2006年(平成18年)10月20日

 

平成17年度一般会計決算認定への反対討論

―ミネルバの梟は黄昏時に飛び立つ―

世田谷区議会議員「無党派市民」 木  

 

平成17年度一般会計歳入歳出決算認定に反対の立場から討論をおこないます。

平成17年度予算に私は反対いたしました。その決算認定にも反対です。

予算が審議された平成17年3月の議会では、梅ヶ丘駅前のけやきをどうか切ってくれるなと、区長に懇願しました。しかし、助命嘆願むなしく、けやきは切られ、或いは移植され、平成17年度に繰り越された予算で梅ヶ丘駅北口は交通ロータリーに変えられてしまいました。一方で、平成17年度は下北沢地区の小田急線の連続立体化事業が本格化し、補助54号線の整備による高層化誘導の下北沢駅周辺の再開発事業の準備が着々と進められた年度でした。

ところで、平成17年は都市計画を巡るわが国の訴訟史上、画期的な判決がもたらされた年でもありました。平成17年12月7日、最高裁大法廷は梅が丘以西の小田急線連続立体交差事業の高裁での逆転不当判決を無効とし、環境影響が及ぶ範囲を極めて広く取った上で、都市計画を争う権利を認めました。

この大法廷判例が画期的であったのは、単に行政事件訴訟法改正の後付けを行なったという以上に、都市計画法を環境法と位置づけ、環境の観点から都市計画を組み立て直すことを行政に迫ったことにあります。また市民の具体的権利を守る訴えが、公的な役割を持つことをはっきりと認めた判例でもありました。

司法の側が、その役割を大きく革新した平成17年度に、残念ながら、世田谷区政は都市計画において、土建国家の一番悪い慣習をそのままにし、或いは悪い慣習をむき出しにして、平成18年の今に至っているといわなければなりません。

 

今回の決算議会で、私は、下北沢駅周辺地地区計画の策定過程において、見過ごすことのできない違法行為が世田谷区の組織ぐるみで遂行されていることを指摘し、その中止と区民への謝罪を熊本区長に要求してきました。

都市計画法17条は区民及び関係者への都市計画の公告・縦覧を定め、意見書の提出権を定めてあります。ところが、生活拠点整備担当部の第1課長等は部長と相談の上、賛成意見の「ひな型」と、例示文、提出指南書を作成し、下北沢地域の商店街、町会、下北沢街づくり懇談会の9団体の役員に配布しました。

公務員は国民への全体奉仕者として公正・中立でなければなりません。これは憲法や地方公務員法にも定められた義務であります。賛成意見を誘導・加担する行為が、この憲法上、法律上の義務に違反することは、だれの眼にも明らかであります。

作成と配布の行為については認めているにも係らず、担当部課長は、賛成の役員から頼まれて作成して何が悪いと開き直り、監督すべき助役もこれを良しとし、服務違反を調査すべき総務部長ともども調査の必要はないといい、熊本区長もこれを追認しました。そして、一昨日にはとうとう、不正行為を不問にしたまま、都市計画法17条で提出された意見書の要約含む文書を添えて、都市計画審議会に諮問してしまったのであります。

 

17条での行為は区長も含め認めたものですが、16条での意見書提出の際、提出された賛成意見がどのようなものであったのかをここで触れないわけにはいきません。

情報開示によって出てきた意見書は名前住所が伏せられていますが、全体の意見書総数427通の内、賛成意見書は129通、反対意見は277通です。賛成意見129通中124通は複製コピーされたものであり、3つの課題が列挙されたものが19通、3つの課題の1項目づつが、それぞれ、41通、27通、37通で合計124通なのです。

まともに意見をつづったものは残りの5通しかありません。

この3つの課題を列挙しておいて、その中からひとつずつを選ぶという手法は17条での意見書誘導の文書で行政が行なった手法と同一です。使われている文言もほぼ同一です。しかもこれらの意見書は全て最終日の受領印で受け付けられています。

区の担当者は、16条での区の関与は否定していますが、もし区が関与していないとしたならば、町会や商店街、及び街づくり懇談会の役員にとっては賛成意見を大量に提出するためのノウハウは既に分かっていたのであり、16条で行なわれた手法とほぼ同一の手法を伝授してもらう必要などはないのであります。同一の手法、文言の同一性から考えれば、区職員の関与は限りなく黒に近いといわなければなりません。

