平成12年第1 回定例会(自31日 至3 29日)

世田谷区議会会議録

2000年3月29日 世田谷区教育委員会委員任命の同意についての反対討論


○山内彰 議長 これより意見に入ります。
 なお、意見についての発言は、議事の都合により十分以内といたします。
 発言通告に基づき、発言を許します。
 五番木下泰之議員。
   〔五番木下泰之議員登壇〕


◆五番(木下泰之 議員) 世田谷区教育委員会委員任命の同意について、反対の立場から討論を行います。

 教育委員会については、かつて公選制だったものが、現在は自治体の首長の任命制になってしまっております。こういったことではいけないということで、中野区などでは準公選制が取り入れられて、運用した時期もありました。準公選制の際には、中野で教育論議が大変盛り上がったこともあり、他自治体も倣おうとしていたこともたくさんありました。世田谷でも、そういった住民運動も起こっていたと思います。そういった矢先、もう既に廃止されてしまったという残念な歴史を持っておるわけです。ただ、公選制の復活についての議論は根強いものがございまして、例えば青年会議所等がそういった主張を持っているということもご存じの方も多いと思います。

 そういった流れを考えていけば、教育委員に何が求められているかはおのずと見えてきます。アメリカの教育委員会の制度が日本に移入されてきたという歴史もありまして、そういったことから考えても、何も教育の専門家でなくてもいいわけであります、教育委員というのは。教育に情熱があって、子どものことが考えられる普通の感覚を持って、教育問題を解決するために実態をつぶさに把握できること、つまり、時間を割くことのできる普通の市民、そういったことが求められているわけであります。当然、政治的に公正でなければなりません。とりわけ教科書選択の任に当たるなどということを考えれば、政治的中立性が求められているわけであります。

 ところが、今回の教育委員任命に当たって、一体、区長は何を考慮して選んだかどうか、一向にポリシーが伝わってきません。退任される教育委員が東京農大の前学長であることから、後任の学長を選んだというのではお話にもなりません。

 教育長が私のところに持ってこられた経歴書を読ませていただきましたけれども、進士五十八さんが東京農大の学長であり、造園学会の会長であり、国土庁国土審議会特別委員で活躍していることが書かれており、国土庁では北海道開発審議会特別委員、建設省では都市計画中央審議会専門委員、河川審議会専門委員であり、環境庁ではアメニティ優良地方公共団体表彰選考委員であって、東京都では、景観審議会計画部会長、特別区政懇談会委員でもあります。本区におきましては環境審議会委員を歴任され、とりわけ環境審議会の基本計画策定専門部会長であったと書かれております。景観審議会計画部会長も務めておられました。

 これだけの経歴を持ち、現在、国や都や地方自治体の審議委員を多数兼ねている方が、教育委員会の仕事に割く時間があるのでしょうか。教育委員の仕事を全うできるのかということについて私は問いたいと思います。これだけの役職を兼務する方が、世田谷区の教育委員であってよいのかという根本的な問題がございます。月に二回の委員会が定例で開かれます。教育委員の職は非常勤の特別公務員です。定例会だけに出席していればよいというわけでもないでしょう。教育委員については、もっとふさわしい人選があるべきだというふうに私は思います。

 ところで、進士氏は、昨年まで世田谷区環境審議会の委員であり、同審議会のみどりの基本計画策定部会長でありました。私も本議会の議長から推薦を受けた立場で環境審議会委員でありました。ここで何が決定されたか。世田谷の緑被率を、都市にとってふさわしい旧来の目標値三〇%から、現在の二〇%そこそこについて現状維持へと転換してしまったのであります。昨年度、平成十年度に出た審議会の答申によって、そういうことが決まってしまったわけです。

 審議会の中では激しく議論がなされました。そして、変わったのは数値だけではありません。緑の保全よりも開発に伴う緑といったアメニティー重視に変わり、そういった報告書の中から、みずとみどりの課は昨年、都市整備分野に移されました。世田谷の緑の政策について大きな転換をつくった、そういった報告書が出た、そういった審議会です。結局、私一人が三〇%の目標をおろすことに反対いたしました。議事録に残っているはずであります。みどりの基本計画策定部会長として、現在二〇%の現状維持路線を強力に推進したのが進士氏でありました。

 政治的立場を異にすれば、議会では当然、これについては賛否両論もあるでしょう。しかし、私がここで言いたいのは、緑被率をどうするかという問題は、開発と環境をめぐる極めて大きな政治問題だということです。とりわけ区長が長年三〇%を目標値だと言い続けてきた世田谷では、この問題は避けて通れぬ現実的な政治課題なのであります。

 進士氏は東京農業大学の学長であるけれども、造園学が専門であり、また、アメニティー論の草分けでもあります。建設省の都市計画中央審議会委員であり、河川審議会委員でもあります。都市計画の全体像を決める立場でもあり、全国各地で問題になっている河川の堰の問題を審議する立場にもあります。

 二子玉川では、二子玉川再開発と一体となったスーパー堤防の問題、これは世田谷の環境を考える上で大きな問題です。多摩川という河川を自然のまま残していくのか、それともスーパー堤防という形で、アメニティー論のもとで開発とともに緑をつくるという路線になるのか、大きな政治課題なわけであります。

