10月3日の判決以降、初めての本会議での木下区議の発言です。7割完成という誤報や、混雑緩和は官僚の責任において、既に代々木上原までの事業完成は平成25年以降に持ち越されていること。事業早期実現のためには、2線2層の地下シールド方式を新宿から成城まで通し、残された高架構造物をも利用して2層の生態回廊(コリドー)をつくることを提唱しています。

平成13年第3 回定例会(自919日 至1019日)

2001年10月19日 決算認定への反対討論


平成13年  9月 定例会
平成十三年第三回定例会
世田谷区議会会議録第十六号
十月十九日(金曜日)



○(新田勝己議長) これより意見に入ります。
 意見の申し出がありますので、順次発言を許します。
 なお、意見についての発言時間は、議事の都合により一人十分以内といたします。
 五番木下泰之議員。
   〔五番木下泰之議員登壇〕

◆五番(木下泰之議員) 無党派市民は、大場区政不信任の立場から、すべての決算認定に反対であります。

 「せたがやの家」訴訟、小田急高架事業認可取り消し訴訟に、私は原告として相次いで勝訴いたしました。いずれも大場区政の政治責任にかかわる判決です。区長が当事者として一億六千二百万円の違法支出の返還と毎年一千七百万円ずつの補助金差しとめの命令を受けた「せたがやの家」判決について、区長はこれを控訴しましたが、その控訴理由を区民の前に明らかにすることさえできませんでした。また、小田急訴訟の判決では、国の高架事業認可の違法が認定され、官僚、役人の専横が指弾されましたが、この高架事業を推進してきたことへの区長の一片の反省の弁すらないばかりか、専門的な難しいことはわかりませんと、大場区長、あなたは答えました。区民を愚弄するのも甚だしいと言わなければなりません。

 小田急問題は、少なくとも今、区政の最大課題であるはずであります。今回の事業認可違法判決を受けて、政治はどう対応しなければならないのか、政治に携わる我々は解決に向けての処方せんを提示する義務があります。区長がその義務を放棄した以上、これからこの議場において私が示しておきましょう。

 今回の判決について、マスコミ各社は大きく報道し、各紙論説も公共事業の転換の必要を説く好意的なものでありましたが、一方で、既に七割が完成しているという大きな誤解を前提としたものでもありました。その誤解によって、現高架事業の地下事業への転換が不可能であるかのように受け取られてもおります。ところが、この七割完成という数字は、現工事区間の高架橋の橋脚のスラブが七割建ったというもので、成城学園前〜梅ケ丘までの現工事区間の工事が七割完成したわけではありません。この数字が使われた背景は、東京都と小田急が意図的に行った情報操作にほかなりません。情報リテラシーの観点からも、今回の情報操作は徹底的に究明、糾弾されなければなりません。

 ところで、成城学園前〜梅ケ丘の現工事区間が一〇〇%完成したとしても、混雑の緩和がすぐに実現されるわけではありません。複々線工事は、いまだ着手していない梅ケ丘〜新宿間がボトルネックとなっており、少なくとも、千代田線と接続する代々木上原までの複々線が完成しなければ、目に見えた効果はないのであります。成城学園前〜梅ケ丘までの現工事区間が完成しただけでは、現行一日当たり七百七十本の列車が八百本へと三十本増加するにすぎません。しかも、ボトルネックでののろのろ運転を強いられます。代々木上原まであいて初めて一日一千本以上の走行キャパシティーが、そして新宿まであいて、やっと一千三百本以上となるわけであります。

 これから事業着手となる梅ケ丘〜代々木上原間は、一体いつ完成することになるのでしょうか。東京都の公式発表では、実は早くとも平成二十五年、普通にいって平成二十六年あるいは二十七年ということなのであります。新宿までの計画に至っては、東京都の担当者は口にさえ出さなくなってしまいました。この事実をよく知っていたならば、ここまでできたのに、今度の判決でまたおくれるとの遠方からの利用者の声をマスコミが拾うこともなかったでしょう。

 ところが、東京都や小田急電鉄の広報は、あたかも現工事区間が完成すれば、すべて問題は解決するかのように装った上で、現工事区間の七割完成をでっち上げて情報操作を行おうとしたのです。時がたつにつれて、マスコミもこの誤りに気づき、一昨日、十月十七日に放送されたNHKの論説番組の「あすを読む」は「小田急判決の重み」と題して、正しく冷静に情報を伝えるようになっております。

 さて、今回の判決は、事業の基本調査から都市計画決定及び事業認可に至るまで、必要な情報開示を行わず、住民参加をおろそかにし、一度決めた高架方針に固執し、これを強行、合理化するために、作為的な情報操作が行われた一連の官僚の専横を批判しました。事業認可を取り消すことによって官僚の猛省を促し、公共事業の新たな質の転換を求めています。NHKをして「小田急判決の重み」といわしめる時代を画する判決なのであります。

