平成13年第4回定例会(自1128日 至126 日)

世田谷区議会会議録

2001年11月30日 4定 一般質問


平成13年 11月 定例会
平成十三年第四回定例会
世田谷区議会会議録第十九号
十一月三十日(金曜日)

○(新田勝己議長) 次に、五番木下泰之議員。
   〔五番木下泰之議員登壇〕

◆五番(木下泰之議員) 十月三日の 小田急判決と区の今後の対応及びこの小田急複々線化連続立体交差事業の事業実態について質問いたします。
 判決後さまざまな報道がなされ、おおむねこの判決については評価され、公共事業のあり方の根本的な転換を政府や東京都に迫ったということについての評論がなされております。

 報道を追っていくうちに、交通関係の専門紙である交通新聞が十月二十二日に「政策の賞味期限」という囲みの記事を載せていたのが目にとまりました。署名入りの囲み記事で、筆者は一九六三年当時運輸省の都市交通課長であった高橋寿夫という人でした。この方は、最後は航空局長まで上り詰めたいわば高級官僚で、今はもちろんOBです。高架違法判決の報に接しての感想が披瀝された文章で、なかなかの名文です。読みますので、よく聞いてほしいと思います。とりわけ大場区長はよく聞いていてほしいと思います。

 小田急電鉄の事業認可は違法という東京地裁判決が出た。あれはもともと運輸省が代々木上原と喜多見の間の輸送力増強策として、世田谷通りに地下鉄を建設することにした原案で、昭和三十八年の都市交通審議会の答申も得ていた。ところが、その直後に沿線の需要が地下新線に食われるという小田急の企業防衛的な不安が表明され、また、世田谷通りの狭隘や屈曲などから都市計画当局の反対も出された。都の代案は小田急線の高架四線化であり、かねてから一般論としては連続立体交差化を唱導していた運輸省としても、この対案に正面から反対できず、都案どおりの都市計画決定が昭和三十九年になされたのである。

 ところが、四線高架という工事は、在来線両側の用地買収や騒音、日照権問題などから、当局の期待するほどの容易なものではなかった。人口の郊外化が進んで宅地価格の高騰が始まっており、地権者との交渉は難航をきわめた。その間に世論一般に公害に対する意識が高まり、道路、鉄道、空港などの建設は特に大都市周辺において難渋し、幾つかの歴史的判決が出たりする時代になっていた。小田急線の工事もその例外ではなく、住民運動の燃え盛る中で計画の推進には多大の困難を伴うものとなった。沿線住民は、同時にこの鉄道の大切な顧客であり、その声を無視することはできなかった。かくて、更地に新線を建設するときとはまた違った意味での困難に直面した結果、工事の着手は大幅におくれ、計画全線の完成時期は予想もつかない状況となった。

 都交審答申当時の関係者であった私としては、この判決を極めて複雑な思いで受けとめざるを得なかった。既に、工事の難航で関係者が苦労しているとき私の胸中をよぎったのは、都市計画当局の反論をのまざるを得なかったことへの後悔の思いだった。あのとき答申どおりの地下鉄新線案にこだわって都側の反論に抵抗していたとしたら、営団線としてとっくの昔に開通していたのではなかったか。歴史を語るときに、ifは禁句である。死児のよわいを数えるようなことをしてはならないと思う。しかし、物事には機というものがあり、それを逃したら永遠に戻ってこないチャンスがある。どんな困難を伴っても、それを貫くために力を尽くさなければならない場合がある。

 途中までですが、この運輸省高級官僚OBが何を言いたいかはよくおわかりのことと思います。

 政府の都市交通審議会六号答申は、世田谷通りの下を通って喜多見に抜ける地下鉄を答申していました。そもそも地下鉄計画を小田急のごり押しで一九六四年に高架複々線に無理やり変えようとしたことから間違いは始まった。筆者は、当事者として痛恨の思いを込めて書いておられる。

 当該基礎自治体の当事者としての区長にお聞きしたい。六号答申については既にご存じであったと思うが、運輸省OBのこの文章に接し、どのような感想をお持ちか、また、今回の判決に対してどのような感想をお持ちか、まずは答えていただきたい。

