平成18年第3回定例会(自920日 至1020日)

世田谷区議会会議録

2006年 9月20日 平成17年度一般会計決算認定への反対討論



○菅沼つとむ 議長 次に、四十八番木下泰之議員。
   〔四十八番木下泰之議員登壇〕

◆四十八番(木下泰之 議員) 平成十七年度一般会計歳入歳出決算認定に反対の立場から討論を行います。
 平成十七年度予算に私は反対いたしました。その決算認定にも反対です。予算が審議された平成十七年三月の議会では、梅ケ丘駅前のケヤキをどうか切ってくれるなと区長に懇願いたしました。しかし、助命嘆願むなしくケヤキは切られ、あるいは移植され、平成十七年度に繰り越しされた予算で、梅ケ丘駅北口は交通ロータリーに変えられてしまいました。
 一方で、平成十七年度は下北沢地区の小田急線の連続立体交差事業が本格化し、補助五四号線の整備による高層化誘導の下北沢駅周辺再開発事業の準備が着々と進められた年度でした。
 ところで、平成十七年は都市計画をめぐる我が国の訴訟史上、画期的な判決がもたらされた年でもありました。平成十七年十二月七日、最高裁大法廷は梅ケ丘以西の小田急線連続立体交差事業の高裁での逆転不当判決を無効とし、環境影響が及ぶ範囲を極めて広くとった上で、都市計画を争う権利を市民に認めました。
 この大法廷判例が画期的であったのは、単に行政事件訴訟法、手続法の改正の後づけを行ったという以上に、都市計画法を環境法と位置づけ、環境の観点から都市計画を組み立て直すことを行政に迫ったことにあります。また、市民の具体的権利を守る訴えが公的な役割を持つことをはっきりと認めた判例でもありました。
 司法の側がその役割を大きく革新した平成十七年度に、残念ながら世田谷区政は、都市計画において土建国家の一番悪い慣習をそのままにし、あるいは悪い慣習をむき出しにして、平成十八年の今に至っていると言わなければなりません。
 今回の決算議会で私は、下北沢駅周辺地区計画の策定過程において見過ごすことのできない違法行為が世田谷区の組織ぐるみで遂行されていることを指摘し、その中止と区民への謝罪を熊本区長に要求してまいりました。
 都市計画法十七条は、区民及び関係者への都市計画の公告・縦覧を定め、意見書の提出権を定めてあります。ところが、生活拠点整備担当部の第一課長などは、部長と相談の上、賛成意見のひな形と例示文、提出指南書を作成し、下北沢地域の商店街、町会、下北沢街づくり懇談会の九団体の役員に配布いたしました。
 公務員は国民への全体の奉仕者として公正中立でなければなりません。これは憲法や地方公務員法にも定められた義務でもあります。賛成意見を誘導し、あるいはまた賛成意見に加担する行為が、この憲法上、法律上の義務に違反することは、だれの目にも明らかであります。
 作成と配布の行為については認めているにもかかわらず、担当部課長は賛成の役員から頼まれて作成して何が悪いと開き直り、監督すべき助役もこれをよしとし、服務違反を調査すべき総務部長ともども調査の必要はないと言い、熊本区長もこれを追認しました。そして一昨日には、とうとう不正行為を不問にしたまま、都市計画法十七条で提出された意見書の要約を含む文書を添えて、都市計画審議会に諮問してしまったのであります。
 十七条での行為は区長も含め認めたものですが、十六条での意見書提出の際、提出された賛成意見がどのようなものであったかを、ここで触れないわけにはまいりません。
 情報開示によって出てきた意見書は、名前、住所が伏せられておりますが、全体の意見書総数四百二十七通のうち、賛成意見は百二十九通、反対意見は二百七十七通です。賛成意見百二十九通中百二十四通は複製コピーされたものであり、三つの課題が列挙されたものが十九通、三つの課題の一項目ずつが、それぞれ四十一通、二十七通、三十七通で、合計百二十四通なのです。まともに意見をつづったものは残りの五通しかありません。
 この三つの課題を列挙しておいて、その中から一つずつを選ぶという手法は、十七条での意見書誘導の文書で行政が行った手法と同一です。使われている文書もほぼ同一です。しかも、これらの意見書はすべて最終日の受領印で受け付けられております。
 区の担当者は十六条での区の関与は否定しておりますが、もし区が関与していないとしたならば、町会や商店街及び街づくり懇談会の役員にとっては、賛成意見を大量に提出するためのノウハウは既にわかっていたのであり、十六条で行われた手法とほぼ同じ手法を伝授してもらう必要はないのであります。同一の手法、文言の同一性から考えれば、区職員の関与は限りなく黒に近いと言わなければなりません。
 ところで、十六条の際の地権者の賛成意見は二十八通、反対二十七通と区は報告しております。このうち、少なくとも賛成意見の二十三通以上が複製のものであったわけですから、一票差で賛成が反対を上回ったとしても、ほとんど意味をなさないと言わなければなりません。
 ましてや、二千二百名の地権者の圧倒的多数が意見書さえ提出しないというのは、地区計画の内容がほとんど理解されていないことの証左であります。賛成だけれども、どう書いてよいかわからないからひな形をつくってくれと、十七条縦覧の際に、地元の商店街、町会、街づくり懇談会の役員が言ったというのであれば、そもそも地区計画問題は、本当のところ、その人々には全く理解されていないということになるのではないでしょうか。
 地区計画制度が立法されたときの国会答弁では、少なくとも地権者の一〇〇%の同意が望ましいとされており、各自治体のアンケートでも八〇%以上の同意が必要とされている地区計画の策定作業が、このような成り立ちでよいわけはありません。
 賛成意見のひな形をつくり、九団体の役員に渡したという事実は認めたにもかかわらず、その上、このことが公正中立を大きく逸脱し、刑法百九十三条、公務員職権乱用罪の疑いまで本議会で指摘されているにもかかわらず、または十六条の意見書では、地権者の圧倒的な同意という地区計画を成立させる要件そのものを欠いており、さらに十七条意見書では、賛成意見誘導にもかかわらず、六割もの反対意見が突きつけられているという事実の前にもかかわらず、熊本区長は一昨日、都市計画審議会に地区計画案を諮問しました。これはもはや犯罪行為と言わざるを得ません。
 昨日からのマスコミ報道で、この失態は全国に知られるところになりました。「下北沢駅地区の計画案意見募集 世田谷区、賛成『ひな型』審議会長『中立性疑う』」、これが十九日付の東京新聞東京版の見出しです。東京新聞は結局、一面と二十六面、二十二面の三つの面を使って特別に報道しております。
 そればかりではありません。東京新聞の全国版である中日新聞もこれを転載しております。記事はリードで次のように書かれております。「下北沢駅周辺の再開発問題で、世田谷区が駅周辺の地区計画案について区民から意見募集した際、提出用に『私は地区計画に賛成です』と印刷した紙を配布していたことが、十八日の区都市計画審議会で明らかになった。『世論誘導だ』との委員の追及に、区側は『用紙の書き方が分からないと相談を受けたので、応じただけ』と弁解したが、同審議会の東郷尚武会長は『公務員の中立性が疑われる行為』と苦言を呈し、区の不手際ぶりが浮き彫りにされた」。
 毎日新聞は、「行政側に、市民の意見を特定の方向に誘導するような行為があったのは、公平性、公正性の点で問題がある」との会長談話を報じました。
 その他、朝日、産経も賛成誘導問題を取り上げております。
 今回の審議会では、学識経験者三名がすべて反対し、九対五で可決されました。(発言する者あり)

