下北沢駅周辺地区地区計画原案についての意見

2006619

世田谷区長 熊本哲之 様

世田谷区代田4−24−15−102

木 下  泰 之

 

下北沢駅周辺地区地区計画原案については、以下に示すとおり、その作成過程及び内容が違法かつ不当であるから、策定を即刻中止し、連続立体交差事業の全体を含め見直し作業に入るよう申し入れる。

なお、世田谷代田駅・喜多見駅間の連続立体交差事業は200110月の東京地方裁判所判決においてその都市計画及び事業認可が違法とされた。その後、高裁は原告適格を認めず、いわば門前払いとして判決を取り消したが、最高裁大法廷は昨年12月に原告適格を認め高裁判決を覆した。

小田急線の連続立体交差事業は当初は東北沢駅・喜多見駅間で企画されていたのであり、分断して都市計画決定した世田谷代田以西の事業が違法とされた以上、接続する下北沢地区の連続立体交差事業も、違法である。違法な連続立体交差事業を前提とした地区計画も違法である。

 

1、         下北沢駅周辺まちづくりは一般区民や一般地権者とその関係者の預かり知らぬところで小田急線連続立体交差事業認可の際に枠組みが決められ、その枠組みに沿って進行してきた。

 

2、         連続立体交差事業は旧建設省と旧運輸省が1969年に締結した「都市における道路と鉄道の連続立体交差化に関する協定及び細目協定及び建運協定」(いわゆる建運協定)によって行なわれる、複合的な都市施設事業である。道路特定財源を国庫補助金として行なわれるこの事業は街路事業として位置付けられ、交差道路の新設・拡幅が義務付けられると同時に、沿線周辺の交通ネットワークのプランニングや高度利用や再開発事業の立案が要請されている。同事業は事業認可の前に道路法56条基づく調査を義務づけており、この調査は旧建設省が定めた「連続立体事業調査要綱」によって行われることになっている。

    

@  東京都は「連続立体交差事業調査要綱」に基づいて、1987年と1988年に国の補助金を受けて東北沢駅・喜多見駅間の「小田急線連続立体交差事業調査」を行なった。ところが、調査の結果、下北沢地域の高架化が困難で地下方式に優位性があることが明らかになると、世田谷代田駅・喜多見駅間の高架事業(成城学園駅付近は掘割)を強引に進めるために、下北沢地域の連続立体交差事業を切り離し、今後の検討地域として事業自体を延期した。

 

A  世田谷代田駅・喜多見駅間の事業が19946月に国により事業認可され、工事が一定、進んだ後、東京都は200010月に下北沢地域の連続立体交差事業を梅ヶ丘駅・代々木上原駅間の事業として調査報告書をまとめ、2003131日に都市計画を決定し、国は20043月に事業認可をした。

 

B  1987年度1988年度に実施した「連続立体交差事業調査」は1989年3月には報告書がまとまっていたが、国から世田谷区に至るまで、行政はこの調査自体を秘匿。国と世田谷区は未受領を主張、東京都は開示を拒否した。東京都の情報開示拒否に対しては住民が提訴し、1994年3月に至り、東京地裁の和解勧告に基づき、鉄道構造比較の基本部分については開示されたが、交差道路や交通ネットワークの検討、関連都市施設や再開発手法の検討などの重要部分については秘匿されたままであった。この街づくりに関する重要部分は2000年に至って、認可取消し訴訟の法廷証拠として東京地裁の職権で開示された。2000年度の下北沢地域の「連続立体交差事業調査報告書」は、200310月に至って情報開示されたが、それまで、世田谷区は同報告書を受領したことはないと言い張っている。なお、1987年度1988年度の「調査報告書」の全開示情報については未だに世田谷区は受領していないと言い張っている。

 

C  下北沢の地区計画づくりはもちろんのこと、地区街づくり計画や、補助54号線・区画街路10号線の都市計画変更についても、これらのありようの前提となる連続立体交差事業の「調査報告書」の検討を抜きにしては、計画立案も検討も住民参加もありえない。また、調査自体が本来的には住民参加が要請されているものである。にもかかわらず、世田谷区は計画立案や検討の際に同調査報告書を受領していないのであり、世田谷区が地元住民の代表組織としている「下北沢街づくり懇談会」に対してさえ、同文書を提示することもなかったし、その必要もないと公言してはばからなかった。

 

D「連続立体交差事業調査要綱」には、「都市計画の総合的検討」の「将来目標の設定」と題して次のような美しい文言が書かれている。

「将来目標は、行政当局、関係機関、住民等のまちづくりに対する夢やビジョン、主張といったものを盛り込んだものとし、地域の自然、風土、文化、個性、歴史、かおりといったものを継承発展させるとともに、個性的な街づくりを目指すよう留意する」

 

E  下北沢は個性を有する街である。まさにこの街の将来目標の設定は、地域の自然、風土、文化、歴史、かおりといったものを継承発展させることが必要なのは言うまでもない。ところが、補助54号線の必要の有無や駅前広場の機能は街のあり方の検討から始まったのではなく、交差都市計画道路54号線が建運協定の必須要件として整備されることを前提として企画された。とりわけ2001年度には建運協定の採択条件が緩和され、補助54号線の整備は必須条件からははずされている。にもかかわらず、補助54号線の必要の有無を再検討せずに行なわれた連続立体交差事業の事業認可(20043月)自体が無効である。

 

3、         補助54号線・区画街路10号線は事業認可を得ていないにもかかわらず、2003年度に「一体開発誘発型街路事業」を適用し国庫補助を受けている。この事業は民間再開発を予め誘導するための事業であり、用途地域変更なども要請している。国と区は補助54号線事業の事業認可前に民間開発を誘導しており、区が従前区議会で答弁した「民間再開発の誘導は予定していない。」との言に反している。提案された地区計画原案は用途地域の変更も含め、補助54号線等幹線道路沿いの容積率緩和を予定しており、まさに「一体開発誘発」のための地区計画となっている。一方で、この「一体開発誘発型街路事業」の国庫補助採択の事実に関しては、区の予算書や決算書を読んでもその事実はつかめないようにしてあり、区はこれまで一般区民はおろか区議会に対してもひた隠しにしてきた。

 

4、         下北沢の防災機能を高めるためには、小田急線が地下にもぐった後の跡地の利用が有効である。跡地の利用に関しては国の建運協定や通達文書でも推奨されてきた。にもかかわらず、上部利用については公租公課分の15%のみに限定した利用しか示さず、補助54号線にのみ防災機能を期待する地区計画としている。また、区民に対してはこれ以上の利用はできないかのように宣伝してきた。これは都市計画事業で新たに創設された土地の利用(たとえ有償であるにしても)を予め排除した考え方であり、国の建運協定や通達文書にも違反する行為である。

 

5、 都市計画法は「地方公共団体及び住民の責務」として以下のように定めてある。

第三条 国及び地方公共団体は、都市の整備、開発その他都市計画の適切な遂行に努めなければならない。

2 都市の住民は、国及び地方公共団体がこの法律の目的を達成するため行なう措置に協力し、良好な都市環境の形成に努めなければならない。

3 国及び地方公共団体は、都市の住民に対し、都市計画に関する知識の普及及び情報の提供に努めなければならない

 

住民の責務を求める以上、「都市計画に関する知識の普及及び情報の提供に努めなければならない」とする国や地方公共団体の責務はその前提となるものであり、これを怠ることは都市計画策定過程の前提を欠くものであり違法である。

以上