 小田急事業認可取り消し訴訟の東京地裁判決は、一九九三年の都市計画決定に先立つ、一九八七、八八年度連立事業調査での誤り、都市計画決定と環境アセスの誤り、これらをすべて見過ごした事業認可過程の誤りを具体的に検討した上で、政府の高架事業認可を違法としています。違法騒音を回避する配慮をとらなかったこと、高架、地下の比較をあらかじめ高架が有利になるような仕方でしか比較検討しなかったこと、複々線事業用地を認可の対象にさえしていないことなど、極めて具体的に違法認定しております。

 そこで、お聞きします。このような判決を受けた以上、事業に参画している世田谷区としては、この判決をどう評価し、どのように対処するのかについて区民にわかりやすく説明する責任があります。区として、今後の事業への対処方についての見解を示していただきたい。

 対処方の一つとして、平成十四年度の予算編成を世田谷区はこれから行うことになるが、事業認可が違法と出た以上、負担金を支出することは違法ではないのか。国は控訴しているから違法とは言えないとの弁明も予想されるが、一審で違法判決が既に出ており、それが覆されていない以上、適法とは言えず、予算を出せるという根拠はなくなったのではないか。

 平成十四年度予算に負担金を一体組めるのかどうか、あえて負担金を組むというのなら、その法的根拠をわかりやすく示していただきたい。

 次に、区支出金の複々線事業への流用問題についてお聞きします。

 連立事業費の前回質問で、区支出金が複々線事業に流用されているのではないかとの問いに、区はその事実を否定していますが、裁判で被告側は都市側の連立事業費が本来事業者負担分の複々線事業に立てかえとして支出されていることを認めております。

 流用という言葉はさておき、複々線事業費に立てかえて支出されているとの説明は東京都から区は受けているのかどうか、お聞きしておきます。

 さて、工事の進捗率についてもこの際お聞きしておきます。

 東京都発表の平成十二年度末の事業進捗は、事業費ベースで五三%と発表してきました。これは用地費、工事費を合わせた事業費総額一千九百億円のうちの執行額のパーセンテージとしています。用地費九百五十億円、工事費九百五十億円で、用地買収は九八%済んでいるとしておりますので、計算すると工事費は七十六億円ほどしか使われていないことになります。実際に使った用地費、工事費の額を明らかにしていただきたい。

 混雑率緩和計画の実態についてお聞きします。

 国は、控訴に向けての記者会見資料で、裁判で問題となった現事業区間の工事が完成すれば混雑率が一九〇%から一六〇%になると発表しておりますが、この数字は明らかに間違っております。梅ケ丘までの複々線事業達成でこの数字になるのか否か。混雑率についての実態及び混雑率緩和の実現年度を、梅ケ丘まででどうなるのか、代々木上原まででどうなるのかというように、事業の進展に即した輸送力増強計画を正確に把握し、答えていただきたい。

 新宿までの複々線計画についてお聞きします。

 世田谷区はかつて新宿までの線増立体化を想定して、中央復建コンサルタントに調査を依頼しました。その際、新宿までの複々線計画調査を行った根拠を示していただきたい。複々線計画自体が存在していなかったならば、こういう調査はできなかったはずであります。

 また、その後、新宿までの複々線計画が立ち消えになった理由も示していただきたい。

 そして最後に、まちづくり協議会、とりわけ経堂駅周辺街づくり協議会の運営のあり方についてお聞きします。

 経堂駅周辺街づくり協議会は、都市計画決定がされた高架事業を前提にまちづくりを行うことを参加の条件とし、地下化推進派を締め出した経緯を持っております。このような運営はもはや許されません。こういう運営を改める必要があります。経堂に限らず、他の駅周辺まちづくり協議についても、高架事業が違法と出た以上、まちづくり協議は高架見直しのまちづくり計画についてもこれを議論の俎上に乗せるべきであります。

 判決との関係で、まちづくり協議を今後どのようにしていくおつもりなのか、見解を示していただきたい。

 以上、壇上からの質問といたします。


   〔大場区長登壇〕


◎(大場区長)  小田急連立事業の認可違法判決という今後の対応をどうするかということでございます。

 昭和三十八年当時、運輸省都市交通課長でありました高橋寿夫さんの考え方でありますが、ただいまお話を聞いたとおりであります。当時の担当者として感想、ご見解というものがいろいろございましたが、これらについてはご見解として承ったところでございます。