ところで、16条の際の地権者の賛成意見は28通、反対は27通と区は報告をしています。このうち、少なくとも賛成意見の23通以上が複製ものであったわけですから、1票差で賛成が反対を上回っていたとしても、ほとんど意味を成さないといわなければなりません。

ましてや、2200名の地権者の圧倒的多数が意見書さえ提出しないのは、地区計画の内容がほとんど理解されていないことの証左です。賛成だけれども、どう書いてよいか分からないから、「ひな型」を作ってくれと17条縦覧の際に地元の商店街、町会、街づくり懇談会の役員が云ったというのであれば、そもそも地区計画問題は、本当の所、その人々にはまったく理解されていないということになるのではないでしょうか。

地区計画制度が立法されたときの国会答弁では少なくとも地権者の100%の同意がのぞましいとされており、各自治体のアンケートでも80%以上の同意が必要であるとされている地区計画の策定作業が、このような成り立ちで良いわけはありません。

賛成意見の「ひな型」をつくり、9団体の役員に渡したという事実は認めたにもかかわらず、その上このことが、公正・中立を大きく逸脱し、刑法193条、公務員職権乱用罪の疑惑まで今議会で指摘されているにもかかわらず、また、16条での意見書では地権者の圧倒的な同意という地区計画を成立させる要件をそもそも欠いており、さらに17条意見書では、賛成意見誘導にもかかわらず、6割もの反対意見が突きつけられているという事実の前にもかかわらず、熊本区長は一昨日都市計画審議会に地区計画案を諮問しました。これはもはや犯罪行為といわざるを得ません。

 

昨日からのマスコミ報道で、この失態は全国に知られるところとなりました。

下北沢駅地区の計画案意見募集、世田谷区、賛成「ひな型」。審議会会長「中立性疑う」

これが、19日付け東京新聞東京版の見出しです。東京新聞は結局、1面と26面、22面掲載の特報扱いをしています。そればかりではありません。東京新聞の全国版である中日新聞もこれを転載しています。記事はリードで次のように書かれているのです。

「下北沢駅周辺の再開発問題で、世田谷区が駅周辺の地区計画案について区民から意見募集した際、提出用に「私は地区計画に賛成です」と印刷した紙を配布していたことが、十八日の区都市計画審議会で明らかになった。「世論誘導だ」との委員の追及に、区側は「(賛成派の住民から)用紙の書き方が分からないと相談を受けたので、応じただけ」と弁解したが、同審議会の東郷尚武会長は「公務員の中立性が疑われる行為」と苦言を呈し、区の不手際ぶりが浮き彫りにされた。」 

毎日新聞は、「審査会終了後、東郷会長は「行政側に、市民の意見を特定の方向に誘導するような行為があったのは、公平性、公正性の点で問題がある」との会長談話を報じました。その他、朝日、産経も賛成誘導問題を取り上げています。

今回の審議会では学識経験者3名が全て反対し、9対5で可決されました。欠席した学者1名からも反対の意見表明がありました。いわゆる学経が全て反対に回った中での異例の採決ですが、公平性、公正性に問題があると東郷会長が指摘する以上、採決するべきではなかったし、私は採決は無効だと思っています。

 

一昨日、都市計画審議会の開催の直前に補助54号線と区画街路10号線の事業が認可されました。このことは道路計画、地区計画、用途変更、が不可分の事業であることを示しました。行政は防災を再開発の理由に挙げようと躍起ですが、広大な小田急線跡地の利用計画を防災の観点から積極活用することを検討しようとしていません。この事業は連続立体交差事業の一環としてある以上、不当なことです。

既に補助54号、区画街路10号の事業認可の問題では裁判が提起されており、11月20日には最初の弁論が開かれます。

今回の賛成意見誘導事件はこの裁判の中でも徹底的に追及されていくでしょう。

 

世田谷区は街づくりの先進自治体という言葉がありました。

最早、見る影もありません。

廃墟です。

ミネルバのふくろうは黄昏時に飛び立つといいます。

今こそ、下北沢高層再開発見直しの闘いから、そして、小田急連立事業見直しの闘いから、都市計画のあり方を変える市民の新たな闘いは始まるのだということを申し上げて、平成17年度一般会計決算認定への反対討論とします。