2010年3月23日「京王電鉄京王線(笹塚駅〜つつじヶ丘駅間)連続立体交差化及び複々線化事業」の環境影響評価方法書への意見書


■2010年3月23日「京王電鉄京王線(笹塚駅〜つつじヶ丘駅間)連続立体交差化及び複々線化事業」の環境影響評価方法書への意見書・・・世田谷区議会議員 木 下 泰 之

2010年3月23日

東京都知事 石原慎太郎 様
世田谷区代田4−24−15−102
木下 泰之


東京都により「京王電鉄京王線(笹塚駅〜つつじヶ丘駅間)連続立体交差化及び複々線化事業」の環境影響評価方法書なるものが、法アセスの公告・縦覧手続きがなされ、意見が求められている。

1、事業計画素案についての説明責任を果たさず、環境アセスに進むな!

昨年11月に東京都は、上記「事業」の素案説明会を行ったが、同事業については素案説明会に参加した多数の住民から批判を受けている。
同事業は線増連続立体交差事業として計画されているが、在来線の立体化を高架化で、線増線を地下化で行おうというものである。
素案説明会では、線増線が地下化で実現できるのに在来線を高架で実施することへの批判が集中した。
東京都は4線地下案も検討したが、2線高架・2線地下の採用案が二千二百億円であるのに対し、4線地下方式は三千億円で八百億円高くなるから、地下案は取れないと説明した。
しかしながら、東京都の役人は事業費の積算根拠を明らかにしていないばかりか、詳細な設計比較すら区民に提示していない。複数案の総合アセスが行われているはずの連続立体事業調査については情報開示を区民が求めたが、未だに開示されていない。また、世田谷区の役人によれば、区の役人に対してさえ、同調査報告書は見せてもらえないのだという。
区の役人は調査報告書も手に入れないで北側のみの環境側道の都市計画素案もまとめたのだというが、そんなことはありえないし、あってはならない。
 側道について云えば、喜多見地域の小田急線連続立体交差事業では、環境側道として南北に6mずつの環境側道をとっていたにも関わらず、その後の小田急線の事業においても、今回の京王線の事業においても、環境側道は北側のみにしか取ろうとしていない。これでは環境側道の環境には、日照は考慮するにしても、騒音対策は含まれていないことを意味する。
 騒音対策を考慮し、高架の際には南北に6mづつ(これだけでは騒音対策は不十分であり、もっと広い空間を必要とする。なお、1946年に定められた戦後復興計画においては、小田急線等の高速鉄道においては両脇に30mづつの緑地を配置していた)の側道をとるだけでも、地価の高い市街地に事業を行う以上、高架・地下の費用比較は逆転することとなる。
 さらに高架時の高架下の価値と地下化時の上部更地の価値とを比較し、その有用価値の比較を算定すれば、地下化計画が費用の点においても絶対優位に立つことは想像にしくはない。
 いずれにせよ、東京都や世田谷区は費用条件を勘案しての都市計画素案を示しているにもかかわらず、費用比較の説明責任を果たしていない。しかも、法定の連続立体事業調査において「総合アセス」が義務づけられているにもかかわらず、環境条件での比較についての説明責任を果たそうとしていないのである。
 連続立体事業調査は国が定めた実施要綱・要領によって、環境条件の総合的比較は不十分であるが、制度の中に既に一定の計画段階アセスを内包している。連続立体交差事業調査を公開することから、東京都は初めるべきである。
 説明責任を果たさず、素案を事業案とし、このまま、環境影響評価をおこなうということ自体が間違っている。

2、事業準備採択さえ取っていない事業はアセスに進む資格なし
 今回の連続立体交差事業の範囲及び都市計画変更の範囲は笹塚駅・つつじヶ丘駅間ということになっているが、事業調査準備採択、すなわち連続立体事業調査を行う範囲としては当初は世田谷代田駅・八幡山駅間でしかなかったはずである。ところが、いつの間にか笹塚駅・つつじヶ丘駅間の事業と云うことになり、この範囲を都市計画変更するのだということに変えてしまった。
 今回の連続立体交差事業について、東京都は調査準備採択された区間を超えて事業を実施しようとしており、これまでの連続立体交差事業の通常の手順を逸脱している。
 国はこの事業にゴーサインを出しているわけではないし、ましてや政権交代や道路特定財源の一般化で事業の先行きが見えているわけではない。
 したがって、この事業がいつから着手できるかさえ、現在のところ定かではない。
しかも複々線化事業については、同事業に変えて車両の長大化で混雑を緩和してしまったため、複々線化を早急に行うことが要請されているかどうかも疑わしいといわなければならない。
 事業の時期や確実性を担保もしないうちから、「計画段階アセス」ならぬ「事業アセス」が可能なのであろうか。

