―宮城県気仙沼市上八瀬の謎の石炭紀?三葉虫―  
 
 「宮城の地学ガイド」(宮城県高等学校理科研究会地学部会編)という本がある。この本の気仙沼市上八瀬に関しての頁には「上八瀬付近の河床には二畳紀(ペルム紀)より古い石炭紀の地層が露出しているかもしれず…」と載っている。だが、それに関する具体的な根拠は何も書かれてはいない。
 
 1976年(昭和53年)の秋、上八瀬において化石採取禁止区域を設けるための調査が行われた。その際に、市教育委員会の村上敏さんが細尾沢の支流、ミノケラ沢の礫岩より一体の三葉虫の化石を見つけた。そこから話は始まる。
 その三葉虫は黒色粘板岩礫の表面上に現れており、体長4.5cm、幅2.4cmほどの完全体ではあったが全体的に磨耗が進んでいて、頭部の頭鞍溝もはっきりとは分からない。
 2004年の3月から4月にかけて気仙沼のリアス・アーク美術館において、「小泉斎化石コレクションと気仙沼の化石展」が開催され、幸い実物を見ることができた。
 標本には「カミンゲラ?(正確にはクワミンゲラ?と記載されている)」となっているが、その標本は私には、胸部中軸や尾部の形状が、カミンゲラとは違うように感じた。それに石灰岩以外から、カミンゲラが出ているという話は今まで聞いたことがない。
 2006年、この標本のことを気仙沼の荒木英夫さんに質問してみた。荒木さんは、教育委員会からこの標本を借りて詳しく調べたそうだ。その結果、ペルム紀のものとは思われず、石炭紀の三葉虫に近いこと、全体的にカミンゲラに近いことがわかったという。

 問題はその由来だ。荒木さんは可能性として、次の4つを掲げている。
(1)上八瀬の上流に石炭系が分布している。
(2)ペルム紀にこのようなタイプの三葉虫が生き残っていた。
(3)他の場所で採集した標本を落とした。
(4)石炭紀の粘板岩の円礫を含んだ礫岩から出た。
                                  
        (写真提供:荒木英夫さん)
 
(1)は上八瀬から県境を越えた、岩手県側に石炭系が分布しているが、岩質的に異なる。
(2)はミノケラ沢には石灰岩に混じって黒色の粘板岩礫はたくさん見られ、上流に粘板岩層が分布している。だが、三葉虫を産した石はそれより黒くて光沢があり、やや硬いようなので、疑問が残る。何より、ペルム紀にこのようなタイプの三葉虫は、現在でも知られていない。
(3)は岩手県の石炭系に三葉虫を含む岩はあるが、一般に硬い頁岩なので、可能性は低い。
(4)は可能性は考えられるが、そのような礫岩はその後、数回の調査でも見つかっていない。

 (3)に関して言えば、これだけの貴重な標本だ。新聞にも載ったのだから、落としたのであれば名乗り出るだろう、という気がする。上八瀬のごく狭い範囲に石炭紀の礫岩層が分布している、という方が理にかなっているし、何より夢があっていい。

 この標本は、転石であることから、正式には報告されていない。当時の毎日新聞には、新種の三葉虫「ペルモクミンゲラ(ペルム紀のカミンゲラ)」として紹介されている。
 上八瀬は採集禁止区域なので、今後の教育委員会の調査の際にでも追加標本が得られればと思う。そしていつの日か、この三葉虫の謎が明らかになることを願っている。
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