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ALWAYS ON MY MIND

Kei Kitamura

<Practice>

Maybe I didn't treat you
Quite as good as I should
Maybe I didn't love you
Quite as foten as I should


 突き抜けるような青い空と、深淵を覗かせる青い海。
 グランドラインはその二つが溶け合う不思議な場所だった。

 船首にはいつものようにゴーイングメリー号の船長ルフィが陣取っていた。その傍らにはパラソルの下でゆったりと新聞を読む航海士ナミの姿があり、アラバスタの王女ビビとカルーもナミの隣で海の向こうを眺めていた。
 階段を下りた甲板には狙撃手ウソップが船の修理に勤しみ、戦闘員剣豪ゾロはメインマストに寄りかかり惰眠を貪っていた。
 キッチンにはもちろんコックのサンジが昼食の準備中。姿の見えない医者チョッパーはサンジを手伝って一緒にキッチンに籠もっている。そこからは美味しそうな匂いが漂ってきていて、船首に座るルフィの元にも其れが届いた。
「あ〜肉〜」
「アンタ、料理の名前って知ってる?」
 ルフィの口癖にナミは新聞から目を離し呆れたように問いかける。
「ん。焼き肉」
 堂々と言い切るルフィに肩を竦め、また新聞に目を落とす。
 嵐の前の静けさとも言える、穏やかな海。

「ナミさぁ〜ん!ビビちゃぁ〜ん!昼食の用意が出来ましたぁ〜v」
 キッチンの扉が勢いよく開き、両手と頭に器用にトレイを乗せたサンジが出てきた。まず女性にのみ声をかけるのはいつものこと。
「野郎共!メシだ。ウソップ、ルフィ、テーブルの用意しろよ。天気がいいから外で食おうぜ」
 ルフィは船首から手を伸ばし、キッチン前の手すりを掴むとサンジの元に飛んできた。ウソップも修理中の手を止め、やれやれとばかりに溜め息をつくと腰を上げた。
「メシ〜!」
「早く食いたかったら、早く準備しろよ」
「おう!」
 ウソップとルフィが後ろの甲板にテーブルを運び、そこへ料理をチョッパーが運ぶ。
「ゾロ。お昼食いっぱぐれるわよ?」
「Mr.ブシドー、起きないと本当に食事なくなりますよ?」
 サンジの怒声でもグーグーと寝続けるゾロの脇を、ナミとビビが声をかけながら通り過ぎるが、それでも起きる気配がない。
「ナミさん、ビビちゃん。ソレは放っておいて冷めないウチに食べなよ」
「いっただっきむぁ〜すっ!」
「つーか、言い終わる前に食ってんじゃねーよ、クソゴムッ!」
 テーブルにゾロ以外のメンバーが集まり昼食を取り始める。
 サンジはポケットから煙草を一本取り出して火を点け、寝続けるゾロを起こす為に階段を下りる。
 声をかける前にスラリと伸びた足がゾロの腹目掛けて振り下ろされる。それを寸でのところで避け、ようやくゾロは飛び起きた。
「っ!何しやがるっ!」
「ちっ、避けやがった。起きれんじゃねーか。メシだよ、メシ。早く食え」
「足から先に出してんじゃねェよ、クソコック!」
 片手に雪走を掴んだまま、ゾロが不機嫌に言う。飄々と煙草をふかしたサンジの姿に力が抜ける。
「声を掛けたところでテメーが起きるのかよ。いいからとっととメシ食え」
 ゾロは溜め息を一つつくと、手にした雪走を離すと食事を取るべくサンジの後を追った。

−−もちっとこう…何とかなんねーのかね、コイツの態度は…

 食卓は既に半分以上ルフィに荒らされていた。
「毎回毎回懲りないわね、アンタも」
「…るせぇ」
 声をかけてきたナミをチラリと見てそれだけ言うと、イスに腰掛け目の前にある食事に手を付けた。

「あ〜旨かった!満腹!ごちそうさまっ!」
 と、ウソップ。
「キノコ残してねーだろうな?」
「食ったって!」
 その皿には骨に隠されたキノコ。
「サンジ!おかわりっっ!!」
 と、ルフィ。
「もうねぇよ!おやつまで待て」
「ごちそうさま、サンジさん。カルー行きましょ」
「お口に合いましたか?ビビちゃん」
 カルーを伴って船首の甲板に向かうビビにサンジが声をかける。
「ええ。美味しかったわ、サンジさん。いつもありがとう」
「いや…オレはコックだから」
 改めて言われたお礼に驚いて、いつもの軽口が出てず頭を掻く。照れ隠しなのか皿をカチャカチャと音を立てさせて重ねていく。
「……」
 ナミが黙ってゾロをじっと見つめ、何か言いたげにしていた。
「…何だよ」
 酒を煽っていたゾロが、さすがに居心地が悪くなり口を開く。
「アンタもたまには何かコメントしたら?」
「あ?」
 言われた事の意味が掴めず困惑するゾロから目を離すと、ナミは席を立つ。
「美味しいでしょ?サンジくんの料理。いつもアンタの好物をルフィに取られないように、後から出す事も知ってる?知ってるわよね。そういう事よ」
 それだけ言うと何か言いたげなゾロを後目に、片づけを続けているサンジの肩を叩き声をかける。
「ごちそうさま、サンジくん。おいしかった。おやつも期待してるわね」
「はいっ!ナミさんっ!ナミさんの為に作るからね〜」
「俺は?!サンジィィ〜!」
「うるせェ。オレはレディの為にだけ料理してェよ」
 サンジに巻き付く(言葉の通りに腕と足を延ばして)ルフィを引き剥がしつつ、サンジはまた片づけ始める。

−−サンジの料理が旨いのは、敢えて口にする事じゃねェだろ

−−でも…確かに…

 ゾロの好物は必ず後から出てくる。ゾロがテーブルについた時に、サンジが誰にも気づかれないようにそっと目の前に出してくる。それは、知っていた。
 言った覚えもないのに、サンジはゾロの好物を知っていた。ゾロだけではない、全員の好物や苦手な物を把握していた。
 ゾロは何度目かの溜め息を付く。

−−…んな言葉くれーで、コイツが喜ぶってのか?

 ゾロは飲み終えたカップをテーブルに置き、席を立つ。意を決して。
「…旨かった。ごちそーさん」
「…!!」
 サンジが凄い勢いで振り向く。じわじわと染まる頬を見つつ、ゾロは背を向け片手をヒラヒラと振ると階段を下りて行った。

−−言ってみるモンだな…あんな顔が見られるんなら

 笑みを浮かべたゾロの頬にも赤みが差す。


 空は青くて、雲は白い。そんな昼下がり。



Little things
I should have said and done
I never took the time

You were always on my mind

You were always on my mind

2001/10/3UP

「Always on my mind」掲載につき、
サイトから落とさせていただきます。
2006/1/18