平成15年第3回定例会(自917日 至1020日)

世田谷区議会会議録

2003年10月20日 平成14年度決算認定への反対討論


○宍戸教男 議長 これより意見に入ります。
 意見の申し出がありますので、順次発言を許します。
 なお、意見についての発言時間は、議事の都合により一人十分以内といたします。
 四十八番木下泰之議員。

   〔四十八番木下泰之議員登壇〕

◆四十八番( 木下泰之 議員) すべての平成十四年度の一般会計及び四件の決算認定に反対の立場から討論を行います。

 私は、前期議会で平成十四年度予算に反対してまいりました。今期議会は、新区長が招集した議会であります。この議会で、前大場区政予算への決算をどのように行うのか、私は注目しておりました。

 長期にわたった大場区政のよどみ、しがらみをただすことを公約として登場した熊本区長の今回の決算の姿勢は、残念ながら大場時代と変わっていないと言わざるを得ません。熊本区政が始まってから、幾つかの不祥事が相次ぎました。どれも前大場区政の負の遺産であります。今回の決算議会が始まる前に発覚した運動場整備に関する談合問題やコンピューター購入の不正問題は、よどんだ区財政のよどみ、しがらみから生じたことが明らかである以上、取り扱い方がおざなりだと言わなければなりません。

 今回の談合事件は、船橋小学校工事の受注に関する談合疑惑が今期議会冒頭の五月臨時議会で問題になったやさきの発覚であります。公正取引委員会が運動場整備の談合を摘発し、当事者が談合を認めた以上、談合の手口や事の子細は、公取の持っている情報を含め議会に提出されてしかるべきだし、少なくとも平成十四年度分の談合分についての処理方針及び今後の談合防止方針は具体的に示されなければならないはずであります。予算を流用したコンピューター購入問題は、他の物品の購入を含めての粉飾決算にもつながるものである以上、少なくとも決算議会中にコンピューター事件の真相は具体的に報告されなければならないはずのものであります。熊本区長はいずれもそうされなかった。

 ところで、今回の議会では熊本区長の六月議会での発言から生じた問題での論争がなされました。区立幼稚園の全面民営化発言に対する論争です。私は、区立幼稚園は民営化すべきでないと主張いたしました。結論的には、区長は前言を事実上撤回され、十分な検討が必要であるという立場に変わりました。聞く耳を持つという点では一定評価できますが、ここで民営化問題について触れておきたいと思います。

 行政の非効率性や不経済性が指摘されて久しくなります。今回もなぜ民営化が必要かとの議論で、当のお役人が、公共セクターとして残しておくと、夜間・休日労働に対応できず、賃金が高いことを理由に挙げられておりました。抜本的な行政改革が課題となっているときに、この理由を挙げて、だから民営化ということで事は足りるのでしょうか。もしそうだとすれば、ここに座っておられる役人はすべて廃業して、行政代行会社でも複数創設してもらって、競争にゆだねられたらいかがでしょうか。一部はそうすべきでありましょう。その方が効率がよい。また、サービス公社や都市整備公社は廃止してしまうべきだというふうにも考えております。

 しかし、公共セクターとして残した方がよい本来的な事業や職務は存在するのであります。幼稚園や保育園は本来そういうものではないでしょうか。民間も役割は果たしておりますが、公立がなくなってよいわけはありません。少子化問題や少年犯罪問題を背景にして見直しが叫ばれている幼児教育や保育の問題は、公共セクターが責任を持って対応しなければならない課題が山積みしております。また、実験的な試みも必要です。我が国における幼稚園の歴史は、公立である女子師範、つまり、現お茶の水女子大の附属幼稚園が先導したということを忘れてはなりません。

 幼保一元化の主張は戦前からありましたが、貧困が社会問題の枢要な課題であった時代とは違って、成熟化社会に対応する幼保一元化論は全く新しい地平で考えられなければなりません。障害者の教育や保育、さらにはジェンダーフリーにも対応させていかなければなりません。社会政策の転換が必要なまさにそのときに、幼児期の教育や保育をどうすべきかという根本問題に立ち返って議論がなされていないことこそが、そもそもの問題ではないでしょうか。区民の参加をもって抜本的に論議するべきであります。

