平成14年第2回定例会(自612日 至620 日)

世田谷区議会会議録

2002年6月20日 無党派市民(木下泰之);世田谷区安全安心まちづくり条例(案)及び共産党修正案への反対討論,共産党提出の「世田谷区住民基本台帳ネットワークシステムに係る個人情報の保護に関する条例案」への賛成討論


○新田勝己 議長 これより意見に入ります。
 なお、意見についての発言時間は、議事の都合により一人十分以内といたします。
 発言通告に基づき、順次発言を許します。
 五番木下泰之議員。
   〔五番木下泰之議員登壇〕


◆五番( 木下泰之 議員) ただいま報告のありました日程第十二、議案第七十七号「世田谷区安全安心まちづくり条例案」につきまして反対の立場から、また、日程第十三、議員提出議案第三号「世田谷区住民基本台帳ネットワークシステムに係る個人情報の保護に関する条例案」に賛成の立場から、日程第十四、議員提出議案第四号「過去にサリン等を発散させる行為によって無差別大量殺人行為を行った団体の行為による区民生活への被害及び影響の防止等に関する条例案」に反対の立場から討論を行います。
 最初に、区長提出議案第七十七号と共産党が提出した議員提出議案第四号は関連しますので、あわせて反対の理由を述べます。
 区長提出の世田谷区安全安心まちづくり条例案ですが、これは、世田谷区がオウム信者の世田谷区への居住について住民票の受理の拒否などを通じてオウム信者の排斥を行ってきたところ、オウム側からこの処分の無効を訴えられ、あるいは損害賠償を訴えられて、相次いで裁判に敗訴したために、憲法上居住を認めざるを得ないオウム信者への対抗施策を目的として準備された条例案にほかなりません。
 区長は、先日、オウム信者への違法な住民票不受理処分への損害賠償を命ずる東京高裁での判決への上告を断念する際、次のようなコメントをプレスに発表しております。注意深くよく聞いてください。大場啓二世田谷区長のコメントです。
 オウム真理教信者の集団居住、拠点化を阻止する上で、もはや司法判断に期待することはできない。私は、みずからの町はみずからが守るという強い決意を持って、安全安心まちづくり条例を制定するなどあらゆる手段を講じ、安心して暮らせる地域社会を取り戻すため、八十万区民、区議会とともに闘っていく。さらに、オウム進出に悩む関係自治体の先頭に立って、団体規制法に基づく観察処分の延長を国に求めていくというものであります。
 もはや司法判断に期待することはできないから、あらゆる手段を講じ、闘っていく、これは無法者の論理、リンチの論理であります。ちょうどオウムがサリンなどで武装していたころ、無法者として教団内でリンチを繰り返し、みずからに敵対する者や不特定多数の人々にテロを行ったときの論理と同様の立場に立っていると言わざるを得ません。
 世田谷区は、地方行政といえども権力であります。この権力が司法判断に期待せず、行政裁量で町内会と組んで治安を守るということになれば、これは自警団の歴史であります。関東大震災の朝鮮人虐殺や異端者を非国民として戦争を遂行する核とした自警団、隣組の歴史を思い起こします。今、国会で国が行政裁量の権化のような有事法制を議案として提出してきたことを考えるとき、このような条例案がまともな議論抜きで安直に制定されようとしていることに、民主主義の深い危機を感じます。
 私は、下条議員とともに、二〇〇〇年の一月、世田谷区がオウム信者の区内への移住に際し、その住民票不受理方針を打ち出した際に、それは憲法違反だからおやめなさいと注意してまいりました。行政は行政としてやることがあるはずだ。カルト問題への相談の窓口や専門家によるカウンセリングの用意などを含め、オウムに限らず、カルト問題に抜本的に取り組む施策を行うべきだということを私は議会で主張してまいりました。
 私は、オウム問題について次のような認識を持っております。サリン事件やテロ・リンチ犯と麻原などの幹部の逮捕で、実体的な危機、危険は去ったと認識しております。事件が大規模かつおぞましかっただけに、不気味さや不安感はあります。その不気味さを分析していくと、実は、サリン事件のような深刻な事態を引き起こすまで、当時の危険なオウムがなぜ放置されてきたのかということであります。坂本弁護士夫妻が行方不明になったとき、オウムのバッジが残されていたことから、当時からオウムとの関係は疑われておりました。ところが、捜査は遅々として進まない。
 私は、殺された奥さんの坂本都子さんとは、六価クロムの職業がん訴訟事件で事務局として一緒に仕事をしていたことがございます。年賀状もやりとりをする友人でした。行方不明になってかなりたってから、名簿に私の名前があるからということで、神奈川県警から電話がかかってまいりました。そのとき、なぜオウムを徹底して調べないのかと、逆に捜査官に詰問した覚えがございます。
