E-娘(12歳) & R-息子(9歳) & S-say-umi

1月の本棚

 今月はこども達が面白そうな本をたくさん借りてきたので、睡眠時間を削る毎日です。なにせ今回息子が借りてきた本は児童書から外れており、読むのに体力と時間を要するものが多いのです。一方の娘は先月読んだ『鬼の橋』に続き、伊藤遊さんの作品『えんの松原』を借りてきました。そのついでに近くの棚をあさったのでしょう。「い」がつく作者の本をたくさん借りてきました。「いぬいとみこってどんな人だっけ。」と聞かれて、「ながいながいぺんぎんの話を書いた人じゃなかったかな」と答えると、裏表紙を見て「あぁ知ってる、これも、あれも知ってるわ。」とけっこう読んでいる様子。その他は斉藤洋さんの作品もみられます。斉藤さんの作品は今までにもたくさん読んでいて、「この人の本なら安心だから」借りるのだそうです。近くにいた息子に、ズッコケ三人組シリーズの那須正幹さんも安心なんじゃない?と聞いたら、「あぁ、あれは読み過ぎて飽きちゃった。なんでもそうなんだよね。最初にバーッと続けて読むんだけど、そのうちに飽きちゃう。ドリトル先生もそうだったじゃない。」なるほど、最近はズッコケシリーズを借りてきません。今は、三国志を読んだ影響でしょうか、宮本武蔵、織田信長など歴史中の英雄伝に夢中です。
 
息子の要請により『火の鳥鳳凰編(角川書店)』を夜寝る前に読みました。は、「それ、寝る前には向かない本だよ。早く読み終わってよ。」と、不満げでした。確かに、心の奥底をさらうような内容で心をかき乱されるため、心安らかに寝るという雰囲気にはなりませんね。
 ところで、今月、小学校高学年以降大人の方々に私からお勧めしたいと思うのはアニタ・ローベルの自伝「きれいな絵なんかなかった」です。『毛皮ひめ』で緻密な迫力ある絵を描いている絵本作家のアニタ・ローベルは、ナチの迫害から生き延びることのできた数少ない子どもの一人でした。生きることで精一杯の子ども時代を過ごしたアニタが、夫のアーノルド・ローベル氏とともにつくった『りんごのきにこぶたがなったら』も、ぜひ読んでみて欲しい一冊です。

えんの松原 E
作/伊藤遊・絵/太田大八 (福音館書店)
 「鬼の橋が面白かったから、きっと面白いと思って借りてきた。この人、きっと平安時代が本当に好きなんだね。(娘談)」
 この本はゲド戦記を彷彿させる内容だった。人はなんとしても見たくない暗い闇を持っている。逃げれば逃げるほど、執拗につきまとう闇の恐怖にさいなまれる。しかし、あるとき勇気を持って闇に正面から向き合うと、意外なことに人は闇と手を取り合うことができる。何を隠そう、闇も自分の一部だからだ。そして、闇の存在を受け入れることにより、恐れは嘘のように消える。それならば始めから逃げずに正面から向き合えばいいだろうと思う。でもそれはどんなに困難なことだろう。怖いから逃げるのだ。怖くて、見たくないのだ。おぞましくて、振り向くことができないのだ。追いかけられて、追いかけられて、もう逃げる以外には考えられないのだ。そんなときに振り返るだなんて、できやしない。そこで必要なのは、やはり周囲の人々の助けだ。応援してくれる友達、見守ってくれる人々、そういった人々の思いがどれほど支えとなり、勇気を与えてくれることだろう。
 えんの松原では、闇の存在を平安期の呪いや恨み、怨念といったもので表現し、帝となるべき少年が闇と向き合い、その運命を受け入れるまでを描ききっている。

いればをしたロバの話 E
作/今西祐行 (金の星社)
 この題名は聞いたことがある! 耳にとても懐かしい響きで、娘から題名を聞いたとたんに、不思議な気持ちになった。きっと私は、幼い日にこの本を読んでいるのだ。読んでみれば、案の定、内容はさっぱり覚えていなかった。でも、まさしく私が読んだ本だと思う。なぜならば、感想が書けない。幼い日に読んだ本は、親しすぎて、感想が書けない。

超能力少年 東京ドーム怪事件 
作/佐藤真佐美・絵/関よしみ (ポプラ社)
 「これ、最後がダメ。なんなのって感じ。」息子が憤慨して言った。「言っていい?」とダメな理由を言おうとするのでとりあえずママにも読んでみさせてね。と私も読んでみた。なるほどと納得してから息子にダメな理由を聞いてみた。
 「これ、まだ始まってないよ。冒険が始まるかなぁと思ったらなんだかぎゃーとかぴーとかちょっとけんかして終わっちゃった。せっかくおもしろそうだったのに、この後続けて欲しい。題名もぜんぜんあってないの。東京ドーム怪事件なんて、なんにも関係ないよ。ちょっとこれ、もういいって感じ。」私が読んだ感想も、まったくその通りでした。登場人物が一通りそろい、そのつながりが少しずつわかってきたところでふと気がつくと、残りのぺージはもう厚さ数ミリしかなくなっていて、どんな結末になるのか不安になり、おそるおそる読み進んだら、意味不明で読むに耐えないクェー!ギャー!などの叫びが飛び交う中、何が起きているのかよくわからないうちに騒ぎは収まり、終わっていた。なんだったんだろう? 私には、この本の中に物語をみつけることができなかった。
 
息子と話していたら、こんな喩えが出た。「おいしそうな具をたくさん見せられて、これでどんなにおいしいみそ汁ができあがるんだろうと涎垂らして期待していたら、おわんの中に皮を剥いていない里芋や泥だらけのまま切った生のにんじんや棒のままの長ネギをつきさして、最後に冷たい水を張っただけでハイ出来上がり!って出された感じ。火にかけるどころか、味噌もダシもない。お椀を前に、途方にくれたって感じ。」
 鬼、鬼無里村、だいだらぼっち、たたら、結跏趺坐、こっくりさん、超能力、そういった興味をそそられる題材をこれでもかと用いているのだから、しっかりと練り上げたら最高におもしろい「物語」が生まれそうなものなのに、本当にもったいないと思いました。
 しかし、この本はずいぶんと読まれてきているのでしょう。紙は茶色く変色し、手あかに汚れていました。いったいどういった年齢層の人たちが好んで読むのでしょう。そして、読んだ方々はどのような感想をもったのでしょうか。