[時間知覚研究]



 知覚される持続時間の長さは,実に様々な要因によって変動します。一般に,刺激は,複雑で,変化に富み,大きいものほど時間が長く見えます。聴覚刺激の呈示時間は,視覚刺激の呈示時間よりが長く見えます。文字や単語などの場合には,意味が有るものより,無いものの方が長く見えます。当研究室では,これまで運動刺激を用いて時間知覚の研究を行ってきました。その結果,物理的には同じ時間でも,速度の大きい刺激ほど時間は長く知覚されること,ただし静止刺激は必ずしも最小とならず,低速の刺激よりも長く見えること,また静止刺激は時間が長くなるほど相対的に長く知覚されること,などを明らかにしています。この種の外的刺激の影響の他,記憶に蓄積された情報の量,不快・快といった感情,体内温度,性格特性,脳損傷,精神病理,薬物なども時間知覚に影響を及ぼすことが知られています。視覚における眼や聴覚における耳などのように,人間には時間を知覚するための明確な感覚器官がないので,我々がどうして時間を判断できるのか,どのようにして時間を評価しているのか,が問題となります。概日周期に関わる神経生理学的研究では,我々の脳内に精度の高いクロックがあることが知られています。そこで,それらの内的クロックが上のような短い時間を判断する際にも使用されているのか否かが問われます。確かに,スポーツや音楽など,優れた能力をもっている人達は,時間の判断が非常に正確にできるようです。しかし,上の実験が示すような時間知覚の歪みを見る限り,普段の我々の時間判断は全く信用できるものではありません。これらをみる限り,我々は精度の高いクロックを有しているようには見えません。そのことは,現代社会において時計がどれほど重要な役割を果たしているかということと無関係ではないでしょう。
 以上のような知覚研究の他にも, 心理学では様々な観点から時間について研究がなされています。例えば,時間概念に関する発達的研究,動物の時間行動に関する研究,タイムプレッシャなどの意志決定に関する研究,時間行動に関する異文化比較に関する研究などがあります。当研究室では,それらに関連した研究も幾つか行っています。



[関連文献]


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・田山忠行. (2012). 運動刺激と静止刺激に対する時間評価 ー異なる刺激と実験方法による比較ー. 北海道大学文学研究科紀要, 第138号,63−99. 

・Shao, Q. & Tayama, T. (2011.10). The effect of oddball events on time perception. 12th International Multisensory Research Forum (Fukuoka). (i-Perception, 2(8) 812.)

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・Saito, C. & Tayama, T. (2010). The mechanism of interval timing : Learning and generalization effect of inaccurate feedback. Proceedings of the Annual Meeting of the International Society for Psychophysics (Padova, Italy) (Fechner Day 2010).

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・田山忠行 (2000). 経験される時間と想起される時間の主観的印象. 北海道大学文学部紀要, 第102号, 91-105.

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・田山忠行 (1986). 多数条件下の比較課題による時間概念の発達的研究. 教育心理学研究, 第34巻,, 211-219.

・田山忠行 (1986). 集中的注意による時間評価に及ぼす空間的影響の減少. 心理学研究, 第57巻, 95-99.

・田山忠行 (1986). 心理的時間の研究(II) -Piagetをめぐる近年の時間概念の発達的研究とその問題点について. 信州大学教育学部紀要, 第56号, 53-62.

・田山忠行 (1985). 心理的時間の研究-同時性の知覚と心理的瞬間をめぐって.  信州大学教育学部紀要, 第53号, 27-37.

・田山忠行 (1984). ランダム光点運動パターンによる速度・時間・距離の評価. 信州大学教育学部紀要, 第51号, 81-92.

・田山忠行・相場覚 (1982). 時間評価に及ぼす空間的諸要因. Hokkaido Behavioral Science Report Series P(S), No.28.