児童書の世界へ

絵本を読もう 昔話を読もう 児童書を読もう

小学生(低学年頃)より
ちびっこカムのぼうけん
作/神沢利子 訳/山田三郎(理論社)
少年カムのお父さんは行方不明、お母さんは病気です。カムは、お母さんを助けるために、イノチノクサを探しに一人で旅にでます。そこでうち負かすのは、大オニガムリイ。ガムリイは夜な夜な海でクジラをまみあげ、火山で炙って食べる大男です。

 私が小学生の頃に読んだ記憶で残っているのは、ワクワクとした冒険の楽しさです。小さなカムが大小の動物たちと力を合わせて様々な冒険を乗り越えていくのが、とても頼もしく感じられたことでしょう。私たち大人もこの本のカムと同じように、いつまでも動物たちと対等な友達でいられたらと思います。

 「超能力を持たない普通の少年カムが、どうやってガムリイに勝てるのだろう」作者の神沢利子さんは、この作品を書くときにそれがわからずに悩んだと言います。そして空の見えない侘びしい部屋で7日間悩み、見えない空に幼い日を過ごした樺太の大空を見たとき、そのヒントがみつかったそうです。北の空に輝く北斗七星、あのひしゃくだってきっと水をすくいたいに違いない。そして、空には水を満々とたたえた天の川が流れている、そのことに気がついたときには、本当に嬉しかったといいます。(2007.1.26神沢利子講演会より)

 私は、満天の降るような星空を見たことがない。目が悪いせいもあるのだろうけれど、夜の空を流れる天の川を見たこともない。煌々と輝く月の明るさは知っている。でも、月の輝く夜には星が見えないのだ。いつか、星座がみつけられないほどたくさんの星をこの目で見てみたいと思う。(2007.1.27)

幼児(4〜5歳頃)より
ほしになったりゅうのきば―中国民話
文/君島久子 絵/赤羽末吉(福音館書店)
 龍のきょうだい喧嘩によって、空に裂け目ができてしまい、世の中はその裂け目から降る雹や雨で暗く荒んでしまいました。その裂け目を閉じるために、石から生まれた若者サンが立ち上がり、困難な旅に出ます。

 頭に浮かぶ映像や声に出す音の響きががとても美しい本です。思いの外長いし、読むのにもそれなりに時間はかかりますが、読んでいて退屈をする箇所がどこにもありません。繰り返し場面場面がどれも印象的で、ワクワクさせられます。大きな本を縦に使い、見開きいっぱいに描かれた岩山は迫力があり、花に乗った娘がその上から音をたてて降りてくる様には、身が震えるような神秘さがあります。

子どもの言葉より
私、この本の内容はそんなに好きだったわけじゃないと思うけれど、山の上から声がこだまみたいに響いてくる「いかーん いかーん いかーん」のところとか、ママの読み方のせいかなぁ。すごく印象に残っているよ。(2006.5 中三娘)

 この話の発端である龍の喧嘩の原因は、桃の取り合いです。古来より中国では、桃が霊力をもち、不老長寿の薬効をもつと考えられてきたといいます。個人的にも、あのやわらかな色合い、形、色、香りは女性のやわらかさや神秘性をイメージさせるように思います。日本において桃の節句は女の子の厄よけや健康を祈願するものですし、英雄の桃太郎はまさにその桃から誕生します。

 この民話では神にも等しい存在である龍がそういった桃をめぐって争うことにより、世界の均衡が崩れます。そうして、龍は惨めなことに痛い思いだけをして、小さくなっています。何か、現代でも似たようなことがあちこちで起きているようです。

また、そんな風に崩壊してしまった世界を救うことのできる英雄が、石から生まれた若者というのも興味深い設定です。石から生まれたと言えば、やはり中国の孫悟空が頭に浮かびます。どんな逆境にも立ち向かえるだけの人間離れした力をもつ英雄は、やはり人間以外の、自然の力によって生まれた何かである必要があるのでしょう。

古くから伝わる民話は、ただの作り話ではなく、その奥底に計り知れない多くのことを隠し持っているので、知識のある大人にもたいへん興味深く読めます。

星のひとみ
文/Z・トペリウス(フィンランド) 絵/おのちよ 訳/万沢まき(アリス館)
 星のひとみをもつ少女がいた。そのひとみは、真実を見る。

 西洋において、魔女が忌み嫌われたのはなぜだろうか。魔女は真実を見、真実を語る。真実を語られると困るのは、一見この現実社会に生きることに成功していると見える人々だ。真実は、表の世界からは見えない。でも、本来ならば誰だって見ているはずなのだ。実は見えているからこそ、見たくない。

 この表紙にある絵の淡く深みのある色合いは、まるで魔女の心模様を表しているようで、胸騒ぎと安らぎとが同居しているように感じられる。(2000.)

地球というすてきな星
作/ジョン・バーニンガム 訳/長田弘(ほるぷ出版)
ジョン・バーニンガムが熊野体験博に参加し、そこで得たビジョンにより作りあげたという絵本。世界遺産にも登録された熊野古道、日本古来からの魑魅魍魎も生きながらえているであろうその地で、西洋人のジョン・バーニンガムはどのようなビジョンを得たのだろうか。絵本は、おだやかな自然の中で遊ぶ2人のこども達の前に突如神様が現れて、世界を見にいこうと誘うところから始まります。

 自分が「すてきな星」に住んでいることを思い出したいときに、読むといい本です。
以前ある人が、この絵本に出てくるような、不思議な光の珠のようなものを見て驚いたことがあると言っていたのを思い出しました。子どもたちがごく自然に受け止めるであろうことを、古人がごく自然に受け入れていたであろうことを、現代の大人がスピリチュアルという特別な言葉を介してでないと受け取れないのはちょっと寂しい気がします。絵本や昔話、ファンタジーでは、特別用語とは無縁で、ごく自然に、ちょっと不思議な「すてきな」ことに出会えるのが魅力です。

児童書の世界へ