平成7年第1回定例会(自33日 至328日)

世田谷区議会会議録

1997年3月28日 平成9年度予算への反対討論


○(真鍋欣之議長) 次に、三十七番木下泰之議員。

   〔三十七番木下泰之議員登壇〕

◆三十七番(木下泰之議員) 無党派市民は、平成九年度一般会計予算に反対、その余の予算案件三件に賛成の立場から意見を表明します。

 一般会計予算に反対の理由を述べます。私は、既に平成九年度の予算編成に対しての各会派の意見要望書の中で、世田谷のこれからの都市計画あるいは都市政策のあり方について、基本的な問題を指摘しておきました。緑豊かな良好な住宅地域としての世田谷を守らなければ、世田谷はアイデンティティーを喪失するし、都市の崩壊に手をかすことになる。守るべき緑や居住空間を辛うじて有している今のうちならば、居住地域としての世田谷を主張することによって、東京全体を救うこともできるというのが私の持論であります。

 私は、小田急線の高架反対、地下化推進運動を通じて議席を得たわけでありますが、この市民運動が主張しているのは、まさにこのことであります。住宅地域に高架鉄道を走らせ、あわせて道路を縦横無尽に新設あるいは拡幅する。周辺部の高度化を進め、再開発及び不動産開発を促進する。小田急線の問題は、大分以前から問題にはなっていましたけれども、動き出したのはバブルの最盛期でありまして、NTT−A資金を導入しての連続立体事業計画は、従前の一般的な意味での連続立体事業から、その質を大きく変えようとしていたものであります。第三セクターが連続立体事業の主体となり、高架鉄道をまたぐような超高層ビルや駅周辺部の再開発もあわせて、莫大な収益事業を全部取り仕切ろうとした。これがそもそもの始まりであります。

 一九九〇年の五月に、東京都の担当者がわざわざ本世田谷区議会に出向いてきて説明した際には、NTT−A資金導入のメリットは、第三セクターが事業主体となることによって、さまざまな可能性が開けるという趣旨でありました。ところが、幸か不幸か、そうはなりませんでした。第三セクター東京鉄道立体整備株式会社の定款目的第一項には、東京都における道路と鉄道との連続立体交差事業の施工と書かれております。住民の監査請求を経て裁判となり、建運協定上、第三セクターは連立交差事業の主体とはなれないことが原告住民側から指摘されると、行政側は、第三セクターは道路事業の主体としてNTT−A資金を受けると主張を変え、例えば小田急線の経堂工区の場合は、一二八号線の鉄道と交差部分、たった二十四メートルの事業予算を百二十億円とし、NTT−A資金から六十億円を引き出すことにしたのであります。

 ちなみに、本体事業である二十四メートル区間の道路事業費はたった三千数百万円にすぎません。まさに、この座布団のような道路をクッションとして、ずばり言えば便法として、NTT−A資金の導入を維持しようとしたわけであります。また、当初第三セクターの事業規模は、西武線と合わせて千五百七十八億円でありました。ところが、発足してみると、ほどなく三百五十億円に減額されてもいます。

 裁判所は、第三セクター東京鉄道立体整備株式会社の住民訴訟において、この行政による詐欺的行為を許容する判断を下しました。すなわち、定款目的第一項の規定から、建運協定に抵触し、支出が違法となる余地があると指摘しながらも、いわく、定款の解釈は現実の法制度などを前提に合理的に解釈すべく、策定に関与した者の思惑、誤解に拘束されるものではないとしたのであります。裁判所が行政を何とか助けてやろうとの涙ぐましい努力だと言わなければなりません。

 この矛盾に満ちた言葉を、本議会の予算特別委員会の席上、道路整備部長の口から直接オウム返しに聞いたことは、この問題の本質を物語るものであります。親の心子知らずとでも言うのでしょうか。裁判長が苦し紛れに記述したこの言葉を、道路整備部長は、決して口にすべきではなかったはずのものであります。私の立場から言えば、よくぞ言ってくださったというところであります。ここは議会であります。百歩譲って、たとえ定款の解釈が適法であったとしても、当時、この会社が行おうとしたことが誤解に基づいて説明され、誤解のまま、この会社への出資金が本世田谷区議会を通ってしまったわけですから、これは政治責任の問題として無効な議決なのであります。

 道路整備部長は、一九九〇年九月の時点で、第三セクターへの出資の補正予算が誤解に基づいて提案され、誤解によって議決されたものであることを認めてしまったのであります。当時、本議会の先輩議員諸氏の中で、第三セクターが連続立体事業の主体になれないということを知っていて、議決に賛成した方がいるでしょうか。提案者側が誤解に基づいて提案したことを認めている以上、議決は無効であります。したがって、このような誤解決議の上に乗った小田急関連予算は無効なのであります。

