もう10年以上前になるかな。二十歳ごろ、サハラ砂漠のおへそあたりにあるけっこう標高が高いtamanrassetっていうオアシスの近くで、不思議な感覚になったことを思い出しました。
自分の息と衣擦れの他に音のない、荒涼とした地で、自分を認識するために必要な最低限の対象物しか存在しなかったせいかな。夜、凍てついた空気の中、1人でいて、ふと気が付くと、私は宇宙にいたんだ。客観的に見れば私の頭上は満天の星空なんだけど、その時の私には空に星があるんじゃなくて、なんて言うんだろう。そうだ、地球の存在がどっかいっちゃってるんだ。だから大気圏なんてない。そう、空なんかない。宇宙そのものに私があった。その宇宙はものすごい質量で私の全身を圧迫して、私はものすごくちっぽけな蟻のようなんだけど、一方でものすごく大きな質量をもつとてつもなくリアルな存在で、そのあまりに大きな存在感は1人で背負うには重すぎるくらいだった。
 今考えるとサンテグジュペリの「星の王子様」の世界ってこんな感じかもしれないな。なんだか地球の存在は何歩か歩くと一周できちゃいそうなくらいちっぽけになっちゃってて、自分はそのちっぽけな星に立つ怖いくらいにリアルな存在。周りは限りない宇宙なんだ。
その感覚は昼でも空を見上げると容易にできたよ。雲ひとつない限りなく深い青空は、目を凝らしていると、どこまでも深く遠く真っ黒で、宇宙そのものだったんだ。

(1998.12)

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