平成18年第1回定例会(自31日 至330日)

世田谷区議会会議録

2006年 3月10日 世田谷区災害対策条例、世田谷区国民保護対策本部及び緊急対処事態対策本部条例、世田谷区国民保護協議会条例への反対討論



○菅沼つとむ 議長 これより意見に入ります。
 なお、意見についての発言時間は、議事の都合により一人十分以内といたします。
 発言通告に基づき、順次発言を許します。
 四十八番木下泰之議員。
   〔四十八番木下泰之議員登壇〕

◆四十八番(木下泰之 議員) 重要案件ばかりなので、失礼いたします。
 議案第七十九号「世田谷区災害対策条例」、議案第八十号「世田谷区国民保護対策本部及び緊急対処事態対策本部条例」、議案第八十一号「世田谷区国民保護協議会条例」に反対の立場から討論を行います。
 先に議案第八十号と八十一号の反対理由を述べ、後に議案七十九号の反対理由を述べます。
 議案第八十号「世田谷区国民保護対策本部及び緊急対処事態対策本部条例」、議案第八十一号「世田谷区国民保護協議会条例」は、いずれも武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律によって、地方自治体に義務づけられた組織を設置するための条例でありますが、まず何よりも前提となる同法及び同時に成立した武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律などの関連有事法は、我が国の憲法に違反、背反しております。このような法律は廃止するべきであります。
 武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律は、武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態の際に、これに対する措置として、内閣総理大臣に対し武力の行使及び自衛隊と米軍の行動が円滑に行われるために実施する措置を行う強大な権限を付与するものです。武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態の概念があいまい無限定であり、かつ武力の行使及び措置の概念が広範かつ無限定であります。しかも、それらに対する国会の民主的コントロールが事後的にしか及ばない点では、政府による恣意的政治的濫用の危険性を内包しております。
 また、米軍へのいわゆる後方支援を目的とする周辺事態法の周辺事態と本法武力攻撃予測事態の類似性にかんがみれば、法は、政府に対し米軍と共同して相手国の武力攻撃をあらかじめ排除するための武力行使、すなわち相手国への先制攻撃を許容すると解する余地もあり得るところであって、国権の発動たる戦争と国際紛争を解決する手段としての武力の行使を禁じている憲法第九条一項に正面から抵触しております。
 武力攻撃事態などへの対処として、国民の協力義務のもと、一方で武力行使に係る国民の基本的人権への広範な制約、国民の財産に対する管理、使用、収用、保管命令及び国民に対する業務従事命令を許容し、他方で、指定公共機関としてのNHK、民法などの報道機関、電気、ガス、輸送、通信の民間業者及び地方自治体に対する内閣総理大臣の直接指示権、直接実施権を付与しております。
 内閣総理大臣の行政機関への直接指示権だけではなく、一般国民に対する包括的な協力義務と罰則を伴う広範な協力体制を想定し、指定公共機関たる民間法人、地方自治体をもこれに包摂する、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律の構造は、武力攻撃事態などのもとで国民総動員体制を可能とするものであり、日中戦争から二次大戦敗戦まで自国政府と自国軍隊によっても多大な犠牲を払わされた日本国民としては、決して許容のできるものではありません。
 また、同法は、国民の保護は規定しているけれども、在日の外国人については一切触れておりません。戦時でもない関東大震災時に、警察や軍隊の先導で自警団や民衆も加担して朝鮮人や中国人の大量虐殺を経験している日本では、その過ちを繰り返さない配慮こそ望まれるのに、そのような配慮が全くないということ自体、周辺国や諸外国への配慮を欠いており、憲法論をらち外に置いたとしても、法律として失格であります。
 そのような法律を基礎に置いた条例案である議案第八十号「世田谷区国民保護対策本部及び緊急対処事態対策本部条例」、議案八十一号「世田谷区国民保護協議会条例」制定には反対いたします。
 次に、議案第七十九号「世田谷区災害対策条例」について申し上げます。
 委員会では、同条例の四条で、区民の努力義務を定めた文言の取り扱いで修正意見が提出されましたが、結局は原案どおりの「努めなければならない」とする、強い口調の努力義務規定を持つ原案が賛成多数で通ってしまいました。強い口調であるか否かにかかわらず、私は四条二項の「区民は、地域社会を支える一員としての責任を自覚し、地域において相互に協力するとともに、自発的に防災区民組織に参加する等災害対策に関する活動の推進に努めなければならない」とする条項を見るにつけ、これは危険であると言わざるを得ません。この条項の防災区民組織には括弧づけがあって、その括弧内は防災区民組織の定義が書いてあります。「(災害から地域社会を守るために町会等を基礎として区民が自主的に結成した組織をいう。以下同じ。)」
 今まで消防団などは、自主的組織であるからこそ重要であるし、よくやっているとも私は評価してまいりました。しかし、このように条例でその活動に参加推進することの努力義務が書かれるということになると、これはもう自主的組織ではなくなります。町会への加入の努力義務は書かれてはいないけれども、町会などを基礎として書かれることによって、町会に特段の権威を与えております。
 商店街の振興条例で商店街への加入努力義務が条例に規定されることについて、私は反対しましたけれども、全国初でこのような条例を世田谷区と区議会はつくってしまいました。今度は消防団への参加や協力の努力義務を明記し、町会についても条例で権威づけています。町会の前身が隣組であったことを忘れないでいただきたいと思います。地域コミュニティー組織が権力と結びつき、強固なファシズムを形成していた私たちの父や祖父の時代のことを忘れてはなりません。本日は東京大空襲の記念日であります。黙祷を私もいたしました。私たち日本人は戦争の被害者であるとともに加害者でもあったということを忘れてはなりません。
 議案第七十九号は「世田谷区災害対策条例」です。自然災害だから許容されるべきとの向きもあるでしょう。しかし、先ほど問題にした議案第八十号「世田谷区国民保護対策本部及び緊急対処事態対策本部条例」、「世田谷区国民保護協議会条例」の上位法である武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律の四十二条においては、災害対策基本法に基づく防災訓練と有機的に連動することが求められていることを忘れてはなりません。
 四十二条は訓練について定めてあって、次のようになっております。「指定行政機関の長等は、それぞれその国民の保護に関する計画又は国民の保護に関する業務計画で定めるところにより、それぞれ又は他の指定行政機関の長等と共同して、国民の保護のための措置についての訓練を行うよう努めなければならない。この場合においては、災害対策基本法第四十八条第一項の防災訓練との有機的な連携が図られるよう配慮するものとする」。
 つまり、防災訓練は国防訓練であることになってしまったことに十分な注意を払わなければなりません。戦前もそうでしたが、積極的に攻撃的な戦争を宣伝する国家や政治家はありません。国ですべて防衛を理由に戦争は始められております。九・一一以降は、国際テロからの防衛が戦争を始める理由ともなりました。そういった中で、国民総動員体制が可能となる法や条例の制定には慎重にも慎重を期さなければなりません。
 今回の世田谷区災害対策条例案に区民の責務として種々の努力義務規定が課してあることに反対いたします。とりわけ自主的な組織への参加努力義務などは語義矛盾も甚だしいと言わなければなりません。自主的組織は自発性のみがすべてであって、努力義務を課せば、結局は強制組織として実質的に機能することになります。
 以上の理由から、世田谷区災害対策条例に反対いたします。(拍手)

○菅沼つとむ 議長 以上で木下泰之議員の意見は終わりました。