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DESERT TOWN

Kei Kitamura

<1>

JUST IN DESERT TOWN
NOTHING TO DESIRE




 砂の街、アラバスタ。


「しっかし、オカマやらルフィの兄貴やら登場人物増えて大変じゃねぇか?」
「…オメーそりゃ誰に言ってんだよ」
 もそもそと何かを作りながらのウソップの意味不明な呟きに反応したのは、煙草を銜えたままぼんやりと宙を見ていたサンジだった。
「や、ま、気にすんな」
「つーかお前ヘバってたじゃねーか。何やってんだよ」
 ここに居ないルフィとサンジとウソップ以外のメンバーは昼の疲れが出たせいか、既に熟睡状態にあった。
「最新兵器でも作ろうかと思ってよ」
「またなんとか星ってやつかよ?」
「まぁ見てろよ、俺はあの魚人の幹部をやっつけたウソップ様だぞ」
 得意そうに拳を掲げるウソップに、半ば呆れながらも笑いが漏れる。
「へーへー、勇敢な海の戦士ウソップ様かよ。いいけど、明日もまた砂漠だぜ。早く寝ろよ」
 サンジはウソップの頭を軽く叩くと、立ち上がり外に向かった。
「あ、おい。ドコ行くんだよ?」
「便所」
 そのウソップの言葉に振り向かず、手だけをヒラヒラと振りサンジは外へ出た。
 空を見上げると丸い月が明るく夜の砂漠を照らしていた。ぼんやり其れを眺めながら、近くの石に腰掛けた。どこかでザクザクと砂を掘る音がする。

−−砂の街…、か

 女性に対するサンジの考えは常に『守るべき対象』であり、その守るべき女性の涙を見ることが辛くて、憤りを覚える。自分のこの手で守れるものなら、何を置いても守り抜きたいと、そう思っていた。

−−ビビちゃんの涙なんて見たくねェよ…

 女性にはいつでも笑顔でいて欲しいと、そう願う。
 煙草のフィルター部分にまで火が到達し、灰がぽろりと落ちた。銜えていた煙草を靴で揉み消すと、新しい煙草を取り出し火を点ける。深く吸い込むと肺の中に広がるいつもの感覚に目を閉じて、ゆっくりと吐き出す。
 ユラユラと紫煙が揺れ、月明かりの下照らされたサンジの顔に影を落とした。


 足許の砂を一掴みすると、掌からザラザラと零す。
 砂の音。
 この静かな月夜に砂の音だけが響く。

 ふと砂を踏む音が背後から聞こえてきた。
 振り向かずとも、サンジには其れが誰の足音か分かってしまった。
「便所…ドコだ?」
 聞こえてきたのは、予想通りの人物の声。忍ばせるような、ゆっくりとした足取りはゾロ以外にあり得なかった。
「知らねェよ」
「行ったんじゃねェのかよ?」
「タヌキめ…」
 俯いたまま手に付いた砂を叩き落としていたサンジは、小さく舌打ちをすると横まで来ていたゾロの靴を見つめた。
 脛に見える傷の痕。
 それがサンジの胸を抉る。
 傷痕から視線を引き剥がすと、またぼんやりと空を見上げる。
「便所にも行かずに、ココで何してんだよ」
「せっかくの綺麗な月夜なのに、隣にいるのが美しい女性じゃなくてテメーだってのが、情けねェよな」
 質問の答えにもなっていない、口の端を上げ視線を合わせようともしないサンジに、ゾロは大きく溜め息をつく。
「また何か余計な事考えてたな」
「オレは人間だからな、考え事もするさ。筋肉製脳味噌の誰かさんと違って」
 ゴム製脳味噌って奴もいたっけな、と笑いながら続ける。
「……」
 次から次へと出てくるサンジの言葉に会話が成り立たない、とゾロは頭を抱えた。

−−口の悪さは天下一品だな…
−−しかし、もちっと何とかならねェもんかな

 サンジの座っている石の隣にゾロも腰を下ろす。口も開かず、お互いに空を見上げていた。
 左側に座った為、サンジの表情は髪に隠されて読みとれない。金の髪が月光に照らされ輝きを増していた。ゾロはその髪に手を伸ばし一房掴むと、指の腹で擦るように梳いていく。
「…んだよ?」
「お前はヘバってねェのか?」
「オマエこそ、チョッパーの次はウソップ抱えてよ、速攻寝てたからくたばっちまったのかと思ったぜ」
 髪を弄っていたゾロの手は後頭部に回り、ゆっくりと頭を撫で始めた。それを嫌がるでもなく、サンジはされるがままゾロの好きなようにさせていた。


「砂の街、か」
「ん?」
 暫く頭を撫でられたままだったサンジが、静寂を破り口を開く。
「ビビちゃん…救ってやりてェよ」
「……」
「もう涙を堪えてる姿、見たくねェ……」
 サンジの頭に添えられていたゾロの腕が肩まで落ちて、細い身体を引き寄せた。サンジの指から煙草が落ちる。
「そうだな…」


JUST IN DESERT TOWN
NOTHING TO DESIER



目の前にあるものが崩れ落ちてしまう前に
手を差しのべてあげるよ
この目をひろげて

2001/9/19UP

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2006/1/18