E-イブ(12歳) & R-リック(10歳) & S-say-umi

5月の本棚

連休が嬉しい。1日にイブがダウンして病院で一日を費やし、今日3日には思いがけずリックもダウン。どこにも出かけられないけれど、充実した日々。スピード勝負の片手間料理ではなく、ごく普通の料理ができる喜び。心の底から真剣に怒ることができる余裕、精一杯ぶつかりあって声を嗄らし、大泣きし、大笑いし、家族の絆を深めることのできる大切な大切な家族の時間。
 そして、本が読める喜び。図書館にも行かれて、あぁ、満足のGW。

風の星 
作・絵/新宮晋・英語/アン・B.ケーリ(福音館書店)
 読者は風として暖かな南の海に生まれ、風としてこの地球をなめるように吹いていきます。鳥の翼を借りて空を飛ぶ発想はよくみられますが、風の視点を持って世界を見る発想には驚かされました。しまいには、一種興奮状態になるほどのスケールの大きさに、圧倒されます。そう、ここは地球という星、風の星、地球なのです。きっと、原始宗教の感覚は、この絵本を見たときに感じるような畏怖の念からおきたのだろうと思いました。そういう題材だからこそ、まだ言葉を知らない小さな子どもから、言葉にがんじがらめになっている大人までが、同等に心をゆすぶられ、楽しめるように思います。

 新宮晋氏は、風や水、自然の力で動く彫刻をつくる作家です。だからなのでしょう。この本の絵には、高さ、広さといった立体的な空間が感じられます。今月のお勧め◎!

白孤魔記 蒙古の風 E
白孤魔記 洛中の風 

作/斉藤洋・絵/高畠純(偕成社)
 白孤魔記は、仙人の元で人間に化身できるようになった一匹の狐が、源平から鎌倉時代の武士の世に様々な武将と出会い、出会った人物へ抱いた深い愛情から、一匹の狐としては不可解きわまりないその生き様に興味を持ち、知りたいという心の奥からの欲求に突き動かされて、厳しい時代に翻弄されながらもまっしぐらに生きる物語です。それは、大人の世界への疑問をもちながら、しかし誰からも納得いく答えを得ることはなく、また自らゆっくりと考える余裕もないままに、いつのまにかその渦に巻き込まれ翻弄しされていく現代の思春期の子どもたちのようです。

 2月以降、夜に2話程度ずつ音読し、未だに読み進めている最中の本です。10歳になったリックは、東西を問わず歴史物に夢中です。歴史物といえば戦いであり、権力争いや生死の問題が含まれます。これらに興味を持つのは、思春期に片足を踏み入れようとしているその年齢や、性別によるものなのでしょうか。

あした地球が終わる E
作/後藤みわこ・絵/せきねゆき(汐文社)
 CB(Clean Bomb)という生物のみを殺害する爆弾が世界中で炸裂した後に、生き残った数人のこども達が、みえない希望に目を凝らし、生きようとする数日間の葛藤を描いた物語。かつて親友だと思っていた友人に対して、実はひどいことしかしておらず、憎まれていたことを知る少年や、極限の生活の中から、かつての憎しみを乗り越える勇気を得る少年など、登場人物一人一人に、厳しい課題とその達成が見られる。それまでの価値観の喪失と、目の前にある現実を認めることの難しさを身にしみて感じさせられる。普段、死や別れ、ひもじさ等を体験する機会の少ない現代の子ども達は、このように生きる意志を問われることはないだろう。最後、こども達に生きる意志が生まれるところで物語が終わる。地球のその後は書かれていない。この本が地球についての物語ではなく、まさにそこに生きる一人一人の物語として書かれているためだろう。「これ、怖かった。もうちょっと続きが欲しいな(リック談)」
 地球は本当に終わるのだろうか、という疑問をひきずったままで物語は終わるため、リックの心にはかなり厳しい不安感が残る物語だったと思います。

ロバになったトム E
作/・絵/()
 話の展開が昔話調の物語です。しかし、やはり昔話は昔話として長い年月を語り継がれ、摩耗し、余分なところは削られ、強調すべきところが強調され、作者の意図はどこにも臭わず、簡潔にピシリと語られるているからこそ昔話なのです。
 昔話調だと、どうしても昔話として読んでしまい、まるで土をタライに入れてゆすると、上に大きな石や塊が浮き上がってくるかのように、「実は昔話ではない」部分がくっきりと浮き出てしまいます。それは、冗長で緩慢な流れであったり、余分な言葉だったり、教訓を含んでいそうな暗示的出来事であったりします。何より辛かったのは、そこここに意図せず作者の意図が臭っていることでした。これが本当に昔話だったらどんなに面白かっただろうかと、昔話の面白さを違った角度から再確認できた本です。
 お話自体は十分に面白いので、もしもこのお話が、今後語り継がれていくことができたなら、次第に臭味も抜け、昔話として洗練されていくことでしょう。

あいさつ-ライオンの物語 E
作/羽仁進・絵/あべ弘士・英語/ヒロコ・タウンゼント(光村教育図書)
 「あいさつは人間だけがするのでない、動物たちだってとても丁寧にあいさつをするんですよ。」と、ライオンを含めたたくさんの動物たちのあいさつを紹介しています。動物同志の暖かいぬくもりが感じられて、心地よい絵本です。英語の併記があるものの、日本語の方がより細やかに表現されているように思います。