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中学生から
カラ―孤独なハヤブサの物語
J.F. ガーゾーン (著), Joseph F. Girzone (原著), 沢木 耕太郎 (翻訳), 小島 武(絵)
 沢木耕太郎が翻訳とのことで興味を持ち、読んでみました。お話としては、ある日、ハヤブサがふいに悲しみや罪の意識といった感情を持ち、それによって小動物を食べるという行為を放棄するものです。何の前知識もなく、ごく自然に、ハヤブサの生態や自然の営みについて語った本として読み始めた私には、ハヤブサの肉食の放棄という事態に、身体の中で強い拒否反応がおこり、ひどく不快な思いをすることになってしまいました。それでも読み進めると、次第に、孤独なハヤブサは人間である己自身と重なっていき、そうすると、一人の人間が、本能を超えた何かに目覚め、慈しみのこころを糧に生きようと試みる物語へと大きな変化を遂げていった。小島武の描くハヤブサの目から見た自然の情景は、その高い視線から神との同化を意識させ、読み終えるときには、涙さえ流さんばかりに身体の不快反応が浄化されていた。
 キリストと言う言葉も、神という言葉も使われていないけれど、まさにキリスト教の世界です。
 実際にはそんな単純にはいかないよ。そんな甘い平和は見せかけの物でしかないよ。強い者と弱い者とを単純に分ける考え方、良いことと悪いことを単純に分ける考え方にはついていかれないよ。いかにも神とわかるあからさまな表現、その他受け入れられないことがたくさんあるにも関わらず、結局は大いにこころ動かされてしまった私はなんて単純なんだろうと呆れ、そんな単純さは騙されやすさとも結びついているのだから、十分気をつけようという認識を強く持ちました。

 この本は中二の娘が借りてきました。小六の息子が読んで「これはきつい。けっこう悲しい。なかなかいいね。これはみんな読んだ方がいいよ。読んで欲しい人はいるけれど、読んでもわからないだろうなぁ。」などとつぶやいていました。(2006.1)

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