平成10年第2回定例会(自68日 至616日)

世田谷区議会会議録

1998年6月10日 一般質問 小田急騒音問題 責任裁定


○(土田正人議長) 次に、三十七番木下泰之議員。

   〔三十七番木下泰之議員登壇〕

◆三十七番(木下泰之議員) 質問通告に基づき、一般質問を行います。

 小田急沿線の騒音問題に関しましては、住民が一九九二年五月に、政府の公害等調整委員会に責任裁定申請をしていました。このほど同委員会は、委員長の職権調停和解案なるものを示しました。内容は、申請人三百五名のうち、日平均騒音レベル六十八デシベル以上の七十七人に対し小田急電鉄が防音工事費として百万から三十万円を支払い、また、その他の申請者には環境対策費として二千万円を一括して支払うことを内容とするものですが、小田急もこの和解案を受け入れることを表明したにもかかわらず、沿線住民三百五名の申請人のうち、ほぼ四分の三に当たる二百二十六名がこの調停和解案を拒否いたしました。

 このニュースは、五月二十二日の夜にNHKで二度にわたり放映され、また、読売、朝日が報道いたしましたのでご存じかとは思いますが、大事なことは、調停和解案が拒否された場合には、政府の公害等調整委員会は、裁判所で言う判決に当たる裁定を下さなければならない、近々下さなければならないということなのであります。

 公害等調整委員会の現川嵜委員長は、元東京高裁の長官でありますし、実務を担当する審議官の中心は裁判所から出向してきた裁判官であります。住民の求めに応じて、本来は速やかに裁定を下さなければならない事案であるにもかかわらず、この出向組の裁判官が沿線住民宅を頻繁に訪れて、裁定を出せば最高裁判所まで争われることになり、問題は解決しないなどというデマまで飛ばして調停和解工作に当たったことが判明しております。極めて異常なことであり、裁判官の職分にもとる行為でありますが、責任裁定の代理人が素人であることをよいことに、裁判官まで動員して調停和解工作が行われたこと自体、この小田急騒音問題の与える影響のすごさを物語っております。

 実は小田急沿線の騒音測定は、政府から依頼された機関が実態調査報告書を一九九六年の十月にまとめており、新幹線基準LAmaxでの居住地域の基準七十デシベルを百九十二戸中百四十一戸が、つまり四分の三近くが超えているというすさまじい結果が出ていました。

 今回の調停和解案で補償対象とされたのは、新幹線基準LAmaxで八十デシベル以上、日平均レベルで六十八デシベル以上が四十八戸ですが、LAmaxでの八十デシベルを超える住戸が存在すること自体、重大な人権侵害であります。政府としても、これらの人々については救済せざるを得ない。しかしながら、全国の在来線のすべてに類の及ぶ責任裁定は出したくない。そこで仕掛けたのが調停和解工作だったのであります。

 昨年の二月、申請人の中で不安に思う人が出て、弁護士に代理人を依頼することになってからも、一部、素人の責任裁定代理人を籠絡しての調停和解工作が進められてきました。本人が申請人である代理人の二人は、申請人の圧倒的多数が調停拒否であるにもかかわらず、今回の調停和解に応じているし、別の申請人兼代理人は、本人は調停を拒否したにもかかわらず、世帯を別にする親族は和解と使い分け、両にらみとした者もいます。

 私はこの間、該当する沿線宅を回ってみました。すると、責任裁定制度そのものを正確に理解していないお宅が余りにも多かった。そこで十分に説明をした結果、実に九十名もの方々が調停和解案拒否の文書を私に託し、五月二十一日に公害等調整委員会に届けるということになったわけであります。

 読売新聞は五月二十二日朝刊の見込み記事では、半数が調停和解に応ずる見込みと書きました。ふたをあけてみると四分の三が拒否し、夕刊で訂正記事を載せ、翌日、二十三日朝刊では、「金銭の問題ではない、小田急騒音、調停案に二百二十六人拒否」との報道を改めてなしたのでありました。

 さて、今後どうなるか。少なくとも調停案で補償額が示されながら拒否した三十四戸、五十八人については裁定で救済しなければならない。これは、いわば判決に当たるものです。そうなった場合、今回、責任裁定を申請していなかった方々が要求することになれば、すべて救済しなければならない。小田急沿線だけでも、神奈川まで含めて救済をしなければならない。それだけではありません。全国の在来鉄道全体に類が及ぶわけであります。