 残念ながら、一番危険なときにオウムは放置され続けてまいりました。松本サリン事件があったにもかかわらず、霞ケ関の地下鉄サリンを食いとめることさえできませんでした。サリンについての重要情報を握っているはずのオウム幹部が謀殺されるという事件まで起こりました。優秀とされる日本の警察や公安が、かくも長きにわたってなぜ事件を放置してきたのかということも含め、実はオウム事件の本当の実体は解明されていないのであります。
 不安解消ということであれば、政府が事実の徹底究明を行うことが何より重要なはずであります。ところが、政府は、オウム問題を当初は破防法発動の好機としてとらえ、適用しようとしましたが、果たせず、そのかわりに、破防法よりも裁量性の強い違憲の疑いのある団体規制法を制定して、国民生活の平穏を理由に、既に無力化したオウムを公安の監視下に置きました。また、団体規制法は被害者救済法と連動しており、この法律は事件を引き起こしたオウムを引き継ぐ主体の存在が前提になっております。監視下に置くということは、住所を確定させることは当然のことであります。にもかかわらず、さまざまな自治体では住民票の不受理処分が相次ぎ、世田谷区はその急先鋒となりました。
 世田谷区は、一体、何を考え、どのようにしようと考えているのでしょう。世田谷区からオウムを追い払いさえすればそれでよいと考えているとしたら、これほどのエゴイズムはございません。
 世田谷区にオウム信者が居住を移すという情報は、住民運動がもたらしたわけではありません。むしろ、世田谷区が率先してオウム信者の世田谷移住を明らかにし、その住民票不受理を宣言したことから信者排斥運動は始まりました。これは明らかな個人情報の漏えいであり、犯罪であります。また、不受理処分は、憲法判断をするまでもなく、違法だと裁判所から認定されています。当然のことであります。  ところが、世田谷区は、こういった法律をも踏みにじった不条理な対応に対する反省のかけらもありません。それどころか、司法に期待できないと開き直ってさえいるのであります。こういった対応の果ての今回の条例案は、立法の趣旨からして容認できません。
 調査及び事業の実施を定めた条例案五条は、団体規制法による処分を受けている団体等と「等」をつけることにより対象範囲を広くとらえておりますが、この解釈に対する答弁で、助役は、観察処分が解除された後の団体も含める、つまり、オウムが観察処分から外された後も含めるというふうに言っておりますが、これでは条例根拠としたいわゆる団体規制法をも逸脱して、特定団体に対する調査や事業を行うこととなり、またさらに六条は、五条で規定した特定団体への治安活動を行う区民などの団体に補助を行うことができるようになっております。立法の経緯からいって、特定団体への対抗運動への公金支出ということにもなります。これは違憲のそしりを免れません。したがって、同条例案に私は反対いたします。
 区条例案の修正版とも言うべき共産党案は、団体規制法とも切り離して、「過去にサリン等を発散させる行為によって無差別大量殺人行為を行った団体」と団体を特定し、五年ごとに見直すとしておりますが、これでは旧宗教法人オウムが解散した後のアレフを無差別大量殺人を行った団体として特定できるかどうかも疑わしく、もし無限定にアレフを無差別大量殺人を行った団体と規定したならば、これはこれで人権無視も甚だしく、また、根拠法も見出せない以上、条例の要件さえなしていないと言うべきであります。したがって、議員提出議案第四号にも反対いたします。区民の関心を買うためにこのような対案を出すことは、恥ずべきことだというふうに考えます。
 さて、議員提出議案第三号「世田谷区住民基本台帳ネットワークシステムに係る個人情報の保護に関する条例案」については、共産党より提出された条例案ですが、こちらには賛成いたします。
 言うまでもなく、この条例案は八月五日から予定されているいわゆる国民総背番号制、住基ネット実施に対抗する条例案で、施行規則に任せることの多い簡単な条例案ですが、杉並区が既に制定した条例案に準じた内容となっております。防衛庁での情報公開請求者の個人情報収集問題でも明らかになったように、住基ネットの個人情報の保護に当たっては、行政が違法を犯すことを防止するシステムがぜひとも必要です。条例案は、区が国や他の地方公共団体などを含め調査を行うことがうたわれており、一定の歯どめとなっているものであります。もっと完成度の高い条例案が必要ですが、他会派の対案も行政案も出ておらず、一人会派として提出権もありませんので、賛成することといたしました。
 なお、住基ネット実施につきましては、個人情報保護を担保し得る法制やシステムが整うまで延期することを要求して、私の反対討論といたします。


○新田勝己 議長 以上で木下泰之議員の意見は終わりました。

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