遊 行 柳
 ● おくのほそ道 本文
 又、清水ながるるの柳は、芦野の里にありて、田の畔に残る。此所の郡守戸部某の、此柳みせばやなど、折々にの給い聞え給うを、いずくのほどにやと思いしを、今日此柳のかげにこそ立より侍つれ。
       田一枚植て立去る柳かな
 ● ぼくの細道
 遊行柳? なんのこっちゃい? まあ知らなくてもいいが、話が進まないので簡単に説明しておこう。
 古歌に通じた人ならたいがいご存知の、西行法師に

   道のべに 清水流るる 柳かげ
      しばしとてこそ 立ちどまりつれ

と歌われた柳で、古来、歌枕の地として知られている。
もちろんただの柳ではない。故事来歴をたどると不思議な話に行き着く。
 その昔、遊行十四世大空上人がこの地を通ったところ、美人が現れて救いを求めた。この美人こそ朽木の柳の精で、迷って、要するに柳の幽霊になっていたわけだ。。そこで上人がねんごろに念仏を唱えると、静かに成仏した、という。
 つまり、仏法は、人間ばかりではなく、動植物にも及ぶという仏教説話である。
 もうひとつ、こちらは謡曲として伝えられている物語だが、ここでは坊さんが遊行十九世尊皚上人ということになっている。物語の中身は、上の話と似たようなもので、こちらは美人ではなく、老人が現れて、上人に道を教えたことになっている。

 いずれにしても、柳の精、つまりは幽霊の話だ。人間の幽霊は柳の下に出るようだが、どうやら柳と幽霊は昔から相性がいいのかもしれない。(^O^)

西行法師の上記歌碑。

蕪村の句碑。
   
柳散清水涸石處々
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