 そういった状況を踏まえてお聞きいたします。世田谷区は、新幹線基準を超える騒音放置についてどのように考えているのか、そもそも世田谷区として在来線鉄道騒音問題について取り組みをしたことがあったのか、今後どうされようとしているのか、ご所見をお伺いしたいと思います。

 現工事区間について、東京都アセス条例に基づき行われたアセスでは新幹線基準がクリアできるとは言っていないし、現在よりも悪くなるところさえあるというふうに言っております。これは在来線基準がないからという理由で、アセスについて逃げているにすぎません。結局、高架事業は、新幹線より以上の騒音被害を世田谷区民に押しつけることになり、現被害状況の深刻さを考えれば、高架計画は誤った計画であると言わざるを得ません。人権擁護の観点からも高架計画の見直しを、今こそもう一度考えるべきだと思いますが、ご所見をお伺いしたいと思います。加えて下北沢について、さらには、京王線線増連続立体化についての区の基本姿勢についてお伺いしたいと思います。

 星谷ビルへの補助金の監査結果についてお聞きいたします。

 監査結果の結論は、新聞報道にあるとおり、星谷ビルの借り上げ契約について、区長の側の違法性を免責いたしました。一方で、継続家賃額の算定手続において不当な点が認められた。今後の家賃改定に当たってはより適正な手続に改善するよう、地方自治法第二百四十二条第三項に基づき、区長に対して別紙二のとおり勧告するとし、「せたがやの家」の家賃改定に当たっては、今後、可及的速やかに、いわゆる新規家賃と継続家賃の相違に留意するとともに、条例、規則の定めや家賃増減額についての普遍的法慣例を遵守し、適正に運用することとの勧告を行いました。極めて矛盾に満ちた監査結果であり、住民訴訟で決着をつけなければならない事件となるでしょうが、一方で、この監査結果自体、私たち議会と行政に宿題を残しました。

 監査結果には次のように書かれています。本件「せたがやの家」のシステムに基づく住宅供給や建物賃貸契約の効力は、その限度で同人の持ち分にも及ぶものと考えられるので、請求人が地方自治法第九十二条の二項違反を理由に本件請求に及んだのは、前記共有の性質にかんがみると、それなりに理解できないではない。つまり、監査結果は、当初、本議会で理事者側が述べていた、都市整備公社が行っていた事業であるから免責されるとか、片務契約であるから免責されるとか、奥さんが契約主体だから免責されるとの論理はことごとく避けて、事実上請負契約であったことを認め、九十二条二項違反を理由に監査請求をしたことに理解を示したのであります。

 そこで、区を免責するに際して唯一のよりどころとして出してきたのが、昭和三十二年二月十一日付の自治省行政課長回答なる行政文書に依拠した弁解です。同条の立法趣旨は、議員の公正な職務の執行と議会の公正な運営を確保するため、議員が地方公共団体と請負関係に立つことを禁止することにある。また、本条に抵触して請負契約を締結した場合でも、その契約は有効であるとされている。同条は、議員の身分保持の要件を定めるものであって、契約の効力について規定するものではないからである。つまり、同条に違反しても契約は有効だという論理で逃げたのであります。判例でも何でもない、一行政官僚の見解を盾にとれるのかどうか、今後、裁判等で争われることになるでしょう。

 ところで、監査結果は、次のようなことも言っております。なお、請求人の主張する地方自治法第九十二条の二に違反するかどうかは、同法百二十七条の規定により、議会において判断されるべきであることを付言する」。つまりは、立法の精神からいって九十二条の請負の禁止には抵触するから、身分の保持の問題については議会で決めてくれというのであります。問題は本議会に投げかけられました。この問題への対処について、議員一人一人の責任が問われることになります。

 先ほど、私は下条議員とともに、星谷知久平議員に対する資格決定要求書を本議会に、議長あてに提出いたしました。家賃に関する勧告は、まさに行政に突きつけられた宿題です。家賃値上げが不当だとしているにもかかわらず、区長に返還命令を出さないのは監査結果の極めておかしなところであり、裁判ではこの点が争われるでしょう。監査結果は、家賃が下がっているのに家賃を上げたことについて、その算出根拠が不当だとしました。勧告では今後の改定を求めてはいますが、行政実務上、問題はそれだけで済むのかということであります。

 そこで質問です。監査結果では、理事者側のかつての本会議での弁解はことごとく避けられており、私たちが申請を出したことについては理解できないではないということにしております。従前の見解の撤回と謝罪を求めるべきであるということが第一、家賃算定手法の誤りの是正については、既に取り過ぎた分についてはどのように入居者に返還していくのかという問題が第二点目であります。監査委員には、九十二条二の解釈については、昭和三十二年の自治省行政課長の見解のみを根拠としているが、ほかに判例はなかったのかどうかということだけお聞きいたします。

