木村葛南句集
  木村葛南(明治27年<1894>和歌山県生)
三椒の推薦の佳句好句。よんでアトランダムに集めたもの。
 
海山路(昭和38年古希を記念して出版)序文 田村木国(山茶花)

旅すがら八日薬師の餅拾ふ
耕耘機買ふが宿願鍬はじめ
初午の香具師にさくらを頼まるゝ
麦を踏む背に暮れ残る紀州不二
蛸買ふて淡路を去るや花曇
突然のストにうろ/\旅の春
滝しぶき時々かぶり椎の花
百間の畦塗り上げて野の朝餉
瀞ホテル河鹿の水に灯を落し
新緑や紀の川狭き此あたり
峰入りや植物図鑑ポケットに
滝見ゆとざわめく朝の甲板かな(勝浦入港)
雲海や勾玉形の山中湖
船は塗り舟は洗ふて盆用意
土佐訛仙台訛り鰹舸子
風呂焚の手伝もして避暑の客
浮き上がる海女に近きは他人の桶
行き違ふバスからバスへ夏蜜柑
流灯は野外映画の幕下を(紀ノ川祭)
手鈎提げ巡査も加勢鰤数ふ
床の間に知事賞を得し炭俵
大根を干して伊勢路の風強き
縦横に轍の跡や川涸るる
移されて外科病室の隙間貼る(妻入院)


続海山路(昭和五六年米寿を記念して)序文 下村非文

三八年
之よりは蝮の道と呪語唱へ
茣蓙敷けば早や蟻の這う秋の山
柿の枝に烏瓜とはまぎらわし
三九年
船窓に張り付く瀞の散り紅葉
餌を替え鈴虫一つ逃しけり
逃したる鈴虫啼ける床の下
四〇年
三日早や遠洋漁船母港発つ
魂ぬけし身は早春の野辺に立つ(妻逝く)
四一年
動くとも見えぬでで虫いつか居ず
四二年
梅早し真珠の育つ入江抱き
四三年
動中に静あり独楽のよく廻る
緑陰に凹みし砥石置かれあり
水打って総本山の門開く
四四年
巫女やめてパチンコ勤め春ショール
畦塗りを教へる老の泥まみれ
四五年
寄生木のみどり点々老桜
道おしえ日陰に入りて見失う
一輪車押して蜜柑の客送る
風呂にしむ梅選定の刺の疵
四六年
滴りのトンネルくぐり別館へ
バス降りてすぐまくなぎに纏はるゝ
四七年
 森白象氏が高野山第四七三世事務検校法印大僧正に昇進
笑はるゝほど着ふくれて高野行き
宝来山神社祭礼
ほろ酔の雇はれ弥宜や在祭
四八年
秋山路標高耳に感じつつ
四九年
焚く薪も蜜柑の枝やみかん風呂
鮨包む柿の葉取れば薄紅葉
五一年
剪定をはじめる蜜柑一と廻り
五二年
結局は牟婁路決る旅はじめ
他人の樹からむ南瓜を引き戻す
五三年
ジュース用缶詰用と蜜柑撰る
五四年
同窓も今は三人年忘れ
小包を解けば伊勢海老動き出す
木蓮の蕾は天を合掌す
鉦叩きかっぞへる毎に違う数
五五年
村中のニュース集めて日向ぼこ
初給料裾分け届く四月尽
触れ合へる音心地よき籠の茄子

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