 今回の判決には、次のような指摘があります。連続立体交差における交差の方式、構造においては、支出を要する経費のみならず、立体交差化によって生ずる利益の比較、近隣環境への影響の比較、都市災害への対応の比較など多様な観点から、その比較検討を行うべきこと。シールド方式に関する最近の技術進歩により、鉄道の地下化に要する費用が従前より低額となってきたことが認められる。

 つまり、監査請求についての訴訟である住民訴訟では、違法の認定要件を不当にも狭くとったために住民側敗訴ということになりましたが、この訴訟を通じて行政と論争をした高架、地下の優位性比較論では住民側は決して負けていないし、むしろ裁判所は、総合的に検討した場合は地下化に優位性があるとしてもとの文言までを使って、住民側に理解を示さざるを得なかったのであります。住民側は、相撲に勝って勝負に負けたというところであります。行政は猛省し、今からでも小田急線の高架事業をストップし、地下化事業に転換を図るべきであります。地下化に転換した方が今からでも安上がりであることは、再三この壇上から述べてきたとおりであります。

 ところで、環七の内側の容積率を大幅に緩和する建築基準法や都市計画法の改正も日程に上がってまいりました。建設大臣提唱のこの法改正の提案は、大臣みずからが景気浮揚策と物語るように、不良債権を抱えた銀行の救済策にほかなりません。土地をもてあそんでバブルをつくり、崩壊させては銀行救済のために土地に頼る。この悪循環を断ち切ることこそ重要であります。

 昨日、私を含め都心区を中心とする区議会議員三十名が、バブルの教訓を生かす自治体議員の会として建設大臣に法案提出の中止を求め、申し入れを行いました。世田谷ゆかりの都市計画学者の方をも含む専門家の法案反対の行動も始まりました。二十三区区長会の会長である大場区長は、この改正案に決然と反対しなければならない立場であります。バブル時代に都心区の地上げで多大な影響を受けた世田谷区の区長としては、反対を表明することが当然であります。

 ところが、個人的には問題があると語るのみで、毅然とした対応を示そうとしてはおりません。予算委員会の議論の中で、世田谷の六分の一の地域を占める風致地区上のここ二年の間の建築許可に関しては、大規模マンションの八割以上が、個人宅でもほぼ七割が建ぺい率制限の緩和を受けていることがわかりました。四〇%の建ぺい率が五〇%、五五%へと緩和されていくことが常態化しながら、一方で、緑地取得の名目で小坂邸や岩崎邸について五十億円以上の巨費を投じて買収する。これでは緑地取得は開発の露払い、隠れみのと断言せざるを得ないのであります。しかも、この買収に関しては疑惑に満ち満ちており、二重契約、区長の個人的コネクション、市価よりも高い値づけの提示、畦畔の問題等々、深い疑惑は晴れることはないのであります。

 さて、小田急線の高架事業が着手される中、補助五二号線を初めとする世田谷区内の補助線の事業着手が

あちらこちらで進められようとしております。あわせて、あちらこちらで大規模マンションの建設が進められようとしております。そのいずれの地域でもこれらに反対し、良好な環境を守るための市民運動が立ち上がっております。財政難の折、再開発からの撤退宣言をすることが理にかなっているし、本当に必要な行政の仕事を考え直す絶好の機会でもあると考えます。

 私は、最近つくづくと感じます。世田谷をむやみやたらと開発する必要があるのだろうかという根本問題です。世田谷は新開地でも辺境でもありません。既に文化と伝統が根づいている住宅地域であります。再開発によって得るものよりも失うものの方がはるかに多いのです。財政危機でもあります。公共土木事業は修復型に切りかえて、余った人材や資金を福祉や教育に回すべきです。ハードな土木、箱物行政よりも、適切なソフトに金も人材も充てるべきだというふうに考えます。確かに財政難を背景に、投資的経費は抑えぎみにされておりますが、予算からは公共土木行政、言いかえれば不動産開発行政からソフトへと大胆にシフトするというような息吹を読み取ることはできません。

 今、世田谷区は、補助道路の一挙的整備や、経堂、玉川再開発、さらには環七の内側の容積率の緩和を前に、居住地区としての最大の危機を迎えております。それを回避することは、区長、あなたにはできると私はあえて言いたい。それは、ゼネコンや不動産業者に奉仕する開発行政から根本的に撤退し、理不尽な建築基準緩和、容積率の緩和と決然と対決する姿勢を示せばということであります。これと逆行する平成九年度一般会計予算には反対せざるを得ないということを申し上げて、無党派市民の意見といたします。

○(真鍋欣之議長) 以上で木下泰之議員の意見は終わりました。

 

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