あの空に浮かぶ羽がない
Kei Kitamura
抱き合っている時は、快楽を追い求めるだけの獣に成り下がる。
舌を絡ませ、胸をまさぐられ、震えて触れて強い刺激を待ちこがれている欲望を、思う様擦り上げられ、意識は混濁してくる。
ただ、
ただ、深い快楽を与えてくれる身体に縋り付き、あられもない嬌声を上げる。
飛べるかもしれないと、肩越しに見える夜空に思いを馳せる。
「何を、考えて、る」
乱れる身体をゆるく揺すりながらゾロがサンジの耳元に囁きを落とす。何度も聞いたことのある問いかけに、サンジは答えることなく薄く笑うだけ。
「お前はいつも…」
「いつ、も…?」
言い淀むゾロに先を促すように視線を合わせた。背に回していた手をゾロの頬に滑らせ、伝う汗を拭い取る。
「いつも、違うトコロにいやがる…」
その言葉に少しだけ瞠目し、再び薄笑みを浮かべそっとゾロに口づけた。
「ふっ…ここ以外のドコ、に…いるってんだ…」
身体の奥深くまで、ゾロに繋がれていると言うのに。
心の奥底にまで、ゾロが浸透しているというのに。
忘れそうになる。
忘れてはいけない事を全てを奪い去る嵐の中で、心はただ一人だけを求めている。
熱い身体に抱き締められ、脳まで痺れるようなキスを交わしているだけで、何もかもがどうでもよくなってしまう。
「んア……あぁ…い、い……ゾロ……」
腰を抱え上げられ更に深く沈み込む熱量に、サンジの思考は掻き乱され、漏れる言葉は吐息に紛れた。
「もっと……ぁ…ゾロ…ゾ、ロ……」
「っ…サンジ……」
それでもこんな時、忘れるなとでも言いたげに心のどこかが急激に冷える。
持て余す熱とは裏腹に、心のどこかに氷が張るように。
ゾロには、感じないだろうか……
揺るぐことのない槍を胸に抱いたゾロには、分かることのない事なのだろうか…
ああ……
奇跡の海に続く、あの高い空を思うまま飛ぶことが出来たら、どんなに…
僕はなぜ
風のように雲のように あの空へと浮かぶ
羽がない
なぜ…
2002/12/26UP
引き続きブルー…
あ、いや、ブルーデー(死語か?!)なので(爆)
Kei