3、早期踏切解消の観点からいえば、事業手順や手法は間違っている
 高架・地下併用式の今回の事業計画は最初に在来線の高架事業に10年、そののち5年をかけて複々線事業を地下で行うとしている。
開かずの踏切解消が急務と云って始める事業であるのに、在来線の踏切を解消するのに2013年の期事業開始から最短で10年もかけてよいのだろうか。4線地下シールド方式であれば、地上に電車を走らせながら地下構造物を10年もかからずに完成させることは可能だ。4線を一挙に掘るメガネ形状のシールド機械もあり、これを2線2層地下式で使えば、地上部の買収費は必要なくなる。地上権を買うにしても立ち軒をほとんど必要としない以上、複々線も含め10年もかからずに一挙に完成させることができる(東急目蒲線の例を見よ)。環境側道を含め用地買収を必要とする高架方式では用地買収でつまずけば、事業は格段に遅れることになる。
 百歩譲って、在来線高架と複々線地下化の併用式をとる場合、今回のように、在来線の工事完成後でなければ複々線事業はできないとすると、在来線事業の遅れが複々線事業の遅れにつながることとなる。 
しかも、現在の車両運用のまま高架に上がるので、騒音問題はより深刻になる。もし、複々線地下工事を先行させるとすれば、地下鉄が5年でできた段階で開かずの踏切の解消は、遮断時間の短縮と云う意味でかなり進むことになるはずである。
 そもそも事業手順や、事業手法が間違っているのである。
4、都の環境アセス条例の趣旨を生かし、計画段階アセスを実施せよ
 東京都は計画段階アセスの試行を経て、2002年の段階で、計画段階アセスを盛り込んだ環境影響評価条例を議会で成立させている。
 在来線の連続立体交差事業は7.1キロメートルであり、第2種の下限の7.5キロメートル以下であり、これだけでは法アセスの二種事業にはならない。ところが複々線事業は8.3キロメートルあり、7.5キロメートル以上ある。このことによって法アセスの二種事業に該当するということになる。そもそも線増連立事業の調査準備採択は代田橋駅・八幡山駅間なのだから、当初の調査段階では都条例アセスを予定していたはずである。
 ところで、現在の法アセスには計画段階アセスは規定されていない。もし法アセスでないとしたら、都条例アセスでアセスをやることにはなる。この条例アセスで行うとしたら、計画段階アセスに該当しないのだろうか。現段階の都の役人の解釈では、都条例アセスに該当するとしても、東京都単独の事業ではなく他の自治体や事業主体と連携する事業は計画段階アセスには該当せず、事業段階アセスのみに対応するのだそうである。
 実際問題として、西武新宿線の連続立体交差事業は7.5キロに満たず都条例で行われている。しかしながら西武線や中野区と連携しているとの解釈から計画段階アセスはやらないのだというのである。
 本当にこれでよいのだろうか。連携事業を排除するという条項がまずおかしい。小田急線や京王線事業の例によれば、世田谷区は連続立体化事業調査報告書さえ見せてもらっておらず、連携から排除されている。それでいて世田谷区が側道の都市計画はつくるそうだが、そもそも連携事業ですらない。
また、小田急訴訟などの例でいえば、連続立体交差事業と複々線事業は別の事業だと主張しているのは東京都の側である。その主張が論理的に真であるとするならば、少なくとも東京都実施に関する事業は計画段階アセスを実施すべきである。
 ところが、法アセスに現在のところ計画段階アセス(戦略アセス)がないために、計画段階アセス実施の可能性が指摘される都条例ではなく法アセスに逃げ込んでいるように見えてならない。
 また計画段階アセスが盛り込まれていない現行の法アセスを実行することになるにせよ、この前段階として、計画段階アセスを都条例として実施すべきである。
 そもそも、東京都は、国にアセス法がない時代には、都条例アセスで対応してきたのであり、法ができたからと云って、計画段階アセスを控える理由にはならない。
いずれにせよ、去る3月19日に鳩山内閣は閣議でアセス法改正案に計画段階アセス(戦略アセス)を盛り込む法案を今期通常国会に提出することを閣議決定したのであり、通常国会でこの法案は成立することになろう。計画段階での環境影響評価、すなわち戦略アセスの重要性は日増しに高まっている。

5、都市計画法は最先端のアセス制度を要請している

ところで、環境アセス制度とは何であろうか、環境により優しいより良き都市計画や事業計画を選び取る手段に過ぎず、制度をクリヤーすればそれでよしとされるものでもあるまい。
したがって、都市計画にせよ事業計画にせよ、立案側の知見や予測を包み隠すことなく提示され、計画のより良き修正や、計画の中断を予め可能とすることこそが重要であろう。とりわけ地球環境が心配されサスティナブルな都市政策が求められている現在、計画段階からのアセス手法や戦略的アセス手法は、行政計画にとってもはや不可欠なものであり、日々実践しなければ、行政の責任を果たすことにならない。

