王様の木


平成13年1月  守ゆう子


 現在中1の息子は、小学校の5年生くらいまで昆虫、特にカブトムシやクワガタに夢中だった。どこにどんな虫がいるか、よく知っていた。  家からほど近くにある林に、子どもたちが「王様の木」と呼んでいる木がある。大きなクヌギの木で、独特のにおいの樹液が幹からにじみ出ていた。それに吸い寄せられるように、いろいろな虫が集まってくる。
 夏休みになると、夜暗くなってから、家族全員で、ときには息子の友達も連れて、「王様の木」に虫取りに行った。各々懐中電灯を持ち、長袖長ズボンのいでたちだ。木の樹液が出ているあたりや、うろになっている所を照らすと、いるわいるわ、蛾、カナブン、ヤスデ、カミキリ、ゴキブリ、アリ……。そして、お目当てのカブトムシやクワガタがいると、子どもの声が輝く。しかし虫カゴに入れる手つきはこころもとない。ややおっかなびっくりである。
 家に帰って明るい所でながめ、「あ、ノコギリクワガタだ、こっちはコクワガタだ。ノコギリクワガタはねえ、土の中で1年も幼虫で過ごすんだよ、コクワはねえ……」と、講義を始める。そんな息子は昆虫博士に見えた。