野生犬ドール E
作/マイクル・フォックス 訳/藤原英司 絵/加藤孝雄 (国土社)
 「何が大切かを知った人は、そのために働かなければならない。」という最後の一文は、やわらかな娘の心に一撃を食らわしたのではないだろうか。少しずつ、今ではない未来、将来の存在に気がつき始めた小5の娘、勉強もスポーツも音楽的センスも??だし、ものごとの理解力や自己表現に関しては絶望的ではあるけれど、感受性だけは人一倍もっています。一撃を浴びたからといって何が変わるわけでもないけれど、さてどんな人生を送ることやら楽しみです。
 野生に生きる動物の生活を観察して書かれているこの手の本を、娘 は毎回借りてきます。オオカミ、コヨーテなど家族とともに群れをつくる彼らの生活は、彼女に大きな魅力と安心感を与えるように思います。幼少時(3〜6歳頃)、彼女が何度も借りて読んでいた「ねこのオーランドー」、こちらは擬人的なねこの家族のごく平凡な生活が描かれた本でした。成長とともに借りる本は変わりましたが、彼女が求めているものは決して変わることがありません。日常の家族の生活、安定した群れの関係、そういったものを強く求めています。身につまされる思いです。(2003.02)

いちばん美しいクモの巣 S
作/アーシュラ・K・ル=グウィン 絵/ジェイムズ・ブランスマン
訳/長田弘 (みすず書房)
 ゲド戦記の作者、アーシュラ・K・ル=グウィン作の絵本です。何かを創ると言うこと、自らが納得するということ、誰かを喜ばせるということ、自らの存在価値、そんなことにまで思いが至ってしまうクモの巣のお話です。

 手にとってパラパラめくっていた息子は、タペストリーの絵を見てこれってクモの巣? あ、これだ。雨が降った後のクモの巣。これがいちばん美しいクモの巣だ。読む前に絵だけで完璧に理解してしまったようでした。それでも「早く読みたいな」と楽しみにしていました。息子は読む前に何でも知っていたい性格ですが、娘は読んでからのお楽しみにとっておきたいので、読む前に内容について言われることをすごくいやがります。(2003.02)

クジラと少年の海 
著/小島 曠太郎・ 江上 幹幸 (理論社)
 クジラを糧として生きるインドネシアの小島に住む少年が、日々の暮らしを生き生きと語る。著者が実際に過ごした島で、出会った人と出来事をもとに少年の目を通して書いたものだ。
 古くから大切に作られてきた船に乗り、命がけでクジラにモリを打ち込む漁師は、村の人々の命をも預かる重大な役目を負っている。そんな漁師になった父を誇らしく思い、自分も漁師への道を選んだ少年。
 誇りをもって働けるということは、自分の存在価値をみいだすことも可能で、そこには生きる喜びが存在するだろう。
 現代の日本ではどうだろうか。手本となる大人は近くに見えず、多種多様な価値観が溢れ、選択肢が多すぎるために自分の未来像が思い描きにくい。誇らしいと思える仕事をみつけることも、自分の存在価値を見いだすことも、至難の業だ。物や情報が溢れていて、何でもできる暮らしが豊かな暮らしなのではなく、不自由や貧しさがあったとしても自分の存在価値を豊かに感じられる暮らしこそが、豊かな暮らしなのだと思わされる。
 少年と同年代の息子は、少年の暮らしを自分と重ね合わせ、感じることがあっただろうか。(2003.11)

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