 効率性、経済性の問題についていえば、夜間・休日労働は公共セクターでもできるようにすることが必要です。賃金問題は、何よりも官民格差の是正の問題です。官が高過ぎ、民が低過ぎる。労働密度の問題も含め、この矛盾の是正に労使とも対応しなければ、行政改革も真に豊かで公正な社会の実現もありません。

 幼稚園問題で浮かび上がったもう一つの側面があります。教育行政の独立の問題です。一連の議論の中でわかったことは、区長に、幼児教育も教育問題であり、そもそも教育委員会が責任を持つものであるという自覚がなかったということであります。私立幼稚園への補助金、通わせる父母への補助金は区長部局である総務部が受け持っていることもあり、区長という役職は私立幼稚園と結びつきやすい、そういう性格を持っております。多額な補助金が支給されてもいます。族議員の存在も取りざたされています。だからこそ、区長はこの問題では慎重であるべきなのであります。

 幼稚園民営化問題では、教育委員会の事務方サイドでは民営化論を準備してきたようでありますが、教育委員会の主体である教育委員相互ではきちんとした議論をしてこなかったということが、今回の議会での議論で明らかになってまいりました。

 戦前の反省を込めて、教育に政治を持ち込ませず中立化を図るというのが、戦後我が国の制度上の合意であります。一見地方自治体の長は権限をすべて集中しているように見えますが、我が国の地方行政制度は独立行政委員会を持ち、プルーラル、すなわち多元主義に立っていることを忘れてはなりません。地方行政制度の権限が首長にすべて集中しているわけではないということを自覚すべきであります。

 教育委員は、区長が議会の同意を得て任命しますが、教育長は教育委員会が任命します。残念ながら、教育長は役人の天下りですし、教育委員に独立の気迫がないために区長の従属物のように見えますが、本来はそうではありませんし、そうであるべきではないのであります。

 私は、談合問題やコンピューター購入問題についての監査について、今回、監査委員に注文をつけましたが、監査委員も独立行政委員会であるのですから、独立の気概を持って果敢に区長部局とは対抗的に監査の職務を全うすべきであります。そうすれば、それはオンブズマン的機能を果たすはずであります。しがらみなき行政改革を言うのであれば、このプルーラルな制度を活用すべきであるということをあえて申し上げておきます。天下り人事はやめ、気鋭な人材を配置することにより、行政に緊張感を持たせるべきなのであります。  世間常識では、医療点数は一点十円であります。しかし、区の基本健康診査がいまだ十三円四十銭という、そういった非常識が世田谷区ではまかり通っております。今回の議会で、熊本区長は今後の是正を約束されましたが、この問題こそ、決算で区長はみずから、また監査委員は率先指摘してただすべきなのであります。

 さて、国では藤井道路公団総裁の解任問題で、道路行政をめぐる役人のあり方、天下りの弊害、道路公団及び業界と政治家のしがらみが暴露されつつあります。小田急連続立体交差問題は一見鉄道問題のように聞こえますけれども、その本質はまさにしがらみの道路行政の典型であり、東京地裁での原告勝訴判決に引き続き、高裁での審理によって国や東京都の犯罪はことごとく暴かれており、その責任の一端は世田谷区も免れません。

 一方で、官僚専横、役人専横、一方で族議員、業界との癒着構造こそ、正されるべきであります。藤井総裁解任問題では、このよどみ、しがらみをもはや覆い隠せない、そういった事態を迎えていると申し上げておきましょう。この流れは、十月三十日に結審を迎える小田急訴訟の二審判決にも反映していくでありましょう。国や東京都と並んで、前大場区政が小田急問題で断罪されることにもなるでしょう。新区長は、道路行政、都市開発行政でのしがらみをこそ断ち切るべきであります。道路、高層開発を抑止しなければ、住宅地世田谷は守れません。

 小田急線連続立体交差事業は、区部都市計画道路である網目状の補助幹線道路づくり都市再開発問題そのものであり、違法な小田急連立事業の見直しは、実はこの区部都市計画道路と大規模再開発の見直し問題でもあることをあわせて指摘しておきます。

 以上を述べまして、決算認定のひとり会派無党派市民の反対討論といたします。

○宍戸教男 議長 以上で木下泰之議員の意見は終わりました。