 判決評価ということにつきましては、都の対応などがございますので、助役からでも答弁させたい、こういうふうに思っております。


◎(原都市整備部長)  小田急連立事業に関して幾つかお尋ねがありましたので、お答えさせていただきます。

 まず、判決は、高架の決定の誤りに踏み込んで事業認可を違法とした、区はどのように対処していくのかということでございました。

 小田急連続立体交差事業認可取り消し事件の一審判決につきましては、国は上級審の判断を求めるとしまして、十月十二日付で控訴いたしたところであります。施行者である東京都も、一日も早い事業の完成を目指し、今後とも鋭意事業を推進するとのことであります。

 また、先ごろ、別件ではありますが、本件にかかわる控訴審において訴えを棄却した後、沿線住民の騒音被害で小田急が賠償責任を負うことはあっても、都市計画決定や事業認可に明白な落ち度があったとは言えないとの指摘を東京高裁の裁判長がなされております。違法というのはまだ判決が出ていないので、私どももそういう理解をしております。

 区といたしましても、交通渋滞や地域分断の解消のため事業が推進されるよう取り組みに努め、また、関連するまちづくり事業を鋭意進めてまいりたいと思っております。

 次に、事業認可が違法となった、連立事業の区の負担金は適法ではないというご指摘であります。これは今申し上げたように一審の判決でございまして、また、被告、原告双方が判決を不服として控訴している、そういう段階のものであります。現時点では、連続立体事業化の区の負担金につきましては、地方財政法が定めます規定に従って、東京都に支払って事業を進めていくということについては法的な問題はないと考えております。

 それから、区の支出金の複々線事業への流用という言葉をお使いになって、その説明を受けているかということであります。

 説明は受けておりません。なぜならば、これはいわゆる建運協定において複々線化事業については鉄道事業者の全額負担とされておりまして、世田谷区、また国土交通省、東京都におきまして複々線化事業の事業費を負担することはないわけであります。

 区といたしましても、地域分断やあかずの踏み切りの解消を図るということが地元自治体の責務と考えておりますので、それを施行する連続立体交差事業の要する経費の一部を地方財政法の規定に基づき負担しているという常態的な手順でございます。あえて説明は求めることもないし、説明がない、普通の手順でございます。

 次に、工事の進捗率、数字を用いられていろいろお話をされました。お使いになっている用地費九百五十億円、工事費九百五十億円、こういう数値は、平成五年に都市計画変更を行うために用いた数字で、それ以前に推計した事業費かと存じます。平成六年の事業認可後、当然ご存じのことと思いますが、地価が大きく動いてきたわけです。用地の買収、築造工事等に着手をそのときしたわけですが、バブル崩壊の影響などから、世田谷区内の地価も大きく下落をしておりまして、公示地価などを見ましても、平成三、四年から六、七年にかけましておおむね半減しております。そのために、当初の数字を使って何%というのは余り今妥当な意味がある議論ではないと思います。

 そのため、現在の用地取得率などから逆算しまして、工事費の執行額が七十六億円になると結論づけることはできないと考えております。用地費、工事執行額については公表されておりません。

 次に、混雑率緩和の数字が違う、まやかしがあるというようなご質問でありました。

 輸送力増強計画につきましては、現在進められている東北沢から和泉多摩川までの間の複々線化が完成した時点で一六六%程度まで緩和されるということで計画されており、私どももそういう認識をしております。

 それから、新宿までの複々線計画について世田谷区はコンサルに委託をしてある調査を行った、その根拠は何か、それが立ち消えになった理由は何かということでございました。

 ご存じのとおり、小田急線の代々木上原駅から新宿駅までの区間につきましては、連続立体交差化や複々線化について当時も、また現在に至るまでも都市計画決定というものはなされておりません。ただ、そういう増強あるいは立体化ということが行われるわけでありますから、やっぱり地元自治体としてはそれに向けての検討というのは当然必要なわけでありまして、それに向けての検討を平成三年度、区独自に新宿駅までの区間を含めて立体化の線形について検討を行ったということはございます。これは、今申し上げたように、東北沢から世田谷代田までの区間におきまして、駅周辺及び沿線まちづくりの検討を行うに当たりまして、鉄道の構造形式というものは大いなる前提条件になりますので、既定の都市計画などにとらわれず、区独自の検討を行ってきたものであります。

