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不愉快に冷たい壁とか
次はどれに弱さを許す?

  最後になど手を伸ばさないで
  貴方なら救い出して


私を 静寂から

   時間は痛みを加速させて行く

<1>

 夜が怖くて泣いていたのは、随分と前の事だと思っていたのに。

 嵐が怖くて震えていたのは、子供だったあの頃だけだと思っていたのに。


 闇の底から聞こえてくる呻き声。
 海の底から無数の手が伸ばされて、藻掻くことしか出来ずただ溺れていく。

 泣き叫ぶ事も出来ず、ただ、俯くだけ。


 罪を背負った子供は、全てを拒み、諦める事で生きている。



「…どうした?」
 灯りの点いていない暗いキッチンで膝を抱えて座っていたサンジに、見張り中だったゾロが声を掛けた。
 喉が渇いてキッチンまで降りてきたが、この時間ならまだサンジが起きている筈なのに、灯りが点いていないのを不審に思いドアを開けた。月明かりで照らされたシンクに、もたれ掛かって蹲るサンジを見つけた。
「具合でも悪いのか?」
 優しい声にサンジはゆっくりと顔を上げる。その虚ろな瞳に映るのは、憧れて止まない強さを持った剣士。
 どうすれば、強くなれるのだろう。
 己の脆弱な精神は、どうすれば、力強い槍へと変わるのだろう。

 いつだって、背中ばかり見ていた気がする。
 届かない背中を見つめて、苛立っていた気がする。

 強くなりたい。
 支えになりたい。

 早く大人になりたいと、望んでいたのではなかったか。


「おい」
 黙ったままぼんやりとゾロを見上げているサンジの傍らに跪き、頬を軽く叩いた。涙こそ出てはいないが、焦点の定まらない瞳を覗き込む。それでもサンジは覚醒しない。
 どこか危うい、脆い。
 ゾロの背筋が寒くなった。
「…寝ボケてんのか?」
 ふと足下に散らばる薬に気付いた。
「お前…何飲んだ?!」
 サンジの肩を揺さぶるが反応はなく、ただ惰性に委せゾロの身体にもたれ掛かって来る。その身体を抱きかかえ、シンクに頭を突っ込んだ。水を流し、サンジの口に手を押し込み、飲んだ薬を吐かせようとした時、思いもよらぬ力で押し退けられた。
「触る、な」
 袖口まで濡らした水滴が、ポタリと床に染みを作っていく。
 シンクに手を付いたまま、ズルズルと床に沈んでいくサンジの身体をゾロが支えた。
「テメェ…何してんだよっ?!」
「…るせぇよ。耳元で怒鳴るな。聞こえてる」
「何飲んだんだ。吐き出せよ、オラ」
「っ!…ヤ、メロってんだ…。ただの睡眠薬だよっ…」
 眠れねぇからと力の抜けた身体をゾロに凭せかけたまま、そう小さく呟いた。
 ゾロが大きくため息を付いたのを振動で感じ、サンジはこのまま眠れたらと思う。狂ったような思考を止めて、眠らせてくれるのならと、身体を反転させゾロの胸に額をつけた。
「なぁ…眠れねぇんだ…。抱いてくんねぇか?」
 ゾロの腕がピクリと揺れた。
「クタクタに疲れりゃ、眠れねぇかな…?」
 サンジがこんな風に素直に弱音を吐くことは初めてで、ゾロは驚きを隠せず、言葉を繋ぐ事も出来なかった。
「強く、抱いてくれよ…。酷くしてもイイから…なぁ、ゾロ…」


 抱いてくれと。

 壊してくれと。


 強請るサンジの姿が普段とあまりにも違いすぎて、力の抜けきった身体があまりにも頼りなくて、押し倒すのにも躊躇う。
 それでも震える手が必死で、爪が腕に食い込んで、疲れさせれば良いとそっとサンジの身体を床に倒した。



 飲んだ薬が睡眠薬だというのは本当だが、適量だったかは定かじゃない。
 それに抗うつ剤も一緒に飲んだのは、言わなかった。
 ゾロが現れたのは、幻覚だと思った。声を聞いても、それが現実のものだとは思わなかった。
 荒い息を付きながら、サンジは幻覚の中にいたのかもしれない。

 壊れてしまえばいいと思った。
 壊れて、壊して、いっそもう何も考えられなくなれば、こんな苦しみから解放されるかもしれないと。

 助けられた命。
 そんな大層な命では無かっただろうに、大切なモノを失ってまで助ける命ではなかった筈だ。

 それを受け入れられないのは、己の器量の狭さだ。
 そんな事に縛られ続けているのは、己の弱さだ。


 ならば、いっそ…


「っぁ…もっと…もっと強、くっ…」
 強く抱けと、サンジが強請る。
 腰を淫らに揺らし、貪欲に吸い付く秘所からは卑猥な音が漏れる。
「ひっ…−−−っ!」
 深く身を沈めたところで、サンジが身体を震わせて幾度目かの絶頂へ上り詰めた。きつく絞り込まれた内壁にゾロもその精を叩きつけるように解放した。
 動かなくなった身体からゆっくりと自身を抜くと、数回分の液体がドロリと蕾からこぼれ落ちる。ヒクヒクと蠢く秘所から吐き出した精液を掻き出し、身体を拭いてやっている間もサンジは気付く気配はなく、ただぐったりと横たわっていた。
 抱え上げ、部屋のソファへと運び、ブランケットを掛けてやる。
 死んだように眠るサンジの髪を撫で、ゾロは部屋を後にした。

 明日、目覚めた時は、いつものサンジに戻っていればいいと思いながら。

How to I live on such a field?

2002/4/16UP



色々なモノとのギャップが凄くてですね、我ながらダークだ…(笑)
これ、続くんですけど、いつUPするか分からないので、あまり期待しないでいただけると幸い。
待ってくれてる人がいるのなら…頑張る…(相変わらず弱気)
*kei*


オフの方で発行してしまったので、サイト改装に伴い落とさせていただきました。
スミマセン;;