平成18年第1回定例会(自31日 至330日)

世田谷区議会会議録

2006年 3月10日 世田谷区立学校設置条例の一部を改正する条例への反対討論


○菅沼つとむ 議長 これより意見に入ります。
 なお、意見についての発言時間は、議事の都合により一人十分以内といたします。
 発言通告に基づき、順次発言を許します。
 四十八番木下泰之議員。
   〔四十八番木下泰之議員登壇〕

◆四十八番(木下泰之 議員) 議案第七十七号「世田谷区立学校設置条例の一部を改正する条例」に反対する立場からの討論を行います。
 本条例案は、世田谷区立羽根木幼稚園及び世田谷区立旭幼稚園を廃止するためのものであります。私は、公的な幼稚園である区立幼稚園は必要だとの立場から、区立幼稚園の民営化に反対してまいりました。区民から信頼と支持を得ている幼児教育の場である区立幼稚園を廃止する必要はないと考えております。
 幼児教育という人間にとって何よりも新しい課題を突きつけられる問題に対しましては、公的なセクターが責任を持って実践し研究に当たるということが必要であると私は考えております。人間が人間になるのは社会的な存在になるからでありまして、そのためには社会システムが必要です。
 人類は社会の発展とともに教育機関を発達させてきました。その教育機関として初等教育の前に位置づけられているのが幼児教育です。私立幼稚園を選択する人もいれば、幼稚園ではなく保育園に通わせている方々もいる。自主幼稚園、自主保育という活動もあります。いろいろな立場の人がいるでしょう。しかし、公が、言いかえれば、私たちの政府、地方自治体が、初等教育の前の幼児教育に公的にかかわることは必要なことではないでしょうか。もし幼保一元化が必要であるということであれば、その立場からも、公的な存在としてまずは位置づけ、採算よりも新しい試みの意図をもって万全の体制を持って行われてしかるべきであります。
 私たちが現在過ごしている時代は、高度情報化社会として、あるいは爛熟した工業化産業化社会として、人類がかつて経験したことのない時代であるとの認識を持つべきであります。凶悪犯罪や社会的病理もそこから生じているのでありまして、そういった社会状況の中から幼児を守り、かつ未来の社会の担い手をどのように育てていくかは重要課題であります。
 幼児は人間にとっての自然であり、言いかえれば幼児は自然から人間になりつつある存在です。太古から人類の歴史をしょって生まれてきた赤ちゃんを現代につなぐ最初の役割をするのが育児であり、幼児教育ではないでしょうか。そのようなものとして、これからの私たちの未来のあり方をかけて真剣に向き合うことが何よりも求められているのです。
 パブリックがその教育の一端を担うことは、パブリックが新しい時代の要請を発見することでもあります。幼児という大いなる自然から、我々大人は悪戦苦闘しながらも学んでいかなければなりません。幼児教育はそういった重責を担うものであって、だからこそ、幼児に対する最先端の教育システムの模索はパブリックの関与が必要なのであり、単に効率や商業主義に陥ってはならないものであります。そうであればこそ、最先端の幼児教育実践を担うべきであるのが、パブリックな、公的な区立の幼稚園ということになると思いますし、そうでなければ、社会がよい方向に進む、そういうことはないと思います。
 ところが、この間、世田谷区長や教育長は、区立幼稚園は私立幼稚園の補完だと言い放ってきたのであります。そういったことを言ったことについて恥ずべきであるというふうに私は思います。区政を担う首長や教育を担う教育長が言うべき言葉ではありません。
 今回の条例改正は、ネオコンサバティブ的な民営化論のあしきあらわれの一つですが、事が教育問題であるだけに事態は深刻です。幼児教育にとどまりませんが、本来、商業ベースや効率で行ってはならないことを商業ベースや効率に任せてしまう、このような政策を続けていて、未来の日本は本当に大丈夫なのかと思います。商業ベースや効率になじまない課題については、パブリックが必要なところには金も出すし、頭脳と知恵を最大限に使う、そのことが何よりも必要であります。
 当初、区長が公約として掲げていたすべての区立幼稚園の民営化は当面撤回されたようですが、教育は崩れ始めたら、それこそ取り返しがつきません。もっとも公的セクター、パブリックセクターであるというだけではよい教育が可能であるかどうかの保障はありませんし、私は私立幼稚園や私学教育を否定しようというつもりもありません。しかし、パブリックであるがゆえに、すべての区民に開かれたよい教育をつくる最大の条件を持つことができると私は考えております。現に評判がよく、区民から信頼を持たれている公的幼稚園をなくしてしまい、コンビニエンス化のために民営化するという政策を私は支持するわけにはいきません。
 今回の二園の廃止は、区長の幼稚園全園民営化政策から始まったものです。途中で幼保一元化が接ぎ木されてお茶を濁しましたが、幼児教育や保育が政治の道具にされたのではたまったものではありません。教育は責任ある実践を通じて対応の知恵や実績が形成されていく仕事です。区教育委員会や区が当事者として責任を持っていくということで、初めて幼児教育の問題点や解決点が浮かび上がってくるのではないでしょうか。
 今回の二園も含め、区立幼稚園は廃止すべきではありません。区長、教育長は、そして区議会は、本来の教育のあり方をよく考えるべきであるということを申し述べて、議案への反対討論といたします。(拍手)

○菅沼つとむ 議長 以上で木下泰之議員の意見は終わりました。