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*Happy Birthday to Sanji*

Treasure

■ memory stone ■



目の前に表れたのは金色の髪の、白いコックスーツを着た少年。
幼い頃のサンジだった。

「ぬぅわー!マジで出やがった!!」
どこからともなく、まるで浮き出るように現れた幼少の頃の自分を見て、サンジは魔石を持ったままメインマストまで飛び退いた。
チビサンジが選ばれたのは事故だった……。
ルフィとウソップがそれぞれの過去の自分を呼び出す事を主張し、結局は石の奪い合いになり、それをサンジが止めた。
サンジから石を取り返そうと2人が手を伸ばし、それを避けようとつい、石を月明かりに晒してしまったのだ。
ナミの声で気が付いた時には既に遅く…。
月光を受けた石は一瞬光を放ち、それが消えた時には目の前に子供の頃の自分が立っていた。
「……どこだ?ココ……?」
チビサンジは狐につままれた様な顔をして呆然と立ちすくんでいる。
柔らかそうな金髪、色の白い肌色。コックスーツから見える腕の細さ。
サンジより若干頬が丸みをおびて、手の甲も子供らしくふんわりと膨れている。瞳も大きく感じる。
体の大きさを除けば、子供の頃のサンジだと疑う余地はなかった。
他の面々も本当に現れたチビサンジの姿を唖然としたまま見つめる。しかし、最初に我に返ったのはナミだった。
「…か、可愛い〜〜!」
チビサンジの元へ走り寄り、しゃがみ込んで目線を合わせる。覗き込まれて一瞬身を引いた手を取って、ぎゅっ、と握るとニッコリと笑いかけた。
「私はナミ。この船の航海士なの。よろしくね」
「…あ…うん…」
もう一度「可愛い!」と、叫び声にも似た何とも甲高い声を出しながら、ナミはチビサンジをその懐へぎゅーーっと抱き締めた。
「ぅあ!テメェ!チビのくせにナミさんのお胸に抱かれるなんざ百万年早ぇぞ!!」
マストに張り付いてその様子を見ていたサンジが血相を変えて飛び込んで来る。
しかしチビサンジはキッと目を剥いて、いきなり文句を付けた来た男を睨み付けた。
「チビのくせにって何だよ!お前こそオレと同じ顔しやがって!マネすんな!」
「マネだと〜?テメェこそ、チビのくせにオレのマネしやがって!」
「うるせぇ!チビって言うな!オレにはサンジって名前があるんだ!」
「知ってるよ!それくらい!」
「なんでお前がオレの名前知ってんだよ!知ったかぶりしやがって!」
「…それは…っ!」
黙り込んでしまったサンジを見つめた後、チビサンジはナミの背に腕を回して、その豊満な胸の中へ顔を埋めた。
「お姉さんは優しい人みたいだね〜。それにいい匂いする!」
「〜〜〜〜!!」
ギリギリと歯噛みして、今度こそナミから引き剥がそうと踏み出した途端、サンジの体の四方八方からロビンの腕が生えた。
「落ち着きなさいな…。コックさん」
口調は穏やかなのに…サンジを拘束した腕はきっちりと関節技をかけている。
「コック…?」
その単語にチビサンジが敏感に反応した。
「そうよ。サ……っと…このお兄さんはこの船のコックさんなの」
それからナミは仲間の全てをチビサンジに1人1人紹介した。
「で、コレがこの船のごくつぶしのゾロ」
「……テメェな……」
「何よ?ホントの事でしょ?」
睨み合う2人を余所に、チビサンジはじぃっとゾロを見上げた。
「……ジジィ……?」

……その言葉に一瞬、その場に居た全員が固まった。

いち早く自分を取り戻したのはサンジで。
まるで火山が噴火したように、ぼんっ!と真っ赤になると、動けない体であわあわともがき出した。
「な、なっ、何…っ?」
「バラティエのオーナーに剣士さんが似てるって」
ロビンが冷静かつ、トドメのツッコミを入れて、サンジはがっくりとうなだれた。
「とにかくお茶でも飲みましょ?私の部屋に来ない?」
チビサンジを連れて、ナミとロビンは女部屋へ引き取る。
どんな経緯でこの船に来たのか。上手く説明するつもりなのだろう。
「サンジー!メシ!」
「…お前なぁ…。さっき晩メシ喰ったじゃねぇかよ…」
ルフィにウソップ、チョッパーもサンジの様子を気遣い、男部屋へ入って行った。
残されたのは傷心のサンジと、相変わらず表情の読めないゾロだけだった。
「……オレぁ……あんなに口の悪いガキだったのか……」
今も変わってないけどな。
と、言うのは敢えて口に出さないでおく。
「ナミさんの胸にぎゅーされたなんて……覚えてねぇ…」
女好きはあの頃からだったんだな。
と、言うのも口に出さないでおく。
「信じらんねぇ…。クソジジィとテメェが似てるなんて…」
-----それについてはコメント仕様がない。
「ぅあーー!!クソムカつくーー!!」
「どわっ!!」
衝撃音の後に大きな水音が響いて。しばしの間、船上からゾロの姿が消えた。


