平成17年第1回定例会(自31日 至330日)

世田谷区議会会議録

2005年 3月30日 平成17年度一般会計予算への反対討論


○宍戸教男 議長 次に、四十八番木下泰之議員。

   〔四十八番木下泰之議員登壇〕

◆四十八番(木下泰之 議員) 昨年秋に提出いたしました平成十七年度予算への要望の中で、私は持続可能な、すなわちサスティナブルな社会を目指しての世田谷区政の転換の重要性と区立幼稚園の廃止反対を例示して、幼児教育や保育など、教育、福祉における公的セクターが果たす役割の重要性を訴えました。残念ながら、区政は全く逆の方向に行っております。

 熊本区政の姿勢は、土建行政に対しては旧来の土建国家日本を踏襲している一方で、福祉や教育などの分野においてはネオコンばりの民営化論を加速させております。官の腐敗に目を向けるばかりに、民の腐敗から目を背けてはなりません。

 バブル経済は官主導であったのか。そうではありません。民主導のバブルであったことは冷厳な事実であります。大事なことは、政府を中心とした公的セクターが、時代に適応した経済政策誘導を今こそ行うことであると私は確信しております。エネルギー政策を含めたサスティナブルな社会に向けてのイノベーションの実施や経済運営の転換こそ必要です。

 日本は土建国家から抜け出て、環境先進国として世界をリードしていかなければなりません。単に、民間と市場にすべてをゆだねていけばうまくいくというものではありません。土建国家にかわるべき経済運営目標が今こそ必要なのであります。そして、そういった努力こそ、日本の経済破綻を回避する道にほかなりません。

 逆に、教育や福祉の切り捨てと民への過度の依存と増税政策は社会の分裂と混乱をもたらすことになるでしょう。国民や区民はそんな社会を望んではいません。

 小泉内閣は土建公共事業への過度な財政出動は手控えてきたものの、旧来型の土建国家体質の経済構造の転換を図れないまま、銀行救済やゼネコン救済のためには財政出動を継続させてきました。このことは結果的に、経済再建のためには旧来の土建主導型のミニバブルを引き起こすしかなく、その行き先が都市部の再開発としてあらわれております。都心の超高層ビル群の林立や、世田谷などの都市居住地区での道路と高層再開発の活発化はまさにそのあらわれであり、また、都市居住地区の再開発にとって連続立体交差事業は格好の土台を提供しております。

 このほど、国土交通省は連続立体交差事業の事業主体を一般市区まで拡大させようとしており、今後は地方都市にも同事業を契機とした再開発ブームを呼び起こすことも画策しております。

 世田谷区だけを考えても、小田急線の連続立体交差事業は下北沢地区がもはや着手されようとしておりますし、また、京王本線や大井町線も連続立体交差事業の準備に入ろうとしており、道路整備と相まって、拠点駅を中心とした大規模再開発が画策され、また、既に先行して始まっております。こういった流れの中で、熊本区長はこれを押しとどめようとするのではなく、より加速させる方向で路線をとっていると言わなければなりません。

 梅ケ丘のケヤキ広場の破壊がそれであり、下北沢での補助五四号線と高層再開発計画、二子玉川の超高層再開発計画、北烏山の超高層マンションと、同地域での相次ぐ高容積再開発、また、区内に数多くある昭和四十年代に整備した団地の一団地認定を取り払い、周辺の高建ぺい率、高容積率に合わせての建てかえ誘導、区内に碁盤の目のように道路を敷いていくのとあわせて、世田谷区全体が高層再開発にさらされようとしております。

 区長は、あかずの踏切解消協議会の議長に就任しました。既に小田急のみならず、京王、大井町線と世田谷区全域の連続立体交差化事業が企画されております。同事業の本質が、ガソリン税や重量税などの道路特定財源によって行われる再開発事業を主眼としたものであることを考えると、連続立体交差化事業の根本転換を求める区民運動こそが今こそ必要なのだということを認識せざるを得ません。

 幸い、三月二日に最高裁第一小法廷は、上告されていた小田急線高架の事業認可取り消し訴訟の上告を受け付け、あわせて一審で住民が勝訴しながらも高裁が門前払いとした原告適格の判例判断を大法廷に回付しました。原告適格の問題では、昨年六月に行政事件手続法が改正され、法が原告適格を拡大しているだけに、マスコミ各社や識者は、原告枠の拡大の判例変更をすると最高裁を見ております。

