平成14年第1回定例会(自31日 至328日)

世田谷区議会会議録

2002年3月11日


○新田勝己 議長 これより意見に入ります。
 なお、意見についての発言時間は、議事の都合により十分以内といたします。
 発言通告に基づき発言を許します。
 五番木下泰之議員。
   〔五番木下泰之議員登壇〕


◆五番(木下泰之 議員) ただいま企画総務委員長から委員会審査についてのご報告がありましたが、この中で反対する議案が幾つかありますが、今回の一般会計補正予算には大きな問題点がありますので、この問題に絞って反対討論を行います。

 小田急線の連続立体交差化事業は東京都の事業でありますが、国から補助金を受け、世田谷区が負担金を出して行われている事業でもあります。この負担金の増額補正が、今回の一般会計補正予算に含まれております。違法判決が出たにもかかわらず、原告とは全く話し合いをしようとしないばかりか、控訴期間中も一時たりとも工事をやめようともせず、控訴後は、控訴で判決は確定していないのだからとうそぶいて、補正予算まで組んで、工事を強引に進めようとする行政とは一体何なのでしょうか。また、違法判決が出たにもかかわらず、この理不尽な補正予算に異議を唱えない議会とは一体何なんでしょう。

 かつては、この本会議場で小田急線の世田谷区内全線地下化決議が二度も上げられたにもかかわらず、行政側のまさにミスリードによって、この決議を覆す事業がとり行われてきたわけであります。それを裁判所が違法だと認定し、認可処分を取り消す判決を下しました。にもかかわらず、かつて地下化決議に賛同した議員諸氏も、同じく賛同した政党、会派も何も言わない、釈明しようともしない、こんなことでよいのでありましょうか。説明責任とは、こういうときにこそ問われるというものであります。

 よい機会でありますから、判決の意味について、ここで解説しておきましょう。現在、我が世田谷区で公然と行われている違法な公共事業を改めるには、判決についての正確な理解が何よりも必要だからであります。

 ご承知のように、昨年十月三日に東京地方裁判所民事三部は、現在工事が進められている梅ケ丘から成城学園前駅までの高架による複々線化連続立体交差化事業に対し、国の事業認可を違法として、取り消し処分を命ずる判決を下しました。

 行政事件訴訟法三十一条の一項は特別の事情による請求の棄却を規定していて、「取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。」としております。これを適用した判決がいわゆる事情判決であって、国政選挙の定数是正問題などの最高裁判例でおなじみになっている考え方であります。

 ところが、小田急線に関する昨年十月の判決は事情判決とはせずに、具体的に処分を取り消しております。判決は事情判決にせず、具体的に取り消し判断をした理由を次の言葉で示しました。本件各認可が取り消されても、その手続自体、またはそれに必要な公金の支出に関与した公務員が何らかの意味で責任を追及されるなどの可能性はないでもないが、これにより、既になされた工事について原状回復の義務などの法的効果が発生するものではなく、その他本件各認可の取り消しにより、公の利益に著しい障害を生ずるものとは認められないから、本判決において本件各認可が違法である旨の判断をするに当たり、行政事件訴訟法三十一条一項により、原告らの請求を棄却すべき場合であるとは認められない。

 この判決の内容につきまして、早とちりのマスコミは、原状回復の義務などの法的効果が発生するものではなくというくだりを、工事の中止を求めていないと報道しましたが、これは全くの間違いであります。その証拠に、判決文には工事を続行してよいなどということはどこにも書かれておりません。公務員の責任追及の可能性まで示唆していることからしても、事業認可取り消しが宣言された以上、判決は事業の抜本的転換を求めたと解するのが正確な読み方であります。

 これを理解するには、経過についての予備知識が若干必要になります。判決より一年ほど前、二〇〇〇年十一月に、藤山雅行裁判長は原告側優位を見越して和解勧告を行っていました。裁判長が、本件事業認可の対象となった東京都の都市計画事業において高架、地下の比較を事前の事業調査で公平に行わなかった点や、本来、事業認可の対象とすべき複々線部分の高架工事を事業認可の対象から除外している点など、決定的とも言える違法事由について異例の文書釈明を求めたにもかかわらず、被告の建設省はまともに答えることができませんでした。

