平成14年第1回定例会(自31日 至328日)

世田谷区議会会議録

2002年3月28日 予算への反対討論


○新田勝己 議長 これより意見に入ります。
 意見の申し出がありますので、順次発言を許します。
 なお、意見についての発言時間は、議事の都合により一人十分以内といたします。
 五番木下泰之議員。
   〔五番木下泰之議員登壇〕


◆五番(木下泰之 議員) 一人会派無党派市民は、大場区政不信任の立場から、すべての平成十四年度予算に反対します。

 問題は多々ありますが、今回の予算議会では、私は主に二つのことを取り上げてまいりました。一つは、昨年十月三日に判決で違法として事業認可が取り消された、小田急高架事業に対する区の対応についてであり、もう一つは、不当にも保険診療の四割増しで医師会と委託契約され実施されてきた、基本健康診査などの検診事業についてであります。

 小田急問題についてですが、重要な点についてだけ、もう一度かいつまんでお話ししておきます。

 判決を要約すると、地下方式という、違法騒音を回避でき、事業費的にも優位な代替案があるにもかかわらず、小田急線を梅ケ丘から成城学園前駅まで高架で連続立体事業を行う都市計画を決定したことは誤りであって、その過誤を含め、都市計画事業認可申請に複々線事業用地を含めず申請するなどの不備を見落とした国の事業認可は違法であり、その取り消しを命ずるというものであります。判決は、あえてこの判決を、違法だが訴えは却下するというような事情判決としなかったことについて触れております。それは、原状回復しなくても、都市政策上有効な代替案が存在することを見越した上での判決であったからであります。

 原告側は、工事半ばであるにもかかわらず、これを地下化に転換するための代替案を提示してまいりました。それは、既設高架を当面は仮線として使い、新宿〜成城間の一貫した二線二層シールド地下鉄が開通した後には、同既設高架橋を緑道として転用するというものです。このような代替案もあるのだからと和解勧告を行ったことからも明らかなように、新たな解決に向けた話し合いをこそ、裁判所は求めてきたのであります。だからこそ、認可取消判決が公共の福祉に反することにはならないと確信を持って結論づけ、事情判決とせず、実際に違法な高架事業の認可を取り消したのであります。

 原告側の対案は極めて現実的です。仮線としての使用を認めていることから、これまで行ってきた事業の効果を当面生かし、踏切解消は実現します。混雑緩和、輸送力増強という面での複々線事業の効果は、現行計画では、平成二十五年度の代々木上原までの開通を待たなければならないわけですが、代替案では、平成二十年度までに成城〜新宿間を一気に二線二層シールド方式で掘ろうというものです。

 完成の暁には、跡地と高架構造物の遺構を緑の生態コリドーとして使用し、神宮の森から成城を経て多摩川まで緑でつなごうというものであります。高架が違法事業と認定されたからには、これを違法でないものに変えなければなりません。これは従来の連続立交の手法の範囲で議論されるべき問題ではありません。間違ってしまった公共事業をどのように改めるかという新たな実験でもあるわけです。

 生態コリドーへの投資は、まさにエコロジカルニューディール政策として、新たな環境の世紀にふさわしい経済政策を提示することになり、すべての点で世の中の役に立つことになるというのが原告側の代替案なのであります。こういうふうに整理をすれば、八十万緑化運動や、ISO14001認証を宣伝する世田谷区がとらなければならない態度はおのずと決まってくるはずであります。
 世田谷区は裁判においては当時者ではありません。だからこそ、違法高架化のお先棒を担いだみずからの贖罪の意味も含めて、問題解決に向けて、国や都と住民の調停役になるべきなのであります。

 大場区長は、かつては地下化推進であったし、議会も二度にわたって地下化決議を挙げてきました。これを高架推進の方にミスリードしてきたのは主に国と東京都でした。バブルの波に乗り、第三セクター東京鉄道立体整備株式会社をつくり、高架事業を沿線の大規模再開発のてこにしようと画策いたしました。世田谷区は、建設省の肝入りで川上秀光氏を座長に小田急沿線街づくり研究会をつくらされ、この同委員会の昭和六十二年の報告により、高架事業が優位で合理的だとの世論を醸成するという片棒担ぎをさせられました。

 今回の予算委員会の論戦を通じ、平成十二年度の都の調査報告書と比べると、昭和六十二年当時の下北沢地域での高架工事費の世田谷区による研究会の積算が、実際のほぼ三分の一ほどに過少に見積もられていたことが明らかになりました。当時から普通に高架、地下の積算を行えば、地下化が優位であったことは歴然としております。