○菅沼つとむ 議長 お静かにお願いします。

◆四十八番(木下泰之 議員) 欠席した学者一名からも反対の意見表明がありました。(発言する者あり)

○菅沼つとむ 議長 お静かにお願いします。

◆四十八番(木下泰之 議員) いわゆる学経がすべて反対に回った中での異例の採決ですが(発言する者あり)

○菅沼つとむ 議長 お静かにお願いします。

◆四十八番(木下泰之 議員) 公平性、公正性に問題があると、東郷会長が指摘する以上、採決するべきではなかったし、私は採決は無効だと思っております。
 一昨日、都市計画審議会の開催の直前に、補助五四号線と区画街路一〇号線の事業が認可されました。このことは、道路計画、地区計画、用途変更が不可分の事業であることを示しました。行政は防災を再開発の理由に挙げようと躍起ですが、広大な小田急線跡地の利用計画を防災の観点から積極活用することを検討しようとしておりません。この事業は連続立体交差事業の一環としてある以上、不当なことです。
 既に補助五四号線、区画街路一〇号線の事業認可の問題では裁判が提起されており、十一月二十日には最初の弁論が開かれます。今回の賛成意見誘導事件は、この裁判の中でも徹底的に追及されていくでしょう。
 世田谷区はまちづくりの先進自治体という言葉がありました。もはや見る影もありません。廃墟です。ミネルバのフクロウはたそがれどきに飛び立つというけれども、今こそ下北沢高層再開発見直しの闘いから、そして小田急線連続立体交差見直しの闘いから、都市計画のあり方を変える市民の新たな闘いは始まるのだということを申し上げて、平成十七年度一般会計決算認定への反対討論といたします。(拍手)

○菅沼つとむ 議長 以上で木下泰之議員の意見は終わりました。