boys(Egypt)
ほんとはね、言葉は苦手なの。

使わないでいいって言われたら、使いたくないくらい。

感じていることを言葉にするのはすごく難しいんだもの。
言葉にしたとたん、ホントは違うのにな…って、がっかりする。

どうして泣いているの?
寂しいから?悔しいから?悲しいから?嬉しいから?楽しいから?
わかんないよ。そんなの。

すぐ怒るんだね。
怒ってる? 私、怒ってる?
なんか違うみたい。

感情を言葉にしたとたんに私はいつも納得いかなくて、変な感じ。落ち着かない。どれも私の感覚と違う気がするんだ。

たとえば晴れた日の朝、自転車をこぎながらやわらかなアスパラガスの茂みを見て涙がでてきたりする。変? でも、そんな風にわけわからずに涙がでてくることってあるんだ。
どうして? って聞かれたら、ホントに困っちゃう。
きれいだったから? 嬉しかったから?
どれもそうみたいだけれど、そんな言葉にしたとたんに
その感覚はふーっと消えていってしまう。
アスパラガスの茂みが、私を泣かした。ただ、それだけのこと。

本の感想や、映画の感想、絵の感想。こういうのも難しい。
評論家の人がいろいろ言ってたりすると、すごいなぁと思う。
私も、何かを感じているんだろうけれど
感じていることを、自分でもよく理解できない。
どうだった?
って聞かれると、困って、とりあえず「んー? よかったよ」とか答えてしまうけど、実は私、よかったんだか悪かったのかもよくわからないことが多いんだ。
好きとか嫌いとかいう方がまだわかりやすいけどね。それすらもなかなかピンとはこない。
後になってからじわじわーっといろんな感覚がしみだしてくるかんじ。
どんな出来事だって、なんとなーくぼやぼやーっと溶けていってしまう。
ザルみたいな私の体のフィルターを震わして、いろんなものがどんどん体の後ろの方へ流れて広がっていってしまう。きちんとキャッチできない。

自分がしたことだって、言ったことだって、すぐ忘れちゃうし
人から言われた言葉も、ちゃんと聞こえてこない。
聞こえているのに、実は聞いてないんだな。
電話で何か連絡がきて、理解したつもりでハイって答えていても
受話器おろすともう何も覚えてない。
あわてて電話かけ直して「ごめん。さっきのなんだったっけ」ってことになる。
自分でもいやになっちゃうよ。相手はもっといやだろうけど…。
だから、このごろはどんなに小さなことでもメモをとることにしているよ。
でもあまり電話が長くなると、そのメモさえもがいつの間にか隅から隅まで塗りつぶされ、消えてしまっている。やっぱり「ごめん。さっきの…」ってことになる。次から次からさっぱりきれいに忘れていってしまう。
あ、忘れるんじゃなくて、もとからインプットできていないんだ。
頭が悪いんじゃない? って言われたら、
そのとおり。としか言いようがないんだけどさ!


そうそう、中学生の頃も英語の暗唱なんてまるっきりダメだった。
「読みながら書くと覚えるよ」とか、「意味考えながら覚えるといいよ」とか友人に教わって夜を徹してがんばったりもしたけれど、やっぱり覚えられない。一人ずつ順番に暗唱させられた時の、順番がさしせまったあのぐるぐるした熱い感覚、まだ覚えてるよ。やんなっちゃう。英語は覚えてなくても、その時の感覚や空気とか匂いは覚えているんだ。

通り過ぎた風そのものは忘れちゃって、
風が震わせた細かい振動だけを覚えているみたい。
そういえば古い記憶がふっと甦る時って、だいたい風や空気の感覚が媒体になっているよ。
あれ? この空気、この匂い、あの時の…あの場所の…とかってね。そうそう、私の一番好きな日常の空気はね、年の瀬もおしせまった師走の街の空気だよ。あの独特の匂い、雰囲気、ぞわぞわするよ。
そうそうこの感じ。うん、うん。

いいねえ。
今、その空気を再現して味わってました。

好きな空気の再現。
これね、私の秘密の楽しみです。
快感……。