 担当の原部長は、この事実を突きつけられてなお、当時の委員会によるミスリードを認めようとしませんが、数字はうそはつけません。方式の違いでさまざまなバリエーションのある地下化工事の積算ではなく、高架工事の積算でほぼ三倍の開きが出ているわけですから、当時の報告書が高架優位のために意図的な数字のごまかしをやっていたことは、もはや否定することはできません。

 判決が出て以降、この間の区長以下担当者の対応は、国や都の見解を待つばかりで、主体性は何ら感じられません。このままでは区民が不幸であります。緑や環境政策をお題目で唱えるのではなく、違法判決の出た小田急線のような具体的な問題を千載一遇のチャンスとしてとらえ、区は区民のために何ができるかを考えるべきなのであります。裁判所が違法と認定した事業について、区民へのまともな説明もなしに、予算を平然と組める病んだ神経からの脱却が、区長以下、世田谷区の役人に求められているということを申し上げておきたいと思います。

 さて、基本健康診査における四割増しの医師会との契約、ことしは三分下げて三割七分増しとするそうですが、こういったことは、内部告発の手紙が私や下条議員のところへ届かなかったならばわからなかったことであります。予算書を見ただけでは、このような契約がなされているなどということは、よもや考えようがありません。

 保険診療では一点十円で治療費を計算するところを、平成十三年度は十四円で、また、平成十一年度までは十四・八円で計算していたことが明らかになりました。基本健康診査の平成十三年度予算は十九億三千二百万円ほどですから、五億五千二百万円ほどが、点数換算が四割増しにされたことだけで、余計に税金から支出されていたことになります。

 それだけではありません。保健所長は、基本健康診査のみならず、他の検診事業においても、医師会契約の積算の根拠が一点十四円となっていることを認めました。医師会契約の他の検診事業を総合しますと、平成十三年度は年間三十一億円でしたので、実に八億八千万円ほどが、単純計算で、医師会に対して余計に税金から支出されていることになるわけであります。

 この問題は、私たちの質問をきっかけに、朝日新聞の「くらし」の欄で、ほぼ一面を使って特集されましたが、記事によれば、基本健康診査について言えば、福岡、大阪、名古屋市が一点を十円で換算し、ほぼ一万円の健診であるにもかかわらず、世田谷区では平均二万四千二百円もかけており、この数字を記者が厚生省の役人に問い合わせたところ、まるで人間ドック並みですねと、目を丸くしたといいます。

 単価が一点十四円で、四割も高いのに加えて、全額が税金から支払われるのをよいことに、勤労者に対して行われているよりも過剰な健診が行われております。契約も個々の医療機関と行うのでなくて、世田谷医師会、玉川医師会との間に契約が結ばれており、金の流れや権利関係、契約関係も不透明であります。

 しかも、区側を代表し、交渉に当たるべきセクションの前任者である工村保健所長と向山健康推進課長は、下条議員からこの議会で指弾されるまで、公職にありながら医師会に属していたのであります。ついこの間まで、この領域は、まさに聖域としてやりたい放題のことがなされてきたと言うべきでありましょう。

 今回明るみに出た基本健康診査及び各種検診事業のあり方に関しては、それこそ徹底したメスを入れるべきであります。一点十四円とする四割も高い検診費支出の事実が明るみに出たにもかかわらず、世田谷区議会において、私と下条議員以外からは、これを指弾する声が聞こえてこないのは一体どうしたことでありましょう。区議会がまともに機能していたならば、少なくとも一点十円に改めることはすぐにできたはずであります。

 健保の本人三割負担が議論されている現在、医師の診療報酬問題のみならず、医師会の不当利得、利権をなくすことを国民運動として起こさなければ、公正な社会は実現できないでしょう。

 昨年は小田急訴訟の勝訴判決のみならず、「せたがやの家」という地主対策の補助金癒着問題に関し、裁判で勝利を得たわけでありますけれども、ことしはこれに加えて、医師会という圧力団体と自治体の癒着問題を徹底解明し、この癒着を絶つ運動を区民とともに起こす必要があるというふうに考えております。このことを申し上げ、一人会派無党派市民の反対討論といたします。


○新田勝己 議長 以上で木下泰之議員の意見は終わりました。

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