平成14年第2回定例会(自612日 至620 日)

世田谷区議会会議録

2002年6月20日 「世田谷区安全安心まちづくり条例(案)の修正を求める陳情」のみなし不採択への反対討論


平成14年  6月 定例会
平成十四年第二回定例会
世田谷区議会会議録第十一号
六月二十日(木曜日)


○新田勝己 議長 これより意見に入ります。
 なお、意見についての発言時間は、議事の都合により十分以内といたします。
 発言通告に基づき発言を許します。
 五番木下泰之議員。
   〔五番木下泰之議員登壇〕


◆五番( 木下泰之 議員) 「世田谷区安全安心まちづくり条例(案)の修正を求める陳情」のみなし不採択の報告が文書に書いてありましたが、この取り扱いに異議を申し立てます。

 安全安心まちづくり条例は、六月定例議会の重要条例案です。だからこそ区民も関心を持って、区の提出した条例案の修正を求める陳情が提出されることになったのでしょう。その陳情を審査もせずに、みなし不採択の扱いとすることに私は反対であります。

 世田谷市民運動・いちと読書会通信、「公共の福祉」と人権・世田谷連絡会の三団体の代表者の連名で提出された陳情書は、その陳情趣旨を読めば一目瞭然でありますが、今回提出されている条例の根拠法となっている無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律、いわゆる団体規制法が、当該団体の活動を不可能にするような極めて強力な法的規制であるにもかかわらず、破防法が定める弁明手続すら一切省略するなど適正手続を保障した憲法三十一条に照らし問題であることや、観察処分手続に際する公安調査官の検査権限に検査拒否罪すら認めていることに対し、これは裁判所による司法的チェックを受けることなく強制処分を認める点で、令状主義を定める憲法三十五条違反の疑いも否定できないことなどを、東京弁護士会の会長声明を引用して訴えております。

 また、陳情書では、二〇〇一年六月十三日のオウム真理教(現アレフ)への観察処分取り消し訴訟判決で東京地裁藤山裁判長の、いわゆる限定合憲判決での適用には無差別大量殺人の準備を始める具体的な危険があることが必要と、運用に厳しいたがをはめた上で、無差別大量殺人を再び起こすおそれがないのであれば、信教の自由などを制限するのは許されないと判断したことなどを紹介しております。この判決は同年六月二十六日に確定しておりますので、団体規制法運用の基本となるものだけに、条例審議を行うに当たっては避けて通れぬ重要判例となっております。

 陳情書は、次のように続けております。

 このように、問題の多い法律を世田谷区の条例の根拠とすること自体が問題であると同時に「条例」では「その他これに類する行為により」「前条に規定するおそれがあるときは」といった表現によって「団体規制法」以上に運用の幅を持たせており、より憲法違反の可能性の高い条例であると言わざるを得ません。おりしも防衛庁による「情報請求者リスト作成問題」などで行政の調査の在り方などが問題になっている時に、このような憲法違反の疑いのある条例を制定しようとすることは、安全安心どころか住民の不安を増幅するだけです。

 また、「条例」の提案理由の一つに区は、「オウム真理教信者の大量転入」を挙げています。現在、「公共の福祉」を理由に信者の転入届不受理という対応をとっていますが、相次ぐ処分取り消し裁判に区は敗訴し続けています。

として、本年四月二十三日の区側敗訴の判断が示された東京地裁の判決を陳情書は引用しております。

 周辺住民の恐怖や不安を解消させるため、関係諸機関と協力して公共の安全を確保しつつ、教団と周辺住民との対話等による相互理解の促進をこそ図るべきであり、いたずらに教団を敵視し続けることは、相互理解の機会を奪うばかりか、教団の実態を把握することすら困難になる等問題の解決をさらに困難にするものというべきである。

 この判決文を引用した上で、「この判決が指摘するとおり、『住民の恐怖や不安』を解消するのは、転入届の不受理や『条例』の第五条が示すような『調査および事業の実施』ではありません。さらに『条例』第六条では『区民等の団体に対し』財政支出することを可能としていますが、その団体の選定については、きわめて曖昧であり、運用の如何によっては住民を分断する危険性もあります」と指摘しております。

 結局、この陳情は、世田谷区安全安心まちづくり条例から第五条調査および事業の実施、第六条補助、第七条委任の三項を削除することを求めているわけでありますが、この陳情書を繰り返し読むと、短い陳情文の中に、オウム問題で考慮されなければならない課題がほとんど網羅されているといってよいでありましょう。

 区議会審議の低調さとは裏腹に、このような陳情を提出できる市民が世田谷にいるということを我々は誇りにしなければならないというふうに私は考えております。この陳情書で提示された課題を検証することは、数時間の委員会審議で決着をつけるようなものではありません。少なくともこのような陳情が提出されたからには、条例審査を行う前に陳情者から意見をよく聞いて、一つ一つの課題に誤りなきよう議論を詰める作業が必要だったはずであります。ところが、委員長は、議案先議を建前に、陳情者から意見聴取をすることもなく、議案審議においても陳情で提起された問題点を十分議論することもなく、区長提出条例案を可決し、陳情をみなし不採択としてしまったわけであります。

 世田谷区議会では陳情を請願として扱うのがならわしであります。区民もそのつもりで陳情を提出しております。したがって、議案となっている陳情は憲法に保障された国民の請願権行使の一つにほかなりません。憲法違反を指摘する請願、陳情に的確にこたえられないまま進められた条例審議は何らの権威も持ちませんし、第一不誠実です。本来ならば条例案採択の前にこの陳情の処理を行うべきだと私は議運で訴えましたが、このことは避けられ、議案否決後に委員会でのみなし不採択が諮られるようになったわけであります。

 もしここに参列の議員諸氏に良心があるのであれば、議案となった陳情の委員会でのみなし不採択を覆し、再度違憲立法としての異議申し立ての一つ一つに、議会が慎重に審議し直す道を開くことを選択すべきであります。それがアカウンタビリティーというものではないでしょうか。議会の慣例形式よりも、区民よりの違憲立法の異議を放置することこそ、議会の自殺行為だということを私は言いたいのであります。このことを訴えまして、みなし不採択に反対する討論といたします。


○新田勝己 議長 以上で木下泰之議員の意見は終わりました。

 これで意見を終わります。
 これより採決に入ります。採決は起立によって行います。
 お諮りいたします。
 本件を委員会の報告どおり決定することに賛成の方の起立を求めます。
   〔賛成者起立〕


○新田勝己 議長 起立多数と認めます。よって本件は委員会の報告どおり決定いたしました。
 なお、平一四・二五号「『世田谷区安全安心まちづくり条例案』の廃案を求める陳情」につきましては、先ほど議案第七十七号が可決されましたことから、不採択とみなします。

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