 原告側が二〇〇〇年十月に工事半ばで、既に構築された高架構造物を緑の生態コリドーとして利用することを盛り込んだ地下化の代替案を提示すると、裁判長は、これを評価しました。高架工事転換の道筋と受けとめ、建設省に事業当事者の東京都との協議を促した上で、和解勧告を行ったのでありました。「小田急を全線地下化し、跡地を『神宮の杜と多摩川を結ぶ緑道』に」と題した原告側地下化代替案は、力石定一法政大学名誉教授を座長とする小田急市民専門家会議によるものであります。代替案は、複々線事業が成城〜新宿間の完成を見なければ効果を上げることができないにもかかわらず、現行高架工事がいまだ成城〜梅ケ丘間にとどまっていることに着目しました。

 そこで、第一に、成城〜新宿間を一体的な二線二層シールド地下化方式で一挙に進める。第二に、工事が半ば進んでいる既存の高架工事については、成城〜梅ケ丘間まで二線を当面仮線として高架で走らせることを認める。第三に、地下化工事終了後には、それまで仮線として使用した高架構造物を使い、在来線跡地とあわせた二層の生態コリドーをつくり、都市における生態系回復のための事業とする。これを三方一両損の解決策として提案しているのであります。別の角度から見れば、これは一挙両得の解決策といってよいでありましょう。原告側として原状復帰を譲歩し、環境の世紀に見合った解決策を探ろうとの提案であります。

 仮線設置は踏切解消を実現し、成城〜新宿間の一体的工事は段階的工事よりも事業進捗が格段に早くなります。都は二月に行われたさきの説明会で梅ケ丘〜代々木上原間の地下化計画を公表しておりますが、完成は早くて平成二十五年度、西暦で言えば二〇一三年度であります。しかも、代々木上原〜新宿間は、いまだにめどさえ立っていないのであります。代替案の存在を頭に入れておけば、原状回復の義務などの法的効果が発生するものではなくと言った、裁判長の真意はよくおわかりになると思います。

 現在進められている違法な事業の取り消し判決は、取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずるどころか、新たな解決の出発点になり得るものであります。既成事実の積み重ねがすべてという官僚専横は終わりにしようではありませんか。それが真の意味での構造改革ではないでしょうか。

 判決は、小田急線高架事業の都市計画上の誤りについて、次のように断言しております。小田急線の騒音が違法状態を発生させているのではないかとの疑念への配慮を欠いたまま都市計画を定めることは、単なる利便性の向上という観点を違法状態の解消という観点よりも上位に置くという結果を招きかねない点において、法的には到底看過し得ないものであるし、事業費について慎重な検討を欠いたことは、その点が地下式ではなく高架式を採用する最後の決め手となったことからすると、確たる根拠に基づかないで、よりすぐれた方式を採用しなかった可能性が高いと考えられる点において、かなり重大な瑕疵と言わざるを得ず、これらのいずれの一方のみを見ても、優に本件各認可を違法と評価するに足りるものと言うべきである。これが判決の内容であります。

 小田急線の在来線騒音の違法を政府が責任裁定で認めている以上、違法騒音を継続させるような高架事業は違法であります。現行事業計画では軒先五十センチに高架構造物がそびえ立ち、ここを四線の鉄道が走ることが予定されております。しかも、複々線部分は建設大臣の認可をとっていないのであります。このようなことが許されてよいわけがありません。

 私は理不尽なことを言っているのではありません。一審でこの事業の認可自体に違法認定が出された以上、補正であれ、本予算であれ、予算を組むことはできないはずであります。処分が確定しないとしても、裁判所が下した違法認定は崩されていないからであります。監査請求が違法のみならず不当な支出について行えれることとなっている以上、予算の支出はいずれにしてもしてはならないし、すべきではないと言っているのであります。

 また、代替案について、緑のコリドーの実現はエコロジカル・ニューディールとして、公共事業を根本的に変える契機となるとも信じるものであります。そして、このような政策こそ、今どん底に陥った日本を立て直すために必要なことだと申し述べて、反対の討論といたします。