![]() ![]() | |
|
|
「奇跡の馬」。彼の競争成績は、この名の通り、あまりに神秘的であった。 いや、彼の存在自体が普通で は、考えられないものであったのかもしれない。彼のような馬は今後出てくることは二度とないだろう。 彼の代表的なレースと言えば、なんと言ってもダービーである。 「音速の末足が炸裂!! 勝ったのはフサイチコンコルド!! いま! ひとつの競馬の常識が覆された!」 と言うア ナウンサーの実況は、余りにすさまじいものであった。 この実況は、彼がダービーを勝ったことだけでなく、彼 がターフを駆け抜けていた事を人々の脳裏に深く刻みつけるものとなった。 だが、そのような栄光を手にした彼 だったが、その道のりは平坦な物とは到底、言い難いものであった。 それはダービーの直前のオッズを見れば 良く分かる。わずか2戦というキャリアしか持っていなかった彼への人々の評価は、当然低かった。 新馬戦−O PEN特別を連勝しただけの馬が、3ヶ月の休養明けでの出走、 また中間も再三熱発を起こし、皐月賞やプリン シバルSと言ったレースを回避。また、このダービーの直前でも熱発を起こしていたのである。 だが、そのよう な状況で彼は、威厳あるダービーというレースを制したのである。 わずか3戦目にして。普通の馬では考えるこ との出来ない快挙である。彼は神に選ばれし馬であった。 それは直線での攻防を見れば理解する事が出来るだ ろう。 残り100Mの時点で、武豊騎乗のダンスインザダークの勝利は確信的に見えた。 しかしそこから一瞬で 彼らをしとめた末脚は、常人の考えの域を遙かに超えていた。 ゴール板を通過するときには、藤田騎手が高々 と拳を突き上げた後であった。 まさにそれは一瞬。フランスの航空機、コンコルドが飛んで行くようであった。 秋を迎えた彼には、もうダービー時の輝きはなくなっていた。 いや、ダービーと言う最高のタイトルを手に入れ たのと引き替えに、神からの恩恵が無くなっていたのかもしれない。 彼はごく普通のOPEN馬となってしまって いた。彼は輝いている瞬間までもが、ほんの一瞬のものであった。 |
|
|