークル(直径40メートル)を設けていたことを利用し、平面を走る道路であれば、15メートルに戻すべきところを、側道を本体道路計画に取り入れ、街の中心部に26mもの巾の道路を出現させ、巨大サークル部も温存し、さらには5400u(都市計画5300uを認可申請で5400uという不適合申請は違法です!)もの駅前ロータリー(区画街路10号線)を新設して、街の高層大規模再開発を誘導しようとしています。

  日本の戦後高度成長以降の都市計画は道路を起爆剤として街の高度利用を図ってきました。道路を通すと同時に周辺の用途を緩和し、さらに、道路に面した区画の高層化が済むとさらに周辺の用途を緩和し、低層住宅地は侵食され、やがてマンションに変わり、商業街区がさらに拡大していくというようにして、都市の周辺の住宅環境を劣悪なものに貶めてしまいました。

  国木田独歩が書いた武蔵野は渋谷が舞台でした。その渋谷が戦後たどった道のりを考えるとき、下北沢に同じ道を歩ませたくはないと思うのは至極当然のことではないでしょうか。

 

4)下北沢は、小田急線と井の頭線の交差する交点に位置すると云うことから、車に過度に依存しなくても機能する街として、存続してまいりました。江戸時代の地図と重ね合わせると、よく分かりますが、大規模な道路工事や巨大なビル工事もなかったため、自然の地形がそのままいかされた街になっています。古いものと新しいものが混在し、道は曲がりくねっており、適度に人口密度があり街区に人の眼が行き届くこの街は、1960年代初頭に「アメリカ都市の死と生」を表し、近代都市計画の考え方を批判し、都市計画の考え方そのものを一新させたジェーン・ジェイコブスが理想とした街そのものといってよいでしょう。

  また、車に依拠せずに存続できる街は、貴重です。この特性を生かして、都市としての感性を磨いていく貴重な街でありこそすれ、ブルドーザーで打ち壊して、再開発を進めてよいような街ではありません。

  幸い、小田急線が地下にもぐることになったのであるから、2キロにわたって30mから20メートル巾で続く広大な敷地が、都市計画や街づくりに利用できます。

 緑道として防災や都市に自然生態を取り戻すことにも寄与できるこの空間の利用を考えない手はありません。

 

5)今回の用途・容積の緩和は道路を広く取ることによってその周辺に高層ビルをたてるための用途・容積緩和となっており、路地を主体とした下北沢の街並みを守ることとは背反しています。

  文化の発信地としても貴重な下北沢のような街は、この街に見合った容積率に容積を落とすべきであり、高層大規模再開発方針に毒された時代に仮想した500%の容積率を温存すべきではないというべきです。少なくとも下北沢の北側の区画には容積率を落としたとしても既存不適格になるような建物はほとんどないのではないでしょうか。用途・容積の緩和は下北沢には必要ありません。

 

6)今回、用途地域の変更と地区計画の変更を同時に決定するための手続きが取られています。公告・縦覧が同時におこなわれています。このような手法は法の主旨に反し、違法であると考えます。

地区計画は既存の用途地域に縛りをかけていくという手法をとります。用途地域・容積率の決定は都道府県の権限であり、地区計画は市町村の権限です。用途地域の変更についての東京都の説明会は開かれていませんし、用途変更の公告・縦覧が実施されることについては、地元地域に対してきちんとした説明さえ行なわれていません。東京都は何ら説明責任を果たしていません。

地区計画案の諮問は1018日に世田谷区長が世田谷区都市計画審議会におこない、同日に決定を見る予定としていますが、用途・容積率変更については11月に都知事が東京都都市計画審議会に諮問をします。いったい、用途変更がされてもいないのに、変更されたことを前提に世田谷区都市計画審議会に諮問ができようはずがありません。

 

 

2、下北沢駅周辺地区地区計画について

 

1)下北沢に摘要しようという、街並み誘導型地区計画は、緩和型の地区計画の典型です。確かに、全体の高さ制限を22メートルにしていることから、一見制限型の様に見えますが、幹線道路沿い以外は土地の集約が現在の所はしにくい以上、この制限は制限足りえていません。むしろ、斜線制限の撤廃により細街路に面した土地の高度利用が可能になり、一方、幹線道路沿いでは土地の集約を条件に60m・45m・31mと高さが使えるために、土地の集約が進み高層ビル群が形成されることになります。高層ビル群の形成が一巡すれば、行政側の意図としては、さらに用途・容積の緩和に進むことになるでしょう。

このような、緩和型の地区計画は貞操で路地の街であった下北沢のアイデンティティーを崩壊させるばかりでなく、周辺の住宅地を荒廃させることになります。このような、緩和型の地区計画には反対です。

 

2)下北沢の連続立体交差事業が地下化で行なわれることになったため、2kmにわたり30mから20mの巾で広大な敷地が生まれます。この土地の利用について、都市計画を定めないことは異常です。意図して、この利用計画を通路使用のみにとどめているのは、 既に小田急電鉄等の利用計画が立案され、隠されていると言い切ってよいでしょう。

防災にせよ、緑化にせよ、下北沢にとって一番大事な計画を抜きに、下北沢の将来を描くことはできません。その点からいっても、今回の地区計画は都市計画の意味を成していません。

 

3)地区計画については既に16条の公告・縦覧が行われましたが、地権者2200名中、意見書提出は57通。内、賛成28で反対が27370通は地権者外で賛成が100ちょっとで、反対が250を超えています。地権者の意見書は賛否が5分5分、全体の意見書では71%以上が反対しています。

ところで地区計画については、自治体学会の2004年度の年報に興味深いレポートがありました。所沢市都市計画課の関根久雄氏の「地区計画の策定と住民参加・合意形成」と題した論文には「平成8年地区計画行政研究会報告書」が引用されてあり、行政手続段階で「原案の公告・縦覧をする前にどの程度の合意形成が必要か」という質問に対して、調査対象となった全ての自治体が、最低でも「8割以上の賛成が必要」と答えています。100%近くの合意が必要との回答も3分の1あります。

  また、1980年、地区計画の立法が最初に国会で可決された際の審議で、升本達夫建設省都市局長は「実際の運用におきましては、この地区計画制度の性格、目途からいたしまして、やはり関係権利者全員のご理解、ご協力をいただくことが必要でございますので、現実の運用に当たりましては全員のご理解が得られるように努力をしてまいります」

と答えています。

  つまり、地区計画策定に当たっては関係権利者の100%の理解を得られる努力をした上で、少なくとも80%以上の賛成があって初めて、実施されるべき都市計画として、用意されてきたのだということを、肝に銘ずるべきであり、16条意見書に現れた数字では17条の公告・縦覧に進むには拙速に過ぎるというべきであります。

 

4)このような状況の中、強引に17条に進むに当たって、事件がありました。

  拠点整備第1課の職員が、地区計画の公告・縦覧への意見書提出について、賛成意見を誘導する文書と賛成意見の送付文書を作成し、地域の町会や自治会の役員宛てに配っていたということが発覚しました。920日の区議会本会議での答弁で、安水世田谷区生活拠点整備部長はそのことを認めたのです。

  ことは重大です。法定の正式な手続きに、公権力が介入し、意見書を操作した事実を認めたに等しいといえます。ところが、世田谷区は私が行なった922日の一般質問に際してこの失態について、その非を認めず、929日の時点にいたっても、区民に対して謝罪の意思すら表明していません。

公権力の介入は、公告・縦覧への意見書提出が公正を欠く事態を作り出しました。そうである以上、この手続きは中止し出直すべきであります。

以上