都市計画法は(都市計画の基本理念)を第2条に掲げ、

都市計画は、農林漁業との健全な調和を図りつつ、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきことを基本理念として定めるものとする。

と定めている。

そのうえで、その3条に(国、地方公共団体及び住民の責務)を次のように規定している。
第三条  国及び地方公共団体は、都市の整備、開発その他都市計画の適切な遂行に努めなければならない。
2  都市の住民は、国及び地方公共団体がこの法律の目的を達成するため行なう措置に協力し、良好な都市環境の形成に努めなければならない。
3  国及び地方公共団体は、都市の住民に対し、都市計画に関する知識の普及及び情報の提供に努めなければならない。

アセス制度は、この基本理念と国、地方公共団体及び住民の責務を実現するためのものである以上、その時代の最先端の影響評価手法が採用されてしかるべきであり、国や自治体が把握した、あるいは把握しうる知見や知識は都市の住民に対し提供あるいは開示されなければならない。

6、連続立体交差事業は大規模な総合施設計画、見合った環境アセスメントの実施を
 既に連続立体事業調査の内容が鉄道沿線全体の総合都市計画の調査であることからも分かるように、連続立体交差事業は単に鉄道事業が周辺に与える環境影響のみに限定するべきではない。
 鉄道施設のみで考えれば、高架計画により日照や景観のみならず、鉄道騒音が考慮されなければならないが、この鉄道騒音ですら、在来鉄道の改良事業については従来騒音が低減しさえすればよいというのが小田急線での一連の訴訟事件以前の対処の仕方であった。1998年の総理府の公害等調整委員会の裁定は一定の基準を示したが、WHOの環境騒音基準に比して相当に甘いものであった。WHO基準に照らせば、高架鉄道をつくる際に南側に環境側道を取らないことなどはあり得ない。
 「都市における連続立体交差事業」は都市の中で一定のスパンにおいて道路と鉄道を連続して交差させ、さらに道路新設をも予定しているものである以上、この「連続立体交差化」という都市施設の事業は、都市環境の大きな改変をもたらすことになる。駅周辺の再開発や土地や構造物の高度利用が進むことが予定される以上、環境保全の観点に立っての事業の総合的コントロールが必要となる。
この事業を実施する時には「連続立体交差事業調査」が義務づけられているが、この調査をオープンなものとすることこそ、面的な広がりをもった事業の全体像とその問題点が把握されることになろう。
事業は面的広がりをもって、複合的に理解され、それらの諸要素が点検されなければならない。
方法書で示された環境影響評価項目においては、交差道路による交通量の増大と大気汚染と騒音問題については一切触れられていないが、連続立体事業が道路事業費によって成り立っている以上、交差道路及び新設道路による大気汚染と騒音については怠ってはならない評価項目である。
 とりわけ、今回の事業対象地域においては、すでに甲州街道や首都高速4号線による激甚な大気汚染や騒音問題が存在している。しかも京王線自体の騒音も激甚である。現在の激甚な騒音状況や大気汚染状況を如何に抑えていくかという視点こそ重要である。
鉄道騒音については現況の騒音を多少なりとも低減すればそれでよしとする、現行騒音基準をとる限り、この地域での激甚な騒音被害はなくならない。
鉄道を高架化すれば、低層の定点では騒音は低減するかもしれないが、中高層階の観測点では騒音は増すことになる。また、地域によっては甲州街道や首都高速4号線の騒音の相乗効果で深刻な騒音被害が生まれることにもなる。このことは交差道路や側道の大気汚染についても同様のことが言えるのである。
事業による環境変化については複合的にとらえ、一つ一つの環境改変要素を的確にとらえるために的確な項目を設けるとともに、総合的に評価するべきである。

7、環境の世紀にふさわしい緑のコリドーの実現を

京王線の線増連続立体交差事業について東京都は在来線の高架、複々線の地下化の併用案を提示したが、京王線事業は在来線、線増線(複々線)ともに、地下化にして、地上は緑道とし、環境コリドーとして利用すべきであると考える。
既に、新宿駅から播ヶ谷駅に至っては地下化の跡地は緑道になっている。これを延伸して多摩川まで緑道で繋げる意味は大きい。東京は高度成長期の際に河川を埋め立て、首都高速を配置するなどしてコンクリートで塞ぎ、水辺の緑の並木も合わせて消失させてしまった。
京王線のみならず、都市部の連続立体交差事業を鉄道の地下化で行えば、都心から放射状に延びるラインとしての緑地が出現する。生物多様性を回復し、市民に憩いの場を提供し、都市に潤いを与える施策として鉄道跡地を積極的に活用すべきである。 都市に緑や良好な環境を回復する積極的な事業への転換をこそ望むものである。
以上

(2010年3月23日)


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