明けて翌日。
サンジにとっては衝撃的な事実が発覚した。
正確には前夜に起きた事なのだが、1つ目はチビサンジがナミと同じベッドで眠ったと言う事。
そして2つ目は女部屋で寝ていた筈のチビサンジが、朝には男部屋のソファでゾロと一緒に毛布にくるまっていた事だ。
寝起きのゾロを踏みつけて白状させた所によると、夜中に甲板でうずくまっていたので、仕方なく一緒に眠ってやったらしい。
「子供扱いするなってすげぇ怒ってたけどなぁ…。いざとなったら俺より早く寝付いてたぜ?」
「……」
何故かムカついて、とりあえず踵落としもお見舞いしておいた。
当のチビサンジは女性陣にすっかり懐き、また他のメンバーとも打ち解けて、甲板からは久しく聞く事のなかった子供の笑い声が絶える間がない。
それだけならまぁ…。子供特権だと許せる範疇ではあるのだが…。
チビサンジは何かにつけてゾロの側から離れようとしなかった。
ルフィ達と遊んでいても目線でゾロを追い、ゾロが動けば自分も動くと言った具合に後を付いて回っていた。
何が困るってこれが一番困る。
あれでは自分が子供の頃からゼフに執着していたのがバレバレなのだ。
チビサンジはゾロにゼフを重ねているからあんなに懐いているのだろう。
その感覚はサンジ自身も覚えがあるから理解は出来るのだが…。今までひた隠しにしていたのに、思わぬ所で自分の幼さを見せつけられた気がする。
それに…。
ゾロに懐いているのが自分だと思うと妙に照れくさい。
とてもじゃないがまともに見ていられなくて、今日はキッチンに引きこもる事に決定した。


一方ゾロは。
寝ている自分の姿を大きな眼でじっ、と見つめるチビサンジに少々戸惑っていた。
チビサンジがやけに自分に懐く理由が、あのレストランのオーナーに似ているせいだとしたら…。一体どこがどう似ているのか見当もつかない。
(何か…コイツ等にしか分からねぇ物でもあるのか…?)
チビサンジの気配が少しずつ自分に近寄ってくる。
小さな手が己の膝に触れた所で薄く目を開けた。
「…どうした?」
「っぅわ!起きてたのかよっ!」
驚いて膝に置いた手を引っ込める。何か悪い事をした訳でもないのに、所在なげにその手をパタパタと揺らして。
「ま、枕…じゃなくて…オレも寝るからそこ空けろよ!」
「…はぁ?」
昼寝したいなら他にいくらでも場所はある筈だ。それこそ昨夜みたいにナミに懐いて、もっと暖かいベッドの中で眠る事だって出来るだろう。
子供故の突飛な発言なのか…。訳の分からない事を、と思い、そこで気が付いた。
こんな風な事を誰かにもよく言われる。
「寝たいならココで寝ればいいじゃねぇか」
そう言ってゾロはチビサンジの頭を押さえ、自分の膝の上に寝ころばせた。
「ちが…っ!何でオレがオマエの膝で寝なきゃなんねぇんだよっ!」
「子供が遠慮すンな」
「ちくしょー!ジジィもオマエも子供、子供って言いやがって!」
日の光が目に入り、眩しそうに顔をしかめるチビサンジの顔に影ができる様、体をずらす。じたばた暴れていたチビサンジがそれに気づき、ふっ、と大人しくなった。
(素直じゃねぇのもこの頃からか…)
太陽と潮の香りと一緒に、キッチンから良い匂いが漂ってくる。
サンジが夕食の支度を始めたのだろう。
「…あのさ…。アイツの作る料理…さ。旨いよな…」
「…そうだな」
サンジの作った食事をチビサンジは目を輝かせて食べていた。その時だけはゾロからも興味が逸れた様で、出された料理に夢中になっていたのが分かる。
何か聞きたい事でもあるのか時折サンジをチラチラと窺うのだが、結局何も言わずにキッチンを後にしていた。
「興味あるんだろ?アイツの料理」
「別に…」
と言う割にはチビサンジの様子はどこかそわそわしている様に見える。
-----これがサンジなら。こんな風に素直になれない時に一番効果的なのは。
「手伝って来いよ。やりたい事あるならガキのくせに遠慮すんな」
「ガキって言うな!」
「ぐぁ!」
勢いよく立ち上がったチビサンジは、がしっ!とゾロの脛に蹴りを入れて、バタバタと走り去って行った。
蹴りの強さはサンジの比ではないが、何せ場所が…痛い。
(足癖悪ぃのもこの頃からかっ…)
サンジに足技を教えたゼフを思わず恨んでしまったゾロだった。

つづく

ちかわともき様のサン誕企画
junko様よりv

Kei Kitamura