1999年4月、5月、6月

土屋正道

恩人の 葬儀を知らず 泣く男

丸い背なぜる 四十の春

桜散り 陽差し強烈 トカゲの背

焼けた道瑞 キラリ輝く

先徳の 初体面の 印象を

昨日のごとく 語る老女

久しぶり 自由席の 空きなくて

2時間立ちて 帰京する夜

念仏は 如来あこがれ 我を堀る

先師示さる 竪の生活

電柱に 花咲く教え 闇をぬけ

感謝に生きる 老婆の輝き

いつまでも 社会を批判 人けなす

念仏めざすは 自己の改革

こんにちは 身知らぬ我に 声かける

僧侶の子息か 寺の木影で

夜汽車のデッキ 涼を求めて

年一つの 短かき出逢い ありがたし

友を訪ねて 念仏申す

やさしい光で ありたく思う

散る桜 別れもー時 念仏を

称えて信ず 再生の春

透きとおる 君の面影 美しい

我心境に 進境ありしか?

ブランコは 行きつ戻りつ 念仏で

向上目指す 落ちないように

引き戻される 春雨の汽車

真剣なれば 奇跡起こらん

2才の娘 わが背を洗う

初節句 かぶせてもらった 紙カブト

父に習いて 息子にかぶす

 

 

初授業 必要ないのに 緊張す

40になっても と惑う教師

歯をみがき 鏡を見れば 本日も

生かされしこと ようやく思う

実力の 以上も以下も ありはせぬ

御栄え表わす 御恵を乞う

只すらに 如来を呼びし 姿のみ

我役割と 覚悟を決める

ジーパンに ポニーテールの 若き母

春風の中 携帯電話

 

こう薬の においただよう 高崎線

一気に夏の 午後6時

泳ぎたい 南の島の 海想い

タ日をあびる 通勤列車

自らの 声聞き嫌け さす授業

初体面の日 生徒にわびる、

照りかえしさす 午後の陽光

太陽は 真正面より 我照らす

おでこヒリつく 生きてる証拠

ほほえめば 笑顔を返す 子は三つき

慈光たずさえ 荒海起えよ

念仏は 自己堀るノミと タ方に

ビール飲みつつ 思ってみる奴

ケガなくて 幸いだったと 言えたのは

車の修理費 見る前からか

だっこして せがむ娘に つかれきり

プールの帰り 車こすれり

念仏が 君想う時 沸きおこる

私のイッツ オートマティック

早朝に 湖畔の古宿 風呂あがり

4月なかばの 白梅の庭

白銀の 山脈に映ゆ 高遠の

全山染める 小彼岸桜

授乳中 鳥肌立って テキンパイ

夢の乳房に 浮かぶ血管 

老僧の 訃報を聞けり 五月雨の

音しめやかに 夜はふけゆく

我痛み 親身になりて 聞きし僧

弔う酒や 端午の節句 

おのが身の 不徳を恥じて 妻の手を

取りて泣く夜 風呂場を洗う

自からの ことで涙は 流すまい

誓いくずれし 五月雨の夜

心優しき 老友遷きぬ

念仏に すがりつく身の ナイーブさ

私をいやした 友を送る曰

カブト折る 外は五月雨 友しのぶ

明日は息子の 初節句

のりちゃんと 呼びし言葉に 微笑むは

観音力と 拝み涙す

酒でなぐさむ 友遷きし春

セミしぐれ 来年も来て 確かめん

言いし老友 五月に行きぬ

五月晴 新幹線の 車窓より 

老僧しのぶ 葬送の旅

明石焼 一緒に食えぬ さびしさよ

念仏称え 老友送る

若葉萠ゆ 鴇峠 葬列に

木もれ日あふる 初夏の昼過ぎ

初夏の陽差しが 輝きそえる

まなざしにふれ じっと見つめる

酒愛す 人を送れり 初夏の昼

神戸ビールで 供養の一献

園長の 死をいたみ 焼香す

桃色のほほ うつむく娘

神戸まで 日帰りできる 幸せを

感じぬ心 わびる葬送

老友ゆきぬ 若葉輝く

川くだり 2才の娘  心ゆれ

舟に乗らずの 長とろの旅

夢を見る 我を思いて 泣く女

笑う女が 好きとつぶやく

さざえ焼き 苦み楽しむ 晩ごはん

父母と語らい 酒をくむ夜

鶏鳴の 滝に向いて 念仏す

しぶきかかりて ここちよき朝

作務衣の父子 信楽めざす

風ぬける 渓谷ぞいの 散歩道 

ガ一ドレールに からむつる草

念仏は 金とヒマとを おしむなと

伝えし人を しのびて歩ゆむ

トイレより 山が映りし 田を眺む

造花をゆらす 涼風わたる

味は念仏 舌を清める

法蔵寺 念仏の声 とだえれば

雨音に似る かえるの鳴き声

信楽の 田園の寺 風呂上がり

手がとどきそう 今日は満月

埋め立てすすみ 湖水はかすむ

邪気のない 蛙つかむ手 三姉妹

信楽の寺で 娘をおもう

2人で守る 老僧夫婦

基という我が 下品を恥じる

あおがえる 平になりし アスファルト

いなかも車 増えし昨今

とぐろ巻く へビの横ふむ 父の足

自分の足もと 改めて見る

一味とは いかなる意味か 納得す

すべての現象 菩提の種なり

40の 誕生の日に 遺言す

迷いながらも 御名にすがりて

もう40 いつまでたっても 情けなし

フワフワ不惑 二児を授かる

観音堂 10年かけて 修善す

風雪にたゆ 萱葺きの屋根

空梅雨に 家族ドライブ 泣きわめく

娘あやして 渋帯の中

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