*Happy?*
Blue sky blue
キッチンの扉を開けると、そこの主はテーブルに突っ伏していた。 具合が悪く気絶しているのか、ただ寝ているだけか。その寝息からは後者であることが伺える。 珍しい。 これまで昼日中に、この男が居眠りなどしているトコロを見たことが無かった。 余程疲れているのだろうか? それとも昨夜のアレが響いているのか。 暫し思案した後、これ幸いと酒を一本引き抜き、サンジの隣に腰を下ろした。椅子に掛けてあったジャケットをサンジの肩に掛けて、コルクを抜く。 少しだけ肌寒い昼間。 太陽は空高く昇っていて、風もそこそこ。 ルフィはメリーに座り込み、ウソップはその隣で釣りに励んでいた。チョッパーはナミと何やら本の内容について論議しているようで、その隣ではロビンが静かに本を捲っている。 穏やかと言っていい程の昼下がり。 姿の見えないサンジは、恐らくキッチンに籠もってナミやロビンのおやつやら何やら作っているんだろうと思って、キッチンの扉を開けたのだが。 瓶に直接口を付けて半分程喉の奥に流し込む。サンジが起きていたら怒られるかもしれないと、先日も怒られた事を思い出して苦笑いを漏らした。 テーブルに散らばった前髪を指に挟み弄ぶ。金の髪が指の間からスルリと抜ける感触が心地よく、何度も繰り返す。潮風に吹かれ、見た目よりも少し湿った髪は、ゾロの手に馴染んだものだった。 稚い子供のような寝顔。 「あら…?」 キッチンの扉から顔を覗かせたのは、先程まで甲板で本を読んでいたロビンだった。 「コックさんはお休み中?お邪魔しちゃったかしら」 「…別に」 パタリ、とドアを閉じるとシンクに向かう。 「少し喉が渇いたから、お茶でも貰おうかと思ったけど…」 サンジにちらりと目を送ると、小さく笑った。 「お疲れみたいね、コックさん」 自分で淹れる事にしたようで、起こさないよう物音を立てず器用に其処此処に手を咲かせた。この能力には随分慣れたとは思っていたのだが、やはり突然生えてくる身体の一部には驚いてしまう。 「ねぇ、剣士さん」 「あ?」 「今日が何の日か貴方は憶えているのかしら?」 心持ち小さな声で問いかけられ、シンクの方へ視線を向けると、皿に盛られていない料理やデザートが並んでいた。だがそれはいつもと変わりない、普段の状態に見える。 「……」 暫し考えを巡らせていると、目の前ににょきっと手が生えてサンジの頭を軽く撫でた。咄嗟にその手を払おうとしたが、パッと消えた其れにゾロの手は空を切るだけに終わる。 「おい」 触るなとでも言いたげなゾロの視線を受けて、ロビンはまた小さく笑った。 「大切にしているのね。とても」 「何言ってんだ、テメェ」 「ごゆっくり」 ロビンの小さな笑いを残して扉が閉じた。 奥歯に物が挟まったような物言いをするロビンにゾロは舌打ちをする。ロビンが去ってから無意識のうちに緊張させていた身体から力が抜けた。それすらも苛立ちに変わる。 別にロビンを信用していない訳ではない。もう今更だろうとゾロは思う。 ただサンジにちょっかいをかけた事に少しの苛立ちを感じた。これを何と呼ぶのか知らないが、とにかく寝ているサンジに触っていいのは自分だけだと、そんな考えが頭を過ぎったのは一瞬で。 眠りの浅いサンジが、物音や人の声で起きない筈もなく、動こうとしない黄色い頭に手を差し込み少し荒く掻き回すと、クスクスと笑い出した。 「…タヌキ」 「そりゃテメェだろ。なんで起きなかった」 ロビンやナミが来たら一も二もなく飛び上がって、妙な顔で笑うのが常のこの男が寝たふりをしていた事が不思議で、そう問いかける。 サンジは返事をするでもなく、気怠げに髪を掻き上げ、肩に掛かったジャケットから煙草を引き抜いた。 「寝てたんだよ、途中までは本当に。オマエとロビンちゃんが遠くで話してんなぁ…と思ったんだけどな」 深く吸い込んだ煙を吐き出す為にそこで言葉を句切り、ニヤリと嫌な笑みを貼り付けゾロの顔を覗き込んできた。 「オマエ、オレの事大切にしてんの?」 「ああ?」 「いやー…触るのもダメってくらい、愛されちゃってんだ、オレ〜」 「はぁ?」 ニヤニヤと笑っていた顔が近づき、トンと口がぶつかる。触れてすぐに離れる口吻に、後を追う暇もなくヒラリと離れて行く。 −− 何だか良いようにあしらわれているような気がするのは、俺の気のせいか? まぁ、それも別に嫌な感じではないので、ゾロは溜め息を付くと瓶に手を伸ばす。 大きく背伸びをしたサンジが、キッチンの扉を開きながら振り向いた。 「ゾロ。今日オレ誕生日だから」 「…?!」 軽く言われた言葉にゾロが噎せたのを見て、サンジは笑う。忘れてると思った、と笑いながら外に居るクルーに声を掛けた。 「ナミさーん!ロビンちゃーん!!おやつだよ〜!!ついでに野郎共も、食いたきゃ食え!」 一気に喧噪を取り戻した船の上。 本当にしてやられた、と思ったゾロは、一矢報いるべく背を向けたサンジの肩を引き寄せ、さっきは触れるだけだった唇を塞いだ。 「んんんんんっっ!!」 不意を突かれたサンジは慌てて後ろ手でドアを閉める。おやつと声を掛けてしまったので、欠食児童さながらのルフィはもうキッチンの寸前まで来ていた。 突然締められたドアにぶつかる音。 「さぁんじぃー!!何で締めるんだよ〜!」 「んっ…」 口腔内をぐるりと舌で撫でて、スルリと抜け出す。 「て…テメっ…!」 サンジが喚き立てる前に、耳に息を吹きかけ髪を撫でてから拘束を解いた。 押さえていたドアを開くと、ルフィが飛び込んでくる。それと擦れ違うようにゾロは外へ出た。 「サンジ、何で顔そんなに赤いんだ?」 そんな呑気なルフィの声を背に、ゾロは笑いながら青い空を見上げた。 晴れて、青空。 |
Happy Birthday!!
to
Sanji
愛しているよ
2004/3/3UP
***Kei***
青空曇り空 雨降る涙空
どんな空にも希望が流れる