 風致条例運用緩和の具申を、先ごろ世田谷区は東京都に行っております。このことについては抗議をしておきます。

◎(峯元代表監査委員) 地方自治法第九十二条の二についてなぜ判断しなかったのかといいますか、行政実例によったのかということについてご答弁申し上げます。

 監査結果にもあるとおり、地方自治法第九十二条の二は、議員の兼業を禁止し、身分保持の要件を定めるものでございます。したがいまして、これに違反するかどうかは、同法第百二十七条の規定により、議会において判断されるべき事柄でございます。ただ、この九十二条の二は契約の効力を規定したものではなく、仮にこの規定に抵触して請負契約を締結した場合の契約の効力については、契約当事者に、大体こういう場合には争いがないということで、判例は見当たりません。したがいまして、行政実例を参考にし、学説上にも争いがないところから、監査結果のとおり判断したものでございます。

 以上でございます。

◎(伊藤環境部長) 騒音の問題についてお答えいたします。

 鉄道騒音の規制につきましては、従来、新幹線にかかわる環境基準のみでありましたが、平成七年十二月に、新たに在来線の新設または大規模改良にかかわる指針が設けられたところであります。この指針によれば、昼間七時から二十二時ですが、六十デシベル以下、夜間二十二時から翌日の朝七時が五十五デシベル以下とされております。なお、この指針は、平成七年十二月以前に新設または大規模改良として工事認可の申請がされている区間は適用になりません。したがいまして、平成六年六月に認可がおりた小田急線は指針が適用されないというふうになっておるようでございます。

 それから、過去に鉄道騒音について区が調査したことがあるかというくだりがございましたが、公害問題が社会問題化した二十年ぐらい前に、区として測定した経緯があるようでございます。今後は、東京都に測定の実施などを働きかけていきたい、このように考えております。

 以上でございます。

◎(佐藤道路整備部長) 私からは、小田急線の現工事区間の高架見直しと、下北沢地区の構造形式の質問についてお答えいたします。

 小田急線連続立体交差事業は、皆さんもご案内のように、既に喜多見から和泉多摩川間は四線高架が完了いたしまして、昨年の六月にはダイヤ改正とともに、四線の共用が開始されているわけでございます。残りは関連側道や駅前広場の整備工事になってございます。また、梅ケ丘から成城学園前駅間の高架橋工事も順調に進みまして、一部環状八号線付近におきましては新線高架橋に切りかえを行うなど、全体の工事進捗状況は、平成九年度末で二七%となってございます。

 区といたしましては、連立事業が一日も早く完成し、踏切の解消やまちづくりの一体的な整備が図れるよう努めていくとともに、騒音等につきましては、公害等調整委員会の調停するところであります六十五デシベル以下とする目標値の実現を図るように、鉄道事業者に働きかけてまいります。

 次に、下北沢付近の構造形式につきましては、現在の計画は、ご案内のように地上式で都市計画決定がされているわけで、交差します幹線道路については、道路の立体化で対処することになってございます。いずれにいたしましても、構造形式につきましては、連続立体交差事業の事業主体である東京都が、今後、鉄道事業者、関係機関と検討を進めていきたいということでございますので、そのような形で進めてまいりたいと思います。

 次に、京王線の連続立体化についての区の姿勢についてお尋ねがありました。

 京王線の複々線連続立体事業につきましては、昭和四十四年に都市高速鉄道第十号線の一部としまして調布から新宿まで、構造形式を含めまして四線高架式を主体とした都市計画決定を受けてございます。連続立体交差事業につきましては、区長からも先ほどお答えしてありますように、南北交通の障害となる踏切の除去による交通渋滞が解消されるだけではなく、鉄道によります地域分断の一体化を図ることができるなど、町の活性化を進める上で大変重要な事業と考えてございます。

 区といたしましては、京王線の連続立体交差事業が、沿線のまちづくりを進める上で有効な事業と認識いたしておりますので、引き続き事業主体である東京都、京王電鉄に対して事業化の要請をしてまいります。

 以上でございます。

◎(原住宅政策部長) 今回の監査の結果に関して謝罪をとのことでありましたが、監査の結果は、家賃改定の手続について指摘をいただきましたので、その点について改善を図ってまいりたいと思います。

 以上です。

○(土田正人議長) 以上で木下泰之議員の質問は終わりました。