 環境と開発の問題は今、これからまさに世界各国で起こっているような問題、そして日本でも、先ほど共産党の方からも指摘がありましたけれども、さまざまな公共事業をめぐる問題、そういった問題が大きなうねりとして出てきております。そういった開発と環境がアメニティー論で言うように予定調和であるのかどうか、私は決してそうは思いません。環境を守るためには開発は一定抑止されなければならないというふうに私は考えます。世田谷にとっては大きな政治課題であり、進士氏は区長の立場、すなわち開発行政を進める後押しをしてまいりました。私はそういうふうに感じております。

 いずれにせよ、教育委員は独立機関の委員であります。したがって、政治的に中立でなければならないし、行政からは独立していなければならない。区長の基本政策の大転換を後押しし、建設省を初めとする国の審議委員や都の審議委員を幾つも務めている方を選ぶことは、私はふさわしくないというふうに考えます。

 これは、何もいい、悪いということではなくて、まさに時間の問題、そして、やはり環境問題が極めて大きな政治課題になっている今、やはり教育問題に専念して教育委員になっていただく方は違う方を選んだ方がよいのではないか、そういうふうに思うわけです。
 以上述べまして、私は、今回の教育委員任命同意の反対討論とさせていただきます。


○山内彰 議長 以上で木下泰之議員の意見は終わりました。
 これで意見を終わります。
 これより採決に入ります。採決は起立によって行います。
 お諮りいたします。
 本件を原案どおり同意と決定することに賛成の方の起立を求めます。
   〔賛成者起立〕


○山内彰 議長 起立多数と認めます。よって同意第二号は原案どおり同意と決定いたしました。
 ただいまの同意に伴い、新旧教育委員からあいさつがあります。


◎松田 旧教育委員 皆様、こんにちは。松田藤四郎でございます。本日、三月二十九日をもちまして教育委員の任期が満了となりましたので、本日をもって退任させていただくことになりました。

 平成五年の五月十八日から就任いたしまして、一応二期ということでございますが、最初の一期が前任者の残任期間ということもありまして、実際は約七年間でございますが、教育委員を務めさせていただきました。

 私は、一応文部省の私学委員だとか審議委員をした経験がありましたが、現場の実情ということには一番疎うございましたが、この七年間で一番もとになる区の教育委員をさせていただきまして、いろんなことがございました。そのたびにいろいろ意見を申し上げたり、職員のご協力をいただいたりして解決してきましたが、その間につきましては、区民の皆様方からいろいろとご協力やご忠告やらいろんなご支援をいただきまして、私自身、大変勉強になりました。

 私は一応幼稚園から大学院まで全部教育に携わっているんですが、特に世田谷区の教育委員の七年近くで、今の教育の原点が、やはり小中学校からの教育にあるということを大変痛切に感じておりました。

 ちょうどやめるときになりまして、地方分権化による教育行政の事務移管が、たしか二十二、三件あるんですが、実際は、教科書の選択等につきましても一応審議いたしまして、区民の皆様方のご期待にこたえるような制度になったと思いますけれども、あと残りはほとんど、やはり都とか文部省が何だか裏でつながっているんですよね。だから、これは本当の地方分権かというと、教育の面につきましてだけ見ましても、格好だけはつけたけれども、精神はまだ入っていない。本当にいい教育をするためには、やはり現場主体というか、ここで言いますと、区が一番主体になってやるべきだというふうに思いますね。中央集権化し過ぎるというのが、特に文部行政については、そういうふうに感じておりました。

 私はやめましても、やはり教育行政につきましては関心を持って、特にまた世田谷ではお世話になっておりますから、何かとお役に立てるようにいたしたい、こう思っております。長い間、七年間、本当に皆様方にいろいろとご支援をいただきましたこと、厚くお礼を申し上げたいと存じます。

 最後に、世田谷区の行政、また教育行政がますます発展いたしますように、また、議員の皆様方、ご健康でますますご活躍されることを期待いたしまして、ごあいさつとさせていただきます。

 どうも長い間、大変ありがとうございました。お世話になりました。(拍手)


◎進士 新教育委員 今、大場区長からご推挙をいただきまして、議会の皆様のご同意をいただいた農大の進士と申します。

 教育委員というのは、大変忙しいということと、それから重要だということを十分に認識しております。先ほど木下さんが私のことを大変詳細にご紹介いただきましたが、私は、実はまちづくりが大学の研究者としての専門であります。まちづくりは実は人づくりでもあります。人づくりというのは一体のものだと私は思っております。農大の学部長を何年かやってまいりまして、昨年、学長になりましたが、大学の教育の中だけではなくて、たくさんの人たちとつき合ってまいりました。そういうことを踏まえて、理想は高く、しかし、現実はきちっと踏まえて行政をやっていくべきだという、そういう主張を持っておりました。そういう意味で、これまでの経験がお役に立てばと思いまして引き受けさせていただきたい、こう思います。

 議員の皆さんにおかれましては、そういう意味で、ぜひ大きく広くご指導いただければ幸いでございます。どうぞよろしくお願いします。(拍手)


○山内彰 議長 以上であいさつは終わりました。