平成14年第回臨時議会(自516日 至521日)

世田谷区議会会議録

2002年5月21日 高井戸のオンランプ開通を求める請願への反対討論


○新田勝己 議長 これより意見に入ります。
 なお、意見についての発言時間は、議事の都合により一人十分以内といたします。
 発言通告に基づき、順次発言を許します。
 五番木下泰之議員。
   〔五番木下泰之議員登壇〕


◆五番(木下泰之 議員) 先週、高井戸・北烏山地区公害対策協議会の代表の井上アイさんから、次のような手紙をいただきました。この井上アイさんは九十歳を超えておられますが、まだまだ現役で頑張っておられる方であります。

 青葉の美しい季節でございます。先生にはお健やかにお過ごしのこととお喜び申し上げます。

 私ども高井戸・北烏山地区公害対策協議会会員は、高架の中央道と放射五号線沿いやその付近に住み、両道路の対策に取り組んでまいりました。突然お便り申し上げます失礼を何とぞお許しくださいませ。

 実は、先日、東京都商工会議所世田谷支部の会長より提出された「中央自動車道高井戸インターチェンジ入口開設に関する陳情」が貴都市整備常任委員会において審議され、可決されたということを漏れ承り、私どもの事情をぜひおわかりいただきたく、筆をとりました次第でございます。

 古い話になりますが、中央道と放射五号線とは、実は、初め広々とした畑の中を通るはずで、施工命令が昭和三十七年に出たものが、昭和四十一年に至り急に現在の路線に変わり、わざわざ迂回して、玉川上水を埋め立てた老人施設や小学校の敷地を削り、住宅を立ち退かせて建設されたものでございます。老人施設があり、小学校や幼稚園、中学校が軒を連ねる住宅地に、なぜ広い畑の中を通るはずの大幹線道路を持ってきたのか、いまだに納得のいく答えが返っておりません。

 この両道路の最初の計画は、五十メートル幅員に対し、平面が往復八車線、高架の中央道が四車線、小学校と老人施設の真ん前に上り線のオフランプ、下り線にオンランプが小学校から少し離れたところにつく、二・五メートルの歩道帯に一・五メートル角の中央道の橋脚が建つという余りにも非常識なものでした。

 場所が場所だけに、私たちは運動を進め、車線を詰めてもらい、ランプについての約束をとりつけました。昭和四十八年十二月に結んだ協定の中で、ランプの位置及び構造については誠意を持って変更を検討することを約束し、その後、昭和五十一年五月には了解事項として、この状態は話し合いによって解決がつくまで続くという約束をとりつけました。協定を結ぶ際、当地区担当の理事は、この道路の計画には無理があると私たちに述べています。

 現在、沿線の老人施設付近の交通量は上下合わせて十三万台に及び、住民の中には呼吸器疾患や不眠症で悩む人が多く出ています。また、小学校から駅に通じる富士見丘通りは絶えず渋滞し、事故が多く、杉並のワーストワンと言われています。その上、道路の下には直径三メートルの水道管が布設されて、不時の災害時はどうなることかと心配しております。

 もしランプが開設されたなら、富士見丘小学校通りは一体どうなることかと思います。陳情書は、貴区議会に対してオンランプの早期開設を求めるよう訴えておられますが、どうかこうした私たちの事情をご理解いただき、早期開設をお求めくださいませぬよう伏してお願い申し上げます。

 くれぐれもお体ご大切にお願い申し上げます。

 まずはお願いまで。

 五月十三日 高井戸・北烏山地区公害対策協議会 井上アイということでした。


 全文を読み上げましたけれども、都市整備委員会全員にあてられた要請文です。九十歳を超えるとは思えない見事な、そして礼節をわきまえた要請文であります。

 私は、今回の世田谷区商工会議所が出してきた高井戸ランプをあけろという請願が委員会で趣旨採択されたことが不思議でなりません。井上アイさんのお手紙で十分おわかりのように、現在、高井戸のオンランプが実に三十年近くにわたって閉鎖され続けているのは歴史性のあることであります。無理な都市計画をごり押ししようとしたことに対し、市民が精いっぱい抵抗してかち得たそのあかしであり、記念碑でもあります。なぜいまだにランプがあけられないのか、それは紛争の原因となった自動車公害が一向に改善されるどころか、深刻さを増すばかりであるからであります。

 当時の周辺住民の反対の意思を踏みにじって推進した自動車優先社会は一体何をもたらしてきたのでしょうか。日本の自動車保有車両数は、三者協定が結ばれたころと現在を比較すれば、ほぼ三倍にふえていますし、呼吸器系がんの死亡率はこれに比例して、実に五倍近くにもふえているのです。ディーゼル排ガスに大量に含まれるSPM対策が最近叫ばれておりますが、その一方で、一向に改善されないNOxによる大気汚染は、ガソリン車対策に着手しなければお手上げの状態であります。京都議定書で注目されている地球温暖化対策のかなめも、やはり自動車排ガスのCO2対策が主な課題となっているのであります。

 環境の二十一世紀と言われております。このままでいくと、百年後には地球の平均温度が六度上がると言われているからこそ、環境の二十一世紀でなければならないのであります。平均気温が六度上がるということは地球の砂漠化であります。そうしないために、私たちに何ができるかを考えなければならないのが環境の二十一世紀なのであります。

 ローマクラブが提唱し、現在、国連でも言われ、我が国も受け入れざるを得なくなっているサステイナブルディベロップメント、持続的成長という言葉があります。日本語で言うと何か成長の方に力点が置かれているように誤解されている言葉ですが、サステイナブルディベロップメントのサステイナブルの原意を考えると、重さ、圧力、苦痛などを辛うじて支えるという意味合いであり、危機感を持った言葉であるということを、私たちはしっかりと認識しておかなければならないでしょう。

 高井戸ランプについて、せっかくつくってあるのだから使うべきだ、ここをあければ甲州街道の渋滞は多少なりとも解消するからあけるべきだとの声を委員会審議で聞きました。しかし、本当にそうでしょうか。当面の便利さや場当たり的な対応策で事を簡単に評価することはもうやめにしようではありませんか。都市計画を考えれば、都市部の幹線道路にはそのような配慮は全くないばかりか、排ガスをわざわざ拡散させる高架方式の道路を住宅地の軒先につくってはばからなかったのであります。さきの井上さんのお手紙にもあったように、老人施設や小学校の際に高速道路をつくるということが恥ずかしげもなく行われていたのであります。

 こういった恥知らずの文化は、しかし、決して日本固有のものではなかったはずであります。江戸は環境共生都市として誉れ高いわけですし、近代に入ってからも、都市計画では戦前から田園都市構想もあったし、帝都東京の美観という観点から、玉川グリーンベルト構想も実際に計画されてきたのであります。バブルを経、空白の十年を経て、日本の立て直しを考えるとき、環境と共生できる本当の意味での文化的な豊かさを取り戻すことが先決ではないでしょうか。

 このことは、高井戸の上りのランプのみならず、玉川上水を壊そうとしている放射五号線の問題、外かく環状線問題、二子玉川の高規格堤防と超高層開発、そして都市計画の違法が裁判所で認定された小田急線高架事業についても共通して言えることであります。高井戸のオンランプの三十年近い閉鎖が私たちに投げかけている本当の意味を知り、そして語ることこそ必要ではないでしょうか。

 委員会で議題となっている本請願に賛成した会派の皆さんの再考を訴えまして、私の反対討論といたします。


○新田勝己 議長 以上で木下泰之議員の意見は終わりました。

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