エルサレムからのHOT NEWS
−イスラエル・パレスチナの紛争の解決を願って−

この記事はイスラエルより発信されている「NONVIOLENCE (非暴力)」のホームページより、製作者 ラエド・アブサリア神父様の許可を得て「聖地のこどもを支える会」で翻訳したものです。


オリーブ・ブランチ NO.193

ベツレヘムだより(49)    2003年3月3日
トワーヌ・ファン・テーフェレン


 丸2日間にわたって雪が降りました。雪は嵐と一緒にやってき、一種の緊急事態になりました。屋根にたくさんの雪が積もり、多孔質の石を通って水が垂れてきました。それから間もなくして、湿気を示す黒いしみが壁に現われました。ヤラとタメルの寝室の雨漏りを受けるためにバケツを置かなければなりませんでした。荒天時の常として停電があり、2、3時間続きました。マリーが電力事務所に問い合わせたところ、我が家は運が良い方だと言われました。よそには2日間も停電している家があります。ガスの供給も途絶えました。マリーは難民キャンプなどの、質素であまり頑丈でない住宅に住んでいる人たちを気の毒に思いました。家族全員で重ね着をしました。夏服を見せびらかしたかったヤラは悔しがりました。そんなこんなにもかかわらず、雪は普段の外出禁止令からの良い息抜きになりました。「今日は休校よ。でも、『外出は禁止されている』からじゃないのよ」とマリーがヤラに言いました。実は、イスラエル兵は休暇を取って町には居ませんでした。ヤラはかぜを引いているのですが、我が家の庭と義理の家族の庭に雪だるまを3つ作りました。そして雪がいつまで残っているか分からないので、雪だるまの横に並んであわてて写真を撮りました。夜になってヤラがすっかり疲れてしまってから、日本の雪の話をしました。そのお話では男が白い顔をした雪女を妻にするのですが、その妻は春になって解けて消え去ってしまいます。「パパ、ハッピーエンドのおとぎ話をしてよ!」とヤラは文句を言いました。

 ベツレヘムの東の雪が全く降らなかったベイト・サフールの人たちが、ベツレヘムの西にあり、200〜300メートル海抜が高く、たくさん雪が降ったベイト・ジャラに行きました。(雪が解けると、雪解け水が川のようにベイト・サフールへと流れていきます。)雪は喜びをもたらしただけでなく、政治や移動の問題以外の話題について話をする機会を与えてくれました。それはまるで、この人々が人類と再びつながりを持てたかのようでした。子供たちの遊ぶ姿を眺めながら、親や祖父母たちは過去の長く寒い冬の記憶を呼び起こしました。また、雪にはロマンチックな面があります。ベツレヘムではなおさらです。早朝から、写真家やビデオカメラマンが、クリスマスの家庭向き映画や歌でおなじみの雰囲気をよみがえらせようと、雪に包まれたベツレヘムの静寂のイメージを追い求めました。夏に結婚を予定しているカップルが雪の中で早めの結婚写真を撮りました。アラブ教育研究所の秘書のシリーンは、早朝長い散歩に出かけて一面銀世界の通りや大学のキャンパスをビデオに収め、「いつの日にか、ここに住む人たちの心が雪のように白くなる」ようにと静かに願ったと、目を輝かせて教えてくれました。すべての問題からのがれて、郷愁に浸り、汚れの無いベツレヘムを追い求めているのでしょうか。これらすべてのロマンチックな静止写真は、客に涼しい感じを与えるためにパレスチナのレストランの壁にかけてある大きなスイスの写真を何となく思い出させます。マリーはこのたぐいの写真を見かける度に私をからかいます。こういうものは俗受けをねらった作品だと私が思っていることを知っているからです。

* * * *

 雪の後に現実が現われてきました。驚いたことに、ベイト・ジャラの銀行を襲った強盗をパレスチナ警察が逮捕しました。武装派グループのために武器を購入する資金を手に入れるのが目的だったと容疑者は言いましたが、この主張は当のグループに即座に否定されました。驚くにはあたりませんが、それでもイスラエル軍はこのことを強調しています。そしてイスラエル軍自体は街に戻っています。私が行った店で聞いた噂によるとベイト・サフールで外出禁止令が施行されていて、それはハル・ホマあるいはアブ・ガニエムの入植地での銃撃に対する報復に違いないとのことでした。また別の客は、たぶんギロでの銃撃のせいだろうと言っていました。それともイスラエル軍が逮捕に忙しいからでしょうか。先週ベイト・サフールで3人の少女が逮捕され、翌日釈放されました。人々はいつもに増して怒りました。私自身は、新たな一連の逮捕や外出禁止令の度に、希望の町ベツレヘムが少しずつ死んでいくように感じます。そして、雪がしばしの間の自由をもたらしたために、外出禁止令がいかに不自然なものであるかということを一層強く感じるようになりました。「ああ、かわいそうなベツレヘム」とマリーが言いました。ベツレヘムは、心の中では永遠に生き続けるでしょう、しかし人間の現実においては今日絶望的な様相を呈しています。

 イラク戦争を非難する米国の子供の詩を職場で読んでマリーは泣きました。マリーは最近以前より泣くようになりました。マリー自身は、今の気候が亡くなった父親を思い出させるからだと思っています。父親は生前、風雨から家を守るためのあらゆる方法を盛んに論じていました。エルサレムにある外国の領事館に勤めている人たちから、戦争が3月6日木曜に始まるという噂を聞きました。木曜日?!オランダ領事館に確認したところそのような噂は聞いていないとのことでした。いずれにせよ、我が家は新たな人災に対処する用意ができています。我が家は十分な食料を蓄えており、戦争中に身を守る方法についてリーフレットを配っている駐エルサレム教皇庁使節のアドバイスに従って、コンピュータもバックアップを取りました。マリーの職場の同僚が「ベツレヘムは安全なのかしら」と言いました。しかし、それはだれにも分かりません。いずれにせよベツレヘムからは離れないとマリーは頑として譲らず、「200万もの人たちが西岸とガザに留まっているのに、どうして私たちが避難しなければならないの」と言っています。私も異存ありません。他の人たちはアメリカ映画を見たり、(私たちの隣人のように)ダイアナ妃を記念するアイテムを集めたり、衛星テレビの専門チャンネル(音楽、ファッションなど)に熱中したりして、ニュースから気をそらそうとしています。ヤラはヤラで、我が家の向かいにあるすばらしい家に住んでいると空想しています。「その家はホテルみたいなのよ」とうっとりして言っています。ヤラは映画スターの様に選り好みをするので、マリーは服を着せるのに苦労します。「来年になれば学校の制服を着ることになるので、本当に助かるわ」とマリーはため息をついて言いました。しかし、「不可避な」戦争についての話には気がめいります。総じて人々は、戦争のもたらす結果について全く希望が持てないと感じています。「戦争はパンドラの箱を生むだろう」というのが代表的な意見です。

 一方タメルは、周りにあるおもちゃをさわったり、いじったり、口に入れたりするのに余念がありません。今タメルは赤ちゃん遊びがお気に入りで、しょっちゅう頭を前後に揺らしています。「まるでイスラム教徒のように祈りたがっているみたい」とマリーは言います。


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