これは事件だ 神足裕司のニュースコラム―小田急高架事業の違法判決
(「スパ!」2001年10月17日号)


夜討ち朝寝のリポーター 神足裕司のニュースコラム

違法な事業をごり押しした
亡者どもの悪行三昧とは?

Kohtari's NeWs Column これは事件だ 小田急高架事業の違法判決-----


小田急線の高架化事業をめぐり世田谷区の沿線住民123人が国土交通省関東地方整備局長を相手に、都市計画法に基づく事業認可処分の取消しを求めていた訴訟で、東京地裁は3日、事業審査のずさんさを厳しく批判し、処分を取り消しの判決を言い渡した。大子簿名公共事業を取り消す極めて異例の判決で、今後の公共事業のあり方にも大きな影響を与えそうだ。


 小田急線は、地方から東京へやって来た若者にとって中級レベルの私鉄である。
 東京駅を起点にアメ横の上野、映画館の有楽町、コギャルの渋谷、風俗の新宿など山手線ゲームを克服し、そこからつながる中央線でつましい下宿暮らし。金持ちが集う田園調布や自由が丘を控えた東横線に密かな憧れと反発を抱く。
 馴染みの居酒屋のひとつもできて、ああ、これが東京の暮らしかとひと満足した頃、通勤ラッシュの中央線に並行する小田急、京王の奥深さにしみじみとなる。
 3日、東京地裁で藤山雅行裁判長が下した、小田急線の高架化違法の判決は、一見地味である。
 東京暮らしの嘆きのひとつはあかずの踏切だ。歌にもなった。
 通勤ラッシュで本数を増やした鉄道が人とクルマの邪魔をする。
 そこで線路を橋桁で高くして、その下を通れるようにしましょう、というのが高架工事だ。
 混雑緩和、渋滞解消。良いことずくめ、というより国の使命。
 良いこと、国の使命には官僚と政治家が手を擦りながらしゃしゃり出て、税金が注ぎ込まれる。
 訴訟に当たった斉藤驍弁護士は「世間ではこの訴訟を早青等の公害訴訟と考えているが、これにとどまるものでは全くない」と言う。
 住民運動のとっかかりは騒音と環境破壊だったが、運動を続けるうちに掘り当てたのは、バブル期中曽根内閣が構想した「アーバンルネッサンス」というとんでもない利権構造だったのである。
 高架化事業認可取り消しを公約に掲げて当選した世田谷区議、事業に反対したため社民党を追い出された無党派の木下泰之氏が言う。「臨海再開発のウォーターフロント、荒川や多摩川護岸工事なとのリバーフロントと並んで、東京立体再開発(高架化、正式には線増連続立体交差事業)はレールフロントと言うべき」無駄な投資。
 小田急線の高架化事業は、世田谷区内を走る梅ケ丘〜喜多見開の約6.4qである。総事業費は用地買収費950億円、工事費950億円で約1900億円。
 そのうち小田急が負担するのはわずか14%。残りは税金だ。
 というのは、高架複々線事業は公共のものであり鉄道の「大改良事業」という運輸大臣(現国土交通大臣)の指示を受ければ日本鉄道公団の事業になるからである。
 しかも事業が計画された'86年は地価高騰が約束されていた。税金を注ぎ込んで買収した用地の費用を小田急は20年口ーンで返せばいい。それが国の決めことだ。
 ポロ儲けだが、ひとり小田急に儲けさせる事業であるわけもない。
 ややこしい法律の話になるが、高架化事業には「国が事業の52・5%を補助する代わりに、踏切混雑を解消するだけでなく必ず道路を新設しなければならないという特典が付いていた。
 ガソリン税、重量税という道路特定財源を注ぎ込むんだから、ドライバーのみなさまにも恩恵がなくては、いや、困ったな、となる。
 世田谷区の6・4qというわずかな区間に17の鈷切、その道路を拡張する。17本の道路を拡幅し、8本を新設、「日照のため」と称して沿線も買う。地上げ(懐かしい)にかかる予算が3000億円。
 で、道路が広がると土地の用途も法的に変わる。都市再開発である。要となる軽堂駅前32階建て高層ビルに5000億円。
 木下議員ら訴訟に参加した沿線住民は、これを「世田谷マンハッタン計画」と呼んで笑った。
 6・4qに約1兆円。 こりやいいじゃな−い、と秀逸なアイデアに膝を打ったのが当時 の中曽根内閣と官僚だ。

バブル期に仕組まれた
壮大な利稚のからくり

 このマンハッタン計画に三井不動産、三菱地所、住友不動産なとが加わり東京鉄道立体整備株式会社という第三セクターが設立された。
 税金を注ぎ込んでみんなで山分けにできる打ち出の小槌である。
 やった! という当時の官僚、政治家の高笑いの証拠に、同じ事業が都内で7路線9か所、全国で約60か所も行われている。
 税金で鉄道を直し、再開発に群がってみんなで儲ける。
 ややこしいついでに付け加えれば、無駄事業にカネを注ぎ込めることになった裏にはNTT民営化がある。バブルの象徴NTT株、と言っても知らないかもしれないが猫も杓子も江川卓も買った。
 で、10兆円。本来NTTの設備投資、将来の事業に注ぎ込まれるはずの株式売却資金は、中曽根内閣で基金になった。
 国のインフラを整えるために使っていいという法律、特例措定法を作って公共事業に使ったのだから、株主から言わせれば詐欺だ。
 怒るべし、と言うほかない。 NTT資金は全国の第三セクターへ注ぎ込まれ、スキー場になりテーマハークになり、その経営が破綻して村長が首をつる。
 世田谷区沿線住民、木下泰之区議会議員、斉藤驍弁護士らは、この壮大な悪を掘り当てた。
 そして悪集団の泣き所、「高架にするより地下トンネル工事のほうが工費が安い」事実を突きつける。
 東京都は住民に説明するため、わざわざ高い地下工事方式を採用し、用地買収費用は隠し、高架化でなければと言い張った。
 法律違反の上に、経費をゴマカシ、さらに情報開示の法律ができるまで自分たちの計画を隠した。
 住民説明会にはゼネコン社員を2000人も動員して反論をを封じた。総会屋まがい。悪質である。
 が、高架化事業は7割が完成(という数字の根拠を聞いてみれば、完成した棟桁の数が7割ということらしく、木下議員によれば工事全体の進捗率はせいぜい35%)。
 できちゃつた高架をどうする?
 沿線住民が考えた最後のアイデアには、思わず噴き出した。
「緑のコリド一計画」 小田急新宿駅から多摩川へ、14q、20m幅の高架から28fの森が生まれる。
 1000億円を注ぎ込んだ、そして、ゼネコンとデベロッパーと国と都と政治家が大儲けを企んで資金を投じた高架は森になる。
 豪華である。三方一両損である。亡者ともの残念顔が目に浮かぶ。
 昨年、東京地裁は石原都知事と扇国土交通相にこの「和解」を提案した。
 胸のすく解決になるかとうか、笑いをこらえつつ見守りたい。

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木下泰之 TEL 5355−1283 Email kinoshita@a.email.ne.jp