 なぜこういうことをやったか若干考えますと、当時、新宿副都心の周辺の開発、発展、そういうものが目覚ましいものでありまして、同副都心への輸送力増強ということはいずれ必要になるだろうということも想定しまして、検討の条件に入れたものであろうと思います。

 また、当時から現在まで、新宿駅までの複々線計画が都市計画などで定められた経緯がございませんで、ご指摘のように計画が立ち消えになったというような、立ち消えになるものがなかったので、理由はありません。事実も区としては知りません。

 なお、これらの報告書はすべて区政情報コーナーに置いて、どなたでもお読みいただけるようにさせていただいております。いま一度、その前段の記述、与件などをご確認いただければ幸いと存じます。

 以上です。



◎(安田世田谷総合支所長) 私の方からは、判決の関係で、まちづくり協議会を今後どのようにしていくのかというご質問でございます。

 地区街づくり協議会は、街づくり条例に基づきまして地区住民により構成された組織であり、自主的にまちづくり活動を展開することを目的としております。

 経堂駅周辺街づくり協議会においては、平成八年十一月に発足して以来、まちづくり計画原案を取りまとめるなど、経堂の町の発展のために自主的に活動を続けております。

 同協議会の運営等につきましては、お話の判決のありようを問わず、構成員の皆様の判断で自主的に活動されるものと区では認識しているところでございます。

 今後も区といたしましては、経堂駅周辺まちづくりを協議会を初めとした住民の皆様とともに推進してまいりたい、そのように考えております。

 以上でございます。


◆五番(木下泰之議員) 区長にお尋ねしたいと思います。

 先ほど、航空局長まで務めた運輸省のOB、同じ役人ですよね。その方がこれだけの反省を込めて書いておられるんですよ。区長は少なくとも地下化推進についても一時加担したことがあります。それから、議会も二度にわたって地下化決議を上げております。これは正しかったんですよ。それが、ある時期からそれを曲げてしまって、こういう事態に陥った。そのことについてはやはりもう少しきちっとした感想を言っていただきたいと思います。

 それから、原部長についても、先ほどの高橋寿夫さんはあなたの先輩でもありますよ。同じ官僚として本当にどう思っているのか、そのことについてお聞きしたいと思います。

 それから、るる言いわけがましくいろんな答弁がありましたけれども、法的な問題はないというふうに断言されましたけれども、これはだれがそういう判断をしたんですか。この前の九月議会では、いろいろ検討中であるというふうに言いました。どこでこういうふうに判断したのか。問題はないとだれが判断したのか。裁判所しか判断はできないですよね。だれが判断したのか、それについてお答えください。

   〔大場区長登壇〕


◎(大場区長) 初めの方でございますけれども、これはやっぱり 小田急線が早くしなければいけないということを考えてやったわけでありますので、よろしくお願いいたします。


◎(原都市整備部長) その高橋氏の所感についてどう思うか、官僚としてどう思うか、私は官僚ではなくて一介の技術職員でありまして、まちづくりを一生懸命進めたいと思っております。

 そして、問題はないとどう判断したのかということでありますが、それは当時、この自治体の中で、あるいは議会ともご相談しながら、今やれる範囲での一応の方向を出し、それに基づいて議会の決定もいただき、予算もいただき、仕事をしてきたというわけであります。

 最終的には司法が判断すると言われました。まさしくそのとおりであります。日本は成熟した法治国家であり、三権分立を持ち、地方分権を大事にしようと、そういうところであって、その中で司法が最終的に判断することには従うのは当然のことであります。

 ただ、それに至るまで、やはり事業をとめるわけにはいかない。決定が出るまで、やはりやるべきことはやらなければいけないと思いますので、社会通念上、健全な司法の判断が出れば、それに従っていく、それまでは自治体としてしっかりした仕事を進めていきたい、そういう所感を現在持っております。

 以上でございます。


◆五番(木下泰之議員) 少なくとも一審で判決が出たわけですよ。これは、まだそれにかわるものとしての判断が出ていない。


○(新田勝己議長) 以上で木下泰之議員の質問は終わりました。