 前置きが長くなりましたが、この判決を受けて政治は何をなすべきか。複々線化・連続立体交差化事業の早期実現、これには争いがありません。これを一刻も早く、しかも環境の世紀にふさわしい事業として実現すること、そのために全力を挙げるべきではないでしょうか。事業は官僚側の理不尽かつ違法な対応によって、代々木上原までの完成予定が平成二十五年以降になるという、気の遠くなるような遅延を招いております。これは下北沢地区の地下化を隠し、現工事区間の高架でのアセスを通しやすくするために、事業を梅ケ丘で分断したために招いた結果でもあります。また、本来の新宿までの複々線化は、そのめどさえ立っておりません。

 さて、この遅延を打開する道筋は、昨年の秋に原告側が既に提示しております。それは新宿〜成城学園前まで二線二層地下シールド地下鉄を新たにつくり、上部は神宮の森から多摩川へのコリドーをつくろうというオルタナティブであります。この方法を採用すれば、平成二十年までには新宿までの複々線連続立体交差化を完成することが十分可能なのであります。この提案に当たって、原告住民側は、旧来の違法高架構造物を壊してやり直せという原則論から大きく譲歩しております。

 このときの提案では、梅ケ丘までの工事について、仮線としてならば高架複々線について電車を通すことを容認しているのであります。これは仮線の完成によって、この区間の踏切が解消されることを意味します。その上で、成城学園前駅付近が地下構造であり、梅ケ丘〜代々木上原間が地下計画であるのだから、この際、新宿〜成城学園前まで一気に二線二層シールドで掘り進め、完成の後に、仮線として使った成城学園前〜梅ケ丘間の高架構造物に植栽を施し、在来線跡地に植林をして、明治神宮の森から国分寺崖線を経て、多摩川に至る立体的な生態コリドーをつくろうというものであります。もちろん、この計画では、国や都や世田谷区などの行政にも、また小田急電鉄にも、これまでの行きがかりを捨てて、それぞれ大きく譲ってもらわなければなりません。だからこそ、この提案を三方一両損としたゆえんであります。

 この提案を機に、裁判所は国と東京都及び原告住民に和解を働きかけ、この和解が国と東京都から一方的にけられたことによって、今回の判決となったことを決して忘れてはなりますまい。今回の判決文をよくかみしめて読んでいただきたいと思います。原状回復は義務ではないとは言っているが、官僚の責任は免れないと言っている。原告側も原状回復を求めているわけではなく、新たな解決策を提示していることを前提に判決は下されているのであります。

 そういった原告側の提案をもとに、ボールは実は私たち政治家に投げかけられているのであります。事業認可を取り消した根拠になっている違法事由は極めて重い。違法騒音や事業費比較の瑕疵のみならず、複々線事業の期限や無認可の工事をも指摘しており、控訴審が始まれば、国や都は窮地に追い込まれることは必至であります。だからこそ、解決の糸口もあるのであります。

 工事はある程度進んでいます。これを違う方式に変えるとなると、多少余計なお金はかかるでしょう。しかし、今この理不尽かつ違法な公共事業のあり方を変えることが、全国で展開されている秘密のベールに守られつつ行われている公共事業での税金のむだ遣いを抑止することになる。結局は安上がりになるということを考えていただきたい。しかも、提案されているコリドー計画は、都市に緑を回復し、ヒートアイランドを抑止すると同時に、実現すれば、環境の二十一世紀に見合った都市政策の転換の画期となることは間違いありません。また、エコロジカルニューディール政策として、経済を活性化する起爆剤となるでしょう。

 補助金政治や密室の公共事業を打ち破り、本当の意味での構造改革の第一歩をこの世田谷から始めようではありませんか。ここにお集まりのすべての同僚議員とすべの区民、すべての職員に訴えるものであります。区長は難しいことはわからないそうですので、それでもおやめにならないようですから、皆さんが動き出せば、ついて来ざるを得ないでしょう。

 幸い、世田谷選挙区当選の民主党の石井紘基代議士を初め、比例区で当選した岩國哲人代議士、同じく比例区の自由党の鈴木淑夫代議士、社民党の保坂展人代議士、無党派の中村敦夫参議院議員は、判決に賛意を表され、政府や東京都との話し合い解決に賛同を表明されております。旧来の行きがかりを捨てて、新しい時代の幕あけに向けてともに歩まれんことを訴えまして、意見表明といたします。


○(新田勝己議長) 以上で木下泰之議員の意見は終わりました。