 一方、高架連立事業は認可延長期限の本年度末、すなわちあしたまでには完成することが不可能になり、平成十九年度まで三年間再延長されるという醜態を演じました。認可を与えた平成六年の段階では、同事業は平成十二年度末までの六年間で終わるとされておりましたが、これは果たせず、国は平成十六年度末までの延期を再認可しておりました。

 平成十三年十月の東京地裁藤山判決は、できもしない事業期間を掲げたこの認可の不適切を違法事由の一つとして認可違法の判決を下しましたが、被告の国や参加人として参加した東京都は、控訴審では延期期間の平成十六年度末までには終わるから違法ではないと豪語しておりました。平成十五年十二月の高裁での逆転判決は、この主張をうのみにしたものといってよいのであります。

 しかし、既に大分前から、平成十六年度末までには連続立体交差事業が完成できないことは事業主体である東京都自身がよくわかっていたはずであります。なぜならば、平成十六年度の当初予算にさえ、事業を終えることを前提とした予算は組まれていなかったからであります。地財法に基づく世田谷区の分担金もまた、終わることを想定していなかったのであります。

 にもかかわらず、本来、環境側道もできていないのに高架複々線を通すことは違法であるにもかかわらず、昨年十二月の複々線開通を強引に行い、複々線開通を事業完成と策出するキャンペーンを行政と小田急は行ってまいりました。この策出を見抜いた住民側からの反撃で、その効果は減殺されましたが、既定事実を積み上げたという効果を行政や小田急はねらってきたのであります。ここに、事業の再延長申請と認可をぎりぎりまでおくらせた理由があります。

 本来、事業延期認可も受けていない事業を当初予算に組んだり、延期認可を前提とした補正を議決してしまうことは違法であり、本来許されることではありません。バブル崩壊以降、公共事業の見直しは何度も言われてきましたが、今、司法がその改革に向けて、公共事業の是正を訴えることができる原告適格の拡大という課題を通じて対応しようとしております。司法のこの姿勢は、司法を通じての公共事業への住民の異議申し立てを広く認めることにより、官僚、役人の専横を抑止しようという積極性にほかなりません。その最先端に小田急訴訟が位置づけられたということは、長年運動に携わってきた者としては光栄のきわみと言うほかありません。

 また、区政は全国的な公共事業見直しのただ中にいるということを区長は肝に銘じていただきたいと、ここで言わざるを得ません。

 区長は、この議会開催中にケヤキを切りました。区みずからが一九九一年に界隈賞を与え、かいわいのランドマークとしてたたえた梅ケ丘駅北口のケヤキ広場を破壊し、ケヤキを切ってしまった、この問題は極めて大きな問題です。駅前広場は交通の結節点です。この交通をどうレイアウトするのか、このことは、実は日本が現在、持続可能な社会の構築という意味で世界から突きつけられた課題にほかならないからであります。

 わかりやすく言えば、木々や緑に囲まれた環境と歩行者を大事にするのか、旧来型の利便性と自動車交通と再開発を最優先するのかが問われております。連続立体交差事業の関連施設ということでは、下北沢や経堂、成城ほかの各駅の再開発問題とも直結しております。みどりの基本条例の制定とともに、世田谷区の象徴樹であるケヤキを切ってしまったという行為の意味を、区長は少しでも考えたことがおありでしょうか。象徴というものがいかに大事かは、保守政治家であるあなたは痛いほどわかっていなければならないはずであります。

 ケヤキ問題は住民裁判となりました。今後とも区政を揺るがす問題ともなるでしょう。ケヤキの問題は、裁判の中では恐らく住民と区のあり方、そういったものが問われてくるでしょう。商店街や町会といったものだけに頼って、広く住民に情報を公開してこなかった区のやり方に対して、大きな反省が迫られていくことになると思います。そういった意味で、民主主義を問う訴訟が始まったというふうに言わなければなりません。

 そういったことを通じて、この区政に反省を迫る、そういった区民運動が起こるでしょう。ケヤキを象徴にして起こるというふうに申し上げておきます。

 以上を申し述べまして、一般会計予算に対する無党派市民の反対討論といたします。

○宍戸教男 議長 以上で木下泰之議員の意見は終わりました。