平成14年第4回定例会(自1126日 至124日)

世田谷区議会会議録

2002年12月 4日「世田谷区住民基本台帳ネットワークシステムのセキュリティ対策に関する条例」案への賛成討論


○新田勝己 議長 これより意見に入ります。

 なお、意見についての発言時間は、議事の都合により十分以内といたします。

 発言通告に基づき発言を許します。

 五番木下泰之議員。

   〔五番木下泰之議員登壇〕



◆五番(木下泰之 議員) 世田谷区住民基本台帳ネットワークシステムのセキュリティ対策に関する条例について、賛成の立場から意見を表明いたします。

 私が子どものころには遠い未来のことのように描かれていたコンピューター社会は現実のものとなっております。電子政府、電子自治体が提唱されていますが、一歩間違えば電脳ファシズムとなりかねない要素を持ち合わせております。しかし、我々は電脳ファシズムから逃れるすべを持ち合わせていないのでしょうか。確かに、かつて想定されたコンピューター社会は国民背番号制の社会であり、コンピューターという情報の一元管理そのものでした。しかし、現実のコンピューター社会が到来してみると、その様相は実は異なったものとなっております。

 最近のコンピューター技術の長足の進歩はコンピューターのパーソナル化から始まりました。インターネットは分権化したコンピューターをネットワークでつなぐという画期的な出来事でもあったわけであります。インターネットは匿名性やセキュリティーの脆弱性などさまざまな問題をはらんでいるにしても、パーソナルをネットワークでつなぐという思想は、コンピューターによる一元管理とは対極にあるものであります。

 ところが、国が住基ネットを構築した思想は、インターネットを手にした現代のコンピューター社会が手にした豊かな可能性とは、まさに逆行しております。このことはどうしても強調しておかなければなりません。今さら一元管理システムに頼らずとも、分権システムを尊重した上での統合管理は可能なはずであります。コンピューターセキュリティーの先進自治体と世田谷区が自負するというのであれば、世田谷区はコンピューター分権を前面に掲げて、国の住基ネットに反対すべきだったと言わなければなりません。

 個人情報保護法やプライバシー保護条例で住基ネットを守るという発想ではなしに、一元管理のシステムをそもそも拒否するという方向に進むべきだということを申し上げておきます。国民を根こそぎ一元管理しようなどというやましい心さえ持たなければ、コンピューターによる一元管理システムをとらなくても、仕事をこなし、分権を保障し、かつ統合的に仕事をこなすコンピューターシステムは構築できるはずであります。このことを前面に立てて国と対抗することが自治体に求められております。

 そうはいっても、国のコンピューター政策が一元化に進み、自治体も追随している中では、市民は、一方で個人情報、プライバシー保護で対抗しなければならないという現実が目の前にあります。そういった状況を踏まえて、今回の条例案の是非を見定めました。

 条例案については不満は多々あります。セキュリティー対策に関する条例とされておりますが、これまでの世田谷区の条例との整合性を考えてもプライバシー保護に関する条例とすべきでありますし、これまで世田谷区で進めてきた自己情報のアクセス権などのプライバシー保護政策を住基ネットにも対応させたものに徹底させるべきであります。

 しかしながら、今回この条例に賛成するのは、第十一条の一項に「区長は、住民基本台帳ネットワークシステムにおいて、データの漏えい若しくはそのおそれ又は本人確認情報に脅威を及ぼすおそれがある場合及び本人確認情報が不正に利用され、又は利用されるおそれがある場合は、区の住民基本台帳ネットワークシステムの全部又は一部の停止その他の住民基本台帳ネットワークシステムのセキュリティの確保に必要な措置をとるものとする」と明記されたからにほかなりません。

 これは、これまでの世田谷区住民基本台帳ネットワークシステムのセキュリティ対策に関する規則の第二十六条が「不正行為によるデータの漏えい又はそのおそれがある場合」に限定していたのを、「データの漏えい若しくはそのおそれ又は本人確認情報に脅威を及ぼすおそれがある場合及び本人確認情報が不正に利用され、又は利用されるおそれがある場合」と拡張し、条例化したということにおいて大きな意味があります。

 問題は現状認識であります。現在、まさに今の時点で住基ネットシステムは、「データの漏えい若しくはそのおそれ」があり、「本人確認情報に脅威を及ぼすおそれ」があり、「本人確認情報が不正に利用され、又は利用されるおそれ」があるのではないでしょうか。

 そもそも住民基本台帳法は、国のプライバシー保護法が整ってから実施されるはずでありましたが、そうなってはおりません。また、一たん都や国に提供した情報がどのように使われているかを区はチェックするすべを持ち合わせてはいないのであります。そうであればこそ、八月五日の住基ネット稼働に参加すべきではなかったし、稼働後は直ちに住基ネットから離脱すべきでありました。実際、中野区は稼働後に、セキュリティー確保に責任が持てないという立場から、住基ネットから離脱しております。私は、この条例が制定されたならば、世田谷区もしかるべく住基ネットからの離脱を表明すべきであると訴えるものであります。

 日本は本格的なコンピューター社会のとば口に立っております。冒頭述べましたように、パーソナルコンピューターの発達は、かつての常識だった中央集権型巨大コンピューターによる一元管理社会の打破をも用意しております。行政が使用する市民の情報へのアクセス権を、市民みずからに確保させたり、不当な使用を遮断する権限を市民が持つことさえ技術的には可能になってきております。個人が独立して自由であり、なおかつ社会的統合が果たされる社会を築くためには、自治体の情報管理政策の大転換が必要とされております。新しい時代を切り開くためにも、この条例制定をきっかけに住基ネットからの離脱を行い、分権型コンピューターシステムの構築を、自治体が、世田谷区が率先して提唱すべきだということを主張いたしまして、条例案への賛成討論といたします。



○新田勝己 議長 以上で木下泰之議員の意見は終わりました。

 これで意見を終わります。

 これより採決に入ります。

 お諮りいたします。

 本件を委員長報告どおり可決することにご異議ございませんか。

   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕



○新田勝己 議長 ご異議なしと認めます。よって議案第百五号は委員長報告どおり可決いたしました。