<<<back

「恋と言う名の一過性の発情症候群に於ける

    その発病及び傾向と対策について考える」

 考えても考えても、さっぱり分からない。
 どうしてこんなことになったのか。
 自分から誘ったのは随分と前の事で、その時の心境なんてもう覚えていない。
 欲しいと思ったから?
 ただ、人肌が恋しかったから?

 よく、分からない…。



  今日のゾロは変だ。

「寒くねェか?」
 ジャケットは既に脱がされ、シャツはゾロの手によってはだけられて、後ろから抱きしめてられていた。前に回った熱い手のひらが胸を柔らかく揉み込むように撫でながら時折突起を掠めていくのに、サンジの肩が揺れる。耳元で囁かれるその声は低く掠れていて、首筋から甘い痺れが足先まで突き抜けて膝の力が抜けていく。
「寒かねェよ…っ」
 ゾロの胸に背中を預け、返事をした自分の声にサンジはギョッとする。掠れて音にならない声が吐息のように漏れた。


  今日はオレも変だ……。


 立ったまま後ろから受ける抱擁は優しく穏やかで、いつもの嵐のような交ざり合いとは程遠く、サンジは自分の頬が紅く染まるのを感じたが、どうすることもできず俯くだけだった。少しでも隠せるなら、と長い前髪で顔を覆いゾロの目に映らないように。少しでも頬の火照りを納められるならと、空いた両手で顔を覆うのは、ゾロに分からないようにするため。
 胸を這っていた手が其のサンジの手にかかり、ゆったりとした動作で外させた。決して力を入れることなく、それでも隠すことを許さない強さで。
「何、隠してんだよ?」
「隠してなんか……」
 肩を掴み身体を反転させたが、サンジは俯いて顔を背けることしかできなかった。


  恥ずかしい…


  …んだよ、訳分かんねェよ…


 ただ口づけを交わす時よりも、ゾロを受け入れ喘いでいる時よりも、今紅く染まった自分の顔を見られる事の方が何よりも恥ずかしいとサンジは思う。
 そんなサンジを知ってか知らずか、俯いたサンジの頬にその大きな手のひらで触れた。
 サンジの身体が傍目にも分かる程にビクリと跳ねたが、ゾロはそのまま髪を掬うように掻き上げた。サラサラと指の間を零れる自分の髪さえ見ることができずに、きつく目を閉じる。


  ああ、イヤだ。こんなオレもイヤだけど…

  何で今日はこんなにヘンなんだ、コイツ


 俯いたままのサンジの頬に添えられたゾロの手に力が入り、顎を持ち上げ顔を上げさせようとした。それに気づいたサンジが慌ててその手を剥がそうと顔を背けたが、もう片方の手に阻まれ両手で頬を挟まれてしまい、紅く染まった頬や潤んでしまっている瞳をゾロに曝すことになってしまった。
「顔、見えねェだろうがよ」
「……っ!」
 顔を上げさせられ、対峙したゾロの深い翠の瞳が、サンジの瞳を覗き込んでいた。
 滾る熱を孕んだ瞳。
 それが自分に向けられる劣情なのだと、その時身体の中をゾワリとした何かが走り抜けたのを感じさせられた。
 何か。
 それは、紛れもない恍惚感。
「キス…してェ…。いいか?」
「バッ!…カ、野郎……んな事聞くなっ」
「不意打ちかますって前怒ってたじゃねぇかよ?」
 以前キッチンで洗い物を片づけている時に、背後から急に襲われて不意の事にどうすることも出来ず、好きなように唇を貪られた事があった。その時確かにサンジは怒ったのだ。しかし理由がキスをするという行為に対してでは無かったのではないか、と思い出す。


  あんときゃ…煙草臭ェってテメーが言ったから怒ったんじゃねぇかよ…


 黙るサンジに焦れたゾロが再び同じ質問を投げつける。今度は確認ではなく、予告。
「おい、キスするぞ」
「…勝手にしっ…」
 サンジに最後まで言わせず、その唇を塞いだ。戸惑う事無く、薄く開かれた口腔内に舌を差し込み、深く深く唇を合わせていく。舌を絡め合わせ、口腔内を思うままに蹂躙される。角度を変える度にサンジの口から漏れる小さな声に煽られるように、頬に添えられていたゾロの手が首筋を撫で、耳の裏を擦りあげた。
「…んぁ…んっ……」
 横に垂らされていたままのサンジの腕がゾロの背に回り、シャツを強く掴んだ。
 長いキスにサンジの思考は溶かされてゆき、ただ与えられるばかりではない口づけに酔いしれた。


  ああ…コイツのキスは気持ちいい…


「っふ……ぁ」
 長い口づけから解放された頃にはサンジの身体には力が入らず、ゾロの腕に支えられ、ぐったりとその胸に抱き留められていた。
「…サンジ」
 低く耳元に響く声。
 ゾロの声だ、と改めて思う。
 この声にどうしても煽られてしまう。
「誕生日だってな……」
「!」
 ピクリとサンジの肩が揺れた。
「おめでとう…んで、ありがとよ」
 ゾロに身体を預けたまま、放心状態にあったサンジの目が見開かれた。今耳元で囁かれた言葉の意味を理解するのに、数秒を要してしまった。


  う、わ……

  何だ、コレっ?!


 跳ね上がる心拍数と、耳まで紅くなっているであろう自分の顔に狼狽え、サンジは硬直状態になる。
 抱き合った状態では自分の心臓の音がゾロにまで伝わってしまう。
「お、おめでとうはともかくっ、ありがとうって…何だよ?」
 狼狽を隠す為にわざと荒い口調でゾロに問いかける。もちろん顔を上げることなんてできず、ゾロの肩口に頬を当てたまま。
「ん?…色々とな」
「なん、だよ?それ…」
「俺にも分からねぇよ。何となくだ、何となく」
 サンジの照れが移ったのか、ゾロも気恥ずかしげに頭をボリボリと掻く。
 何気ないゾロの仕草や言葉に、改めてサンジはその中に暖かいものを感じた。


  好きだな…


 そう、思った直後、顔に火が点いたかと思う程恥ずかしくなった。
 そんなサンジにゾロが一言。

「なぁ、もう一回キスしていいか?」

「…バカ…聞くなって言ってんだろっ…」


 甘い甘いキスが降ってくるのは、数秒後のこと。
Happy Birth Day !!
To Sanji♪





2002/3/1UP

前夜祭(^-^;)
んで、こんな砂を吐くようなモノを書いてしまひました。
ワタシがこんなに誕生日とかで盛り上がれるのは、多分サンちゃんだけでしょう!
*kei*