撚Happy Birthday to Sanji撚

『優しい』


 優しい?


 オレが?



 優しい?何故?



 どうして、優しくしたのか…?




「…ったく…また、何か考えてやがるな」
「…へっ?」
 ゾロの呆れたような声に、サンジは上を見上げた。覗き込むように顔を近づけ、眉間に皺を寄せた剣士が一人。
 そうだった…。
 戦闘の、あまりにも手応えのない相手に、持て余した熱を発散させるように互いを探り合っている最中だった。
 サンジはゾロとのセックスの最中に、時々別の事を思い出したり考えている事があるようで、何度かそれを指摘された事がある。別に集中していない訳ではないのだが、気になっている事がある時に事に及んだりすると、ずっとその事が頭から離れていかないのだ。何かしらの結論に達するまで、いつまでも頭の中に居座り続けてしまう。
「ん〜…ああ、いや…」
 まだ上半身をはだけただけで、切羽詰まった状態になっている訳ではないので、ゾロは諦めて身体をずらした。受けていた暖かさとか重さが身体の上から無くなると物足りなさを感じる。
 サンジはゆっくりと身体を起こすと、手元に脱ぎ捨ててあったジャケットから煙草を抜いた。
「で?何だよ、今回は?」
「何だよって言われてもなぁ。今回は雑魚が相手にならねぇ程弱かったな」
「あぁ?」
 およそ関係の無いような事を言い出したサンジに、ゾロは怪訝な声を出す。
「じぃさんも助かったし、身軽な兄ちゃんも助かったし、可愛いアナグマちゃんも助かって良かったよな」
「…あ〜まぁな」
「アナグマちゃん…女の子だったんだなぁ。可愛いからきっと素敵なレディになるぜ、あれは…って、そうか!!」
「何だよ、急に!!」
 一体何なんだと、驚いてサンジを見ると、急に話を切り上げたサンジが一人納得したように呟いていた。
「そっか、そうだ。実はオレ見抜いてたんじゃねぇの?あー、納得いったぜ。はぁ、スッキリした。よし、ゾロ続きヤろうぜ?」
「はぁ?」
 ゾロには何が何だか分からない。
 何が言いたいのか分からないような事を話していたかと思ったら、いきなりでかい声を出して納得して、さてヤろうとのし掛かってくるサンジに、ゾロは押し倒されてしまった。
「ちょっと待て!何一人で解決してんだよ。訳分からねぇな、お前は」
「ああ、いいんだ、もう。おし、まだ萎えてねぇな。待たせて悪かったな」

−− コイツの突飛な行動には慣れたと思ったがよ…

 さっぱり分からないと、ゾロはサンジのキスを受けながら諦めて腰に手を回した。





「で?何が納得いったんだよ?」
「は?」
 興奮した熱も冷め、隣で俯せになり煙草をふかすサンジにゾロは先程の疑問を投げかけた。
「ああ、さっきのね。いや、チョッパーとかルフィとかウソップとかによ、『優しい』とか言われてよぉ」
「優しい…?」
「そう」
「誰が?」
「オレが」
「へぇ。何でまた…」
 今更…と言う言葉を飲み込み、ゾロはサンジを窺った。
 薄く笑いながら煙草を燻らすサンジは、言いようもなく艶めいている。
「アナグマちゃんにさ、毛布届けてやったんだよ。そん時にな。でも何で優しくしたのかなぁってあの時言われて考えてたんだ。で、さっき納得した。チョッパーに言われるまで女の子だって気付いてなかったと思ったけどよ、実はオレちゃんと気付いてたんじゃねぇかって。小さくてもレディはレディだぜ?優しくもなるよなぁ?」
 オレって凄くねぇ?などと笑うサンジに、ゾロも少し笑った。
「お前…自覚ねぇみてぇだけどよ」
「ん?」
 機嫌良さそうにサンジはゾロを見る。
「お前は、誰にだって優しいぜ?女子供には特に甘いけどな」
 ゾロの口から飛び出した『優しい』という言葉に、サンジは一瞬耳を疑った。絶句しているサンジを余所にゾロは尚も続ける。
「子供に対しては、自分と重ねちまうんじゃねぇか?じぃさん助けてぇって言ってたしよ」
 呆然としていたサンジの頬が一気に朱色に染まった。



 何を言っているのだ、この男は。



 優しい



 優しい……?



 優しいのはゾロの方だろう?




 赤い顔をして言うべき言葉を見失ったサンジの指から煙草を引き抜くと、傍にあるアッシュトレイに押しつけ揉み消す。
 優しい剣士の腕が身体を包み込み、抱き締められた。



 ゆっくり倒される時、その背の向こうに燻る煙草の煙が少し、見えた。




